SPECIAL

レアル・マドリーにこの男あり。フロレンティーノ・ペレスの謎

2018.08.28

『ディープスロート』著者・ディエゴ・トーレス過去インタビュー特別公開


世界屈指のメガクラブ、レアル・マドリーの裏の顔を暴くフットボリスタの人気連載を書籍化した『ディープスロート 内部情報が語るレアル・マドリー』。本書の“主役”と言っても過言ではないのが、会長フロレンティーノ・ペレスである。この男を知らずして、レアル・マドリーを知ることはできない。

そこで今回は、著者ディエゴ・トーレスがフロレンティーノの素顔を明かした月刊フットボリスタ第32号「レアル・マドリーを笑え」特集収録のインタビューを特別公開。これを読めば、『ディープスロート』もよりいっそう楽しめること間違いなしだ。


1 辞めさせられない謎

候補になる条件が厳し過ぎて、誰も会長選挙に立候補しない


――あなたはマドリディスタだから、(レアル・マドリーについて)批判的な記事を書くのは胸が痛むのではないですか?

 「そんなことはない。民主主義にとって社会にとって企業にとって組織にとって批判は必要だし避けることができないものだ。自分が書く記事には自信を持っている」


――レアル・マドリーの取材を始めたのはいつですか?

 「1997年のことだ」


――フロレンティーノ・ペレスが会長に就任する前ですね。彼がやって来たことで批判のネタは増えたのではないですか?

 「組織が大きくなればなるほど、良くも悪くも批判されるべきことが増えるものだ。フロレンティーノはレアル・マドリーを経済的に豊かにし、知名度を上げ、政治の世界との関係を深めた。フロレンティーノ以前の会長は、政界への影響度の大きさを自慢したりすることはなかった」


――彼は政界にいた経験もありますよね?

 「『ラ・セスタ』(スペインの民放)のインタビューで『政治家こそが天職だ』と言うのを聞いたことがある。彼は民主中道連合(※)に所属しマドリッド市議会で議員を務めていた。だが、政治では挫折しビジネスに転身しサッカー界にやって来た。企業やクラブから政治的な影響力を与える方を選んだわけだ」 ※フランコ独裁終了時(1975年)に民主制へと移行するために国王から政権を与えられた政党。現在はない


――ジャーナリストをする前はファンとしてサンティアゴ・ベルナベウに行っていたそうですが、スタンドの雰囲気は当時に比べて大きく変わりましたか?

 「あの頃のファンはもっと批判的だった。好きなこと嫌いなことをはっきりと表明していた。選手や会長に対して寛容ではなく、成績やプレー内容の悪さを我慢したりはしなかった。今のファンは従順だ。当時は観客席で外国人ファンを見かけることは稀だったが、今は欧州以外、中南米やアジアからも大勢がやって来る。レアル・マドリーのミュージアムはプラド美術館、レイナ・ソフィア美術館に次いでマドリッドで3番目に訪問者数が多いというのは驚くべきこと。その半数を外国人が占めている。今や世界ではマドリッドよりもレアル・マドリーの方が有名なくらいだ」

トーレス氏が「従順だ」と評する現代のファンたち


――フロレンティーノによってレアル・マドリーの名は世界に知れ渡った。

 「そうだ。ただ、彼によって世界一有名なクラブになった一方で、スペイン人のソシオからは遠ざかった。昔ソシオはベルナベウに自由に出入りし、オフィスを訪れ、選手に挨拶もできたし、もちろん練習も見ることができた。今ではどれも何一つできなくなった」


――ジャーナリストに対しても練習取材は禁止されました。

 「見られるのは最初の15分間だけだが、あんなものは“ 練習”とは呼べない。選手が三々五々出て来て、ストレッチしたり、冗談を言い合ったり、ちょっと走ったり、ボールを触ったりする。我われがいなくなってから本当の練習が始まる」


――レアル・マドリーが閉鎖的になっていることであなたのディープスロート(内部情報)に頼った情報の重要性も増したのではないですか?

 「自由な報道をするための唯一の方法だ」


――自由な報道とは?

