世界最強の2部リーグとも言われるチャンピオンシップに、胸躍る“奇人”が到来した。16年夏はラツィオを2日(!)、昨季はリールを開幕3カ月で退任した戦術家は、「指導したいとずっと思っていた」と言うサッカーの母国で、何を残すのか。
Marcelo BIELSA
マルセロ・ビエルサ
リーズ 監督
1955.7.21(63歳) ARGENTINA
“エル・ロコ”マルセロ・ビエルサは間接的に、これまでプレミアリーグにも影響を及ぼしてきた。愛弟子マウリシオ・ポチェッティーノはトッテナムを強豪へと成長させ、彼からの影響を公言するペップ・グアルディオラはマンチェスター・シティを率いてプレミアを席巻している。
名門リーズ・ユナイテッドの監督に就任した戦術家は、フットボールの母国で革命を目論む。「昨季の試合をすべて観戦した」と語る指揮官は、チームの戦力を的確に把握。7月末には、シティからレンタルでジャック・ハリソンを獲得した。細かいタッチのドリブルを多用しながら狭いスペースを突破することに長けたアメリカ育ちのワイドアタッカーは、イングランドのユース代表にも選出されるまでに成長。グアルディオラからのアドバイスもあり、ビエルサの指揮するチームへの加入を決めた。
彼のシステムにおいて特に鍵となり、上下に長い距離を走ることを求められるSB(ウイングバック)で期待されるのがトム・ピアース。リーズ下部組織出身の20歳は攻守に安定したプレーを武器に定着を狙っており、ビエルサのフットボールには欠かせないカードになるだろう。ユースチームでは左SBのポジションから8ゴールを決めるなど、アタッカー顔負けの得点能力も兼ね備える。
逆に絶対的な存在が不在の右サイドには、セントラルMFのコンバートも考えられる。また、アルゼンチンで「エンガンチェ」と呼ばれるトップ下のポジションにもこだわる指揮官にとって、昨季躍動したスペイン人MFサムエル・サイスは魅力的な選手となるはずだ。チリ代表時代(2007~11年)はホルヘ・バルディビアやマティアス・フェルナンデスのような天才肌をうまくチームに組み込み、戦術家でありながら南米的な創造性を忘れない柔軟性を示したビエルサには、両サイドへの供給と中央の崩しを担うアタッカーが欠かせない。チェルシーからレンタルで加わったルイス・ベイカーはエリア内への走り込みを得意としており、守備のバランスやフリーランでパスを引き出す能力を考慮すればトップ下での起用も悪くない。
地元の若い才能がそろったクラブという意味では、リーズはビエルサの力を引き出しやすい環境だろう。古豪とともに戦術家が狼煙(のろし)を上げる時、英国の伝統が残るチャンピオンシップにも新たな風が吹く。
Photos: Getty Images
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。