「カウンター」と「サイド攻撃」が主な攻め手だったインテルだが、スパレッティ監督の下でCL仕様のチームへと改造が進みつつある。新戦力のポリターノやナインゴラン、ケイタ・バルデらがハーフスペースを狙う新戦術は機能するのか?
ロシアW杯の真っ最中だった6月、インテルはサッスオーロからマッテオ・ポリターノの獲得を発表した。外から中に切り込んでのプレーを得意とするアタッカーで、冬にはナポリとユベントスとの間で争奪戦が展開された逸材だ。しかし彼の獲得は、ファンやメディアの疑問を呼んだ。左にはイバン・ペリシッチ、右にはアントニオ・カンドレーバという不動のウイングがいる。「ラフィーニャの完全移籍に四苦八苦している最中、これは必要なオペレーションなのか」と。
否、必要だった――。ルチャーノ・スパレッティ監督は彼のような存在を欲していたのだ。カンドレーバの代わりに右サイドMFで試され、縦への突破やカットインからのシュートなど多彩なプレーを披露。「1対1で相手を抜き、ボールを運んで方向も変えられる。こういう存在は昨季のウチにはいなかった」と指揮官は評価する。
その後インテルはラジャ・ナインゴラン、ケイタ・バルデまで獲得した。すでに移籍が決定していたラウタロ・マルティネスと合わせると、1.5列目から2列目をプレーエリアとする新戦力は実に4人。ポリターノの獲得を含め、ここには一貫した戦術上のテーマがうかがえる。つまり、ハーフスペースを効率的に活用して攻撃することのできる前線へと改良することである。
その試みは、実は昨季の中頃から始まっていた。序盤戦で堅守からのショートカウンターを定着させたスパレッティは、ある時期から攻撃時のポジショニングに手を加えた。ポゼッション時に、アウトサイドのペリシッチを中へと絞らせる。つまり相手CBとSBの間のレーンに置くことで、孤立気味だったCFマウロ・イカルディとの距離を縮めようとしたのである。ボルハ・バレーロで定着していたはずのトップ下をいじり出したり、カラモー(現ボルドー)の起用を試したりしたのも同様の理由であった。
結局昨季は形にすることができなかったが、夏の移籍市場を通して必要な人材はそろった。そして今季のリーグ戦序盤3試合では、意図通りに外からハーフスペースを突いて中へと攻撃をするようになっていた。
ポリターノは、夏の勢いそのまま開幕3試合連続で先発。第2節トリノ戦では、彼とペリシッチをやや内側に位置させる[3-4-3]システムを取らせる。そして中へと絞るポジションを頻繁に取ったペリシッチは、右クロスに合わせて先制ゴールを奪った。さらにイカルディが故障欠場した第3節ボローニャ戦では、戦術的な志向がもっと顕著に現れていた。
スタートは[4-2-3-1]だが、ポゼッションの際には前線に5人の選手を送り込む。左ではペリシッチが中へと絞り、空いたスペースにはクワドウォ・アサモアが上がる。前線にはペリシッチの他に、この日CFとして起用されたケイタと、距離を縮めてポジションを取るナインゴランがいる。ポリターノは右サイド、ただし中へと入って中央の選手たちとの連係を図る。
そして彼らは、いずれも流れの中から3ゴールを奪った。中に絞ったポリターノから、前線に飛び出したナインゴランにパスが通った1点目。ボランチのマティアス・ベシーノも交えたパスワークで崩した2点目。外からハーフスペースを経由し、最後はファーサイドにいたペリシッチがフィニッシュした3点目。いずれも昨季はなかなかお目にかかれなかった、流動的な中央での崩しによるものだった。
昨季のインテルで機能していたのは、後方から少ない本数のパスを繋ぎ縦を射抜く速攻と、サイド攻撃だった。しかし組織守備で連環を断ち切られると、たちまち手詰まり。イカルディも前線で孤立する他なく、攻めあぐねて勝利を逃す展開が多かった。より激しいプレー強度が要求されるCLへの挑戦ともなれば、そのままでは苦しいのは明白だった。それを覆すための陣容は整い、戦術上の道筋も立てることはできた。あとは、実戦でどうなるかだ。
久々のCL参戦も、第4ポットの宿命か、グループステージから死の組に参入。やはり勝負の鍵は、組織的でアグレッシブなボール奪取から、いかに素早くハーフスペースを崩す攻撃の形へと移行できるかにありそうだ。高い位置から激しいプレスをかけ、即座に攻撃のスイッチを入れることができるナインゴランや、個人技で敵を抜き去り数的優位を作り出せるポリターノやケイタらのクオリティをどれだけ戦術で引き出せるかがポイントだろう。スパレッティの腕の見せどころである。
Photos: Getty Images
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神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。