 「会長の許可をもらう必要がない報道のことだ。もし君がクラブに都合の良い情報だけを流すのだとしたらそれは報道ではなく、プロパガンダ(宣伝)だ。そしてそのプロパガンダに従事しているジャーナリストですら監督、選手、クラブ職員に自由にインタビューすることは許されていない。最近レアル・マドリーの選手のインタビューをどこかで見たり、読んだりしたことはあるかい?」


――ラジオ番組には選手が出て来ることがありますよ。あとはクラブを通さない記者の個人的な繋がりでのインタビューでしょうか。

 「正面からは無理だ。ラジオに関しては特に名は秘すが、会長に都合の良い情報を流すのと引き換えに、シーズン中に監督や2、3人の選手が生出演するというラジオ番組がいくつかある。半年に1回15分間選手と話をすることは、そんな犠牲を払う価値のあるものだろうか? 聴取者への裏切りではないのか? 選手だってクラブに管理されているから本当のことを言わないに違いない。レアル・マドリーにとって情報とはそんなものに変わってしまった。ル・マドリーほど極端にコントロールする力は持っていない。例えば、バルセロナでも練習取材は禁止だが、選手やクラブ職員と話をするのは比較的簡単だ。レアル・マドリーほど会長を怖がっていないからね。バルセロナでは会長選挙はいつでも起こり得る。あそこでは会長の寿命は選手の寿命よりも短いのが普通だ」


――でも、レアル・マドリーでも会長選挙は4年ごとに行われますよ。

 「規定ではそうだ。しかしレアル・マドリーでは2006年を最後に選挙は行われていない。候補になる条件が厳し過ぎてフロレンティーノ以外、誰も立候補しないからだ。スペイン人でソシオ歴が20年以上あり、供託金9000万ユーロ(約117億円)をスペインの銀行の口座に用意しなければならない。君が立候補しようとしても日本の銀行の口座では駄目だ。スペインの有力銀行の頭取はほぼ全員、フロレンティーノと関係がある。だから君に金を貸して彼の対抗候補を擁立しようとは思わないだろう」


――立候補の条件を厳しくしたのはフロレンティーノ自身だと聞いています。

 「そう、2012年のことだ」


――選挙が存在しない体制を独裁と呼びますが……。

 「実質的にフロレンティーノは独裁者化している。クラブ理念としては民主的だとうたっているが、実際はそうではない」

レアル・マドリー会長フロレンティーノ・ペレス


2 11年連続売上高世界一の謎

偉業は政治家たちの助けがなければ成し得なかった


――しかし、フロレンティーノは良いこともしている。例えばレアル・マドリーを世界一裕福なクラブにしたのは彼です。

 「人類史上、最悪の独裁者たちでも何か良いことはしているものだよ(笑)。フロレンティーノは確かに良いこともした。クラブに大きな利益をもたらしたのは間違いない。ただ、そこには政府や地方自治体の“サポート”があったことは忘れてはならない。マドリッド市役所が土地の有効利用についての法令を変えたおかげで、旧練習場の土地の値段は何倍にも跳ね上がり、高値で売ることができた。超高層ビルが建てられるようにフロレンティーノが政治力を使って市役所を動かしたんだ」


――今4つの超高層ビル(45~57階までのビルが寄り合うように立っている)があるカステジャーナ地区ですね?

 「そうだ。これは“良いこと”だろうか? 誰のために?何のために?環境や景観のため?」


――新しい練習場は素晴らしい施設だと聞いています。カンテラーノにとっては喜ぶベきことなのでは?

 「バルデベバス練習場の建設はフロレンティーノの最大の功績だと思う。ただここにも政治の影がつきまとう。レアル・マドリーがあの土地を手に入れた時には、開発が禁止されている土地だったから非常に安かった。その後、法令が改定され、原野扱いだったものが市街地として組み込まれたのだ。フロレンティーノの偉業は政治家たちの助けがなければ成し得なかった。施設は素晴らしいよ。まるで5つ星ホテルのようだ。ただ、問題が1つある。なかなかトップチームに上がって来る選手が出ないことだ」

“メディアデー”に報道陣へと公開されたレアル・マドリーのバルデベバス練習場。奥にはカステジャーナ地区の超高層ビル群がそびえる


――その理由は何ですか?

