昨シーズン、国内外カップ戦躍進の一方でリーガでは7位に沈んだセビージャは、新たにパブロ・マチンを監督に迎えた。昇格組ジローナをトップ10に導いた43歳の新鋭指揮官には、結果とともにより大きな使命が託されている。
Pablo MACHIN
パブロ・マチン
セビージャ監督
1975.4.7(43歳) SPAIN
マチンがセビージャにとって重要なのは2つの意味においてだ。
1つは、プレースタイルを再構築する、という意味において。2年前、エメリが去った時にカウンターサッカーに別れを告げ、スペクタクルなパスサッカーを目指してサンパオリを呼び、次にベリッソを呼んだ。が、この方向転換は失敗。攻守の切り替えが速いアグレッシブなサッカーの担い手としてマチンが呼ばれることになった。ロングカウンターでもパスサッカーでもないハイライン&ハイプレスという第3の選択をすることに決めたわけで、新監督が失敗するということは、プレースタイルを確立するというプロジェクト自体が頓挫することになる。
もう1つは、クラブをCL出場を争う本来の居場所に戻す、という意味において。セビージャにとって卒業したはずのELを戦う今季はそもそも不本意なのだ。
だが、マチンが歩む道は険しい。昨季クラブ史上最高予算を組みながらCL出場権を逃したことで、今季は緊縮予算。ラングレ、ホアキン・コレア、エンゾンジにセルヒオ・リコまで売却を余儀なくされた。
さらに、カレンダーのハンディもある。7月26日、リーガ勢のトップを切って公式戦をスタートしたのは、EL予選2回戦から出場せねばならないため。出稼ぎのための親善試合とスペインスーパーカップを含め、移籍市場も閉まっていない8月に何と9試合を消化せねばならなかったマチンはいきなり正念場を迎えることになる。
一方、グラウンド上では新監督のサッカーが形になり始めている。ラインを高く保って前から激しくプレスをかけ、ボールを奪ったら真っ直ぐ相手ゴールを目指すサッカーは、ここ2シーズンほど緩慢なパス交換を見慣れた目には非常にスリリングに見える。スペクタクルさとは技の巧みさだけではなく、スピードにも宿っていることを再確認しているファンも多いだろう。3バックによってヘスス・ナバスやアラナといったサイドアタッカーは守備の負担が減り、少ないタッチ数でプレーできるロケ・メサやバネガは攻守の切り替え役を任されることで、それぞれ持ち味が生きそうだ。
ただ、マチンが求めるポストプレーができるCFはミランからレンタルしたアンドレ・シルバのみ。前線でロングボールをキープできなければ運動量を要求する彼の戦い方では、シーズンを乗り切れない可能性もある。3バックが5バックになった時、マチンの命運は尽きる――そんな気がしている。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。