 「若い選手に賭けるには勇気がいる。たとえ試合に敗れても使い続ける覚悟がいる。必ず育つことを信じて長期的な視点を持たなければならない。だが、フロレンティーノの価値観はそうではない。彼は短期的な目標を立て、すぐに成果を得たいというタイプのリーダーだ。こういう考えでは優秀なカンテラーノが出て来るのは難しい。もう1つの理由はビジネスに関することだ。カンテラーノでチームを作るということは、外から選手を買ってこないということだ。移籍数が減れば、売買によって発生するコミッションも少なくなる。そうなれば困る人たちがサッカー界にはいる。明確な必要性もなく機械的に選手を右左に動かす。商品が動けばお金が発生する。これはレアル・マドリーだけでなく今いろいろなクラブで起こっていることだ。スポーツの論理ではなく投機の論理で選手が動いている。もし君のクラブが、こうした仲介人の介入を許せば出費は当然かさむものの、ビジネスを活性化することができる。

 カンテラーノが上がって来ない3つ目の理由は、マーケティングやパブリシティに関するものだ。『スターを獲ってきた』と休みなく発表することは人気上昇に繋がる。例えば君のチームにカルバハルがいたとする。彼は非常に良い右SBだが、ダニーロを獲ってきて『欧州ナンバー1でいずれ世界一になる』と宣言することの方が、ファンに好まれるのだ。3000万ユーロを払うことにはなるが、ファンやメディアにもてはやされる。ソシオの大部分は選手獲得が大好きであり、それがカンテラーノのトップチーム入りを妨げることになる」

2015年に当時SB歴代4位の移籍金でレアル・マドリーに加入したダニーロだがレギュラー奪取には至らず。2シーズン後の2017年に現所属のマンチェスター・シティへ移籍した


――フロレンティーノの功績にはウルトラスを追放したというのもあります。これについてはどう思いますか?

 「フロレンティーノは15年間、彼らを利用してきた。ウルトラスは会長を支持し指示通り動いた。モウリーニョがいた3年間、サンティアゴ・ベルナベウのファンの彼に対する意見は割れていた。だが、南ゴール裏にいた彼らはモウリーニョを無条件に支持した。フロレンティーノはウルトラスと手を結び、支持を取り付けていた。モウリーニョが去り、用済みになってフロレンティーノは彼らの追い出しを決めた。だが、一部は残されて他のグループとともに『若者応援席』を占めることになった。無料チケットの見返りに彼らは会長、フロントの意に沿って応援歌を歌い、拍手している」


――なるほど裏があるんですね。フロレンティーノ会長はどんな人柄なんでしょう?

 「冷静で計算高い人間だ。公で言っていることと、プライベートの場で言っていることを使い分けている。と同時に、人当たりが良くて冗談好きな性格でもある。隣にいると笑わせてくれるよ」


――外から見るイメージとは違いますね。直接会ったことはありますか?

 「メディアとの食事会や遠征の移動中に一緒になったことは何度もある。電話番号を持っているから話をすることもあるし、メッセージのやり取りをすることもある。ウマが合うかって? 何でもコントロールしたいという欲望を抱いている彼と友だちにはなれない。友人ですら彼に従属することを求められるから」


――よく知っているんですね。

 「15年の付き合いだからね。妻と知り合う前からの知り合いだ。当時は彼をコントロールする夫人もいたし、自制心もあったが、夫人が亡くなりリミッターが外れている印象を受ける。自分のやりたいままに振る舞っている。15年前は限度をわきまえていた」


――とはいえ、あなたを出入り禁止にしたりはしていない。

 「出入り禁止に値するような記事を書いているつもりはない。クラブのイメージを傷つけたり、ある人物に法的処置を取らせるようなことはしていない。スポーツ面とマネージメントについて批判すべき時は批判しているだけだ。ある選手や監督を獲るべきではないと意見したり、ロッカールーム内で起こっていることを明らかにする行為が追放処分に値するとは思わない」


――ただ、クラブにとって都合の悪い隠したい情報なのでは?

 「レアル・マドリーは記者を出入り禁止にはしない。知っている限りでは出入り禁止にされたメディアは2、3社ある。私が『エル・パイス』の記者でなくWEB媒体の記者であればあるいは出入り禁止となっていたかもしれない。これは推測だが」


3 アンチェロッティ解任の謎

あの“平和”は、選手の裏切りによってもたらされたものというのが彼の解釈だ


――話は変わりますが、第一次フロレンティーノ政権(2000-06)は失敗に終わりました。辞任の言葉「選手を甘やかし過ぎた」というセリフはあまりにも有名ですが、その時のトラウマというか教訓がアンチェロッティのクビを切らせたとは思いませんか? 監督と選手が手を組んで影響力を持つのを恐れたというか。選手に対して大きな不信感を抱いているように見えるのですが。

 「フロレンティーノは基本的に選手のことを信用していない。野蛮な大きな子供だと思っている節があり、厳格に取り扱うべきだと考えている。かと言って監督のことを信用しているかと言えばそうでもない。サッカーにおける監督の重要性を理解していないのではないか。必要悪というくらいにしか考えていないのではないか、と思う。フロレンティーノが唯一気に入っていたのはモウリーニョだが、采配やプレースタイルを評価したからではなく、メディアや選手に対する厳しい接し方に共感したという面が大きい」


――第二次政権に入り失敗に学んだ彼は、当初スポーツディレクターにホルヘ・バルダーノを置き、自分は金儲けに専念する決心をしたかに思えます。ところがモウリーニョがやって来たことでバルダーノが解任され、モウリーニョが補強権を掌握することになる。そうしてモウリーニョが去ると、その補強権は会長自らが握ることになる。これはいつか来た道、銀河系時代の誤りをリピートしているように見えます。

 「その通りだ。唯一の違いは、今回の方がやり方が極端になっていて、ミスのスケールが大きくなっている」


――つまり前回よりも悪い。

 「『過去に学んだ』と口にしていたが、行動を見ているとそうは思えない。マネージャーとしてはより悪くなっている。彼の権限は今の方が大きく、クラブを支配する力も増大した。クラブのありよう、メディアとの付き合い方、FIFAやUEFAとの関係、審判団との距離の取り方について前回よりも知識を持っている。にもかかわらず、同じミスを犯し続けている」


――ファンを二分したモウリーニョが去り、アンチェロッティがやって来て“ラ・デシマ”(CL10冠目)が手に入った。戦争が終わりついに平和がやって来た。どんな会長でも大歓迎する状態だと思うんですが、フロレンティーノは満足しなかった。アンチェロッティのクビを切り、自ら再び戦争を勃発させてしまった。

 「フロレンティーノの認識は少し違う。あの“平和”は、選手の裏切りによってもたらされたものだということを彼は忘れなかった。モウリーニョが出て行かなくてはならなかったのは、選手が共謀して追い出したからであり、彼にとって選手は自身のプロジェクトを破壊した張本人だった。ラ・デシマは手に入ったが、モウリーニョと自分に対して選手が反乱を起こさなければ、その前のシーズンに獲れていたかもしれなかった、というのがフロレンティーノ流の解釈だ。みんなに好かれていたアンチェロッティへの彼個人の評価は決して高くなかった。だからこそCL決勝で敗れたら解任という筋書きができていた。アンチェロッティを続投させたのは、CL優勝監督のクビを切るわけにはいかないという政治的な判断に過ぎない」

就任初年度の2013-14にクラブ悲願のラ・デシマをもたらすも、翌シーズン終了後解任の憂き目にあったアンチェロッティ(中央)


4 ジダン途中就任の謎

船が沈んだんだ。目の前に浮いているものにすがるしかないだろう


――そのアンチェロッティ解任と同じくらい奇妙な決断だと思えたのが、ベニテスの後任にジダンを選んだこと。成績次第ではジダンは今季終了後にレアル・マドリーを出て行ってしまうかもしれない。ジダンの威光を利用したいとフロレンティーノが思うなら、もっと長期間にわたって賢く利用することもできた。それなのに途中就任という、数カ月間で威光を消耗させかねない選択をした。リスクが大き過ぎるとは思いませんか?

 「明らかなミスだ。彼は非常に保守的な人間で、会長のポストを危うくしないように慎重な決断をしてきた。ところがアンチェロッティ解任というミスを犯したために、そのミスを帳消しにするためにはさらに大きなリスクを冒すしかなかった」


――連載『ディープスロート』に書いていたように、会長のポストを救うために“救命胴衣”としてジダンを使ったということですか?

 「船が沈んだんだ。目の前に浮いているものにすがるしかないだろう」


――ただ、浮いていたのはただの木片ではなく、クラブのレジェンドです。

 「船長をアンチェロッティからベニテスに交代して船を沈めたのは彼なんだ。2015年12月の段階でフロレンティーノは、ベニテスの下では無冠に終わるだろうことを確信していた。選手も側近たちも下部組織の監督たちも異口同音にそう言っていた。ベニテスとともに船は沈み、フロレンティーノも死を待つ運命だった。サンティアゴ・ベルナベウの全員が彼に対してブーイングするのは明らかだった。ジダンを起用してその悲観的な空気を一掃する必要があった」


――そのフロレンティーノの思惑は達成されたと思いますか?

 「達成された。ファンはジダンを支持しフロレンティーノの決断を支持している。アトレティコ・マドリーに敗れた時(15-16リーガ第26節/0-1)、『フロレンティーノ辞めろ!』というコールやブーイングは確かに起きたが、少数派によるものだった。ジダン起用は悲観的な流れをストップし、楽観的な未来を見せているように思う」


――そのジダンのアトレティコ・マドリー戦後とラス・パルマス戦後の言葉は、選手に対して非常に厳しいものでした。温厚なイメージのあった彼の反応には正直言って驚きました。まるで3年目(ラストシーズン)のモウリーニョの会見を聞いているような錯覚を覚えたのですが。

 「私にも予想外だった。“親しみやすいモウリーニョ”という感じだったが、選手に全責任を負わせるつもりだったのか、よっぽど腹に据えかねたものがあったか。まるでフロレンティーノの考えを代弁しているかのようだった」


――そこなんですが、ジダンがフロレンティーノに代わって夏の不満分子放出の準備をしているようには見えませんか? このままジダンが選手を批判し続けることになれば、ファンはジダンを支持し選手に対して反感を抱くのは避けられないように思います。

 「不満分子の放出の準備は今に始まったことではないよ。友人のテレビコメンテーターやラジオ番組の司会者、新聞記者のいる御用メディアを使い特定の選手を批判するキャンペーンを張り続けてきた。そうしてその後の放出を正当化してきた。エジル、ディ・マリア、シャビ・アロンソ、カシージャスが出て行った今、標的となっているのはロナウドだ。イスコやハメスもそうなる可能性がある。ジダンはそのネガティブキャンペーンに手を貸す形になっている」


――となると、今年の夏は大規模な選手の入れ替えがあるのでしょうか?

 「そのプランはある。が、プランはしばしば現実とかけ離れているものだ。モウリーニョとマンチェスター・ユナイテッドは仮契約を結んでいる。となれば、不満分子を追い出す意味がそもそもなくなってしまう。ロナウドを放出する? では誰を獲って来る? 代わりになるような選手が今世界にいるだろうか? ネイマールを連れて来るのはモウリーニョを連れて来るくらい不可能に近い。ジダンが続投するかどうかはわからない。だが、ふさわしい後任がいるだろうか? 計算に長けたフロレンティーノにしても今は先を読むのが非常に困難な状況だ。フロレンティーノの本業である橋を架けたりトンネルを掘ったりするよりもサッカーチームを建設する方がはるかに難しい。フロントの中にはその能力がある者もいるが、フロレンティーノにはどうやら無理なようだ」


――最後の質問です。フロレンティーノが出て行けば、レアル・マドリーは変わるのでしょうか? もっと良いクラブになるのでしょうか?

 「フロレンティーノがいなくなればレアル・マドリーの前には新しい道が拓けることになる。ただ、だからといって後任の会長がその新しい道をちゃんと歩けるかどうかはわからない。1つはっきりしているのは、フロレンティーノ会長が解決策ではないということ。サッカーを知らない彼がスポーツ的な判断をし続ける状態では、レアル・マドリーに未来はない。彼自身の判断が次々と新しい問題の種になっていくだろうからね。今後、名目上の補強担当を置くこともあるかもしれないが、裏でコントロールするだけだろう。パラドックスというか、悲観的にならざるを得ないのだが、今のクラブ規定ではフロレンティーノの後継者自体が生まれようがない」


――そうして万が一フロレンティーノが選挙で落ちて新会長が誕生したとしても、その会長が無能であった場合には簡単に次の会長にバトンタッチするわけにはいかない。

 「クラブ規定が改正されない限り不可能だ。私の知るあの民主的なレアル・マドリーは失われてしまっているのだ」


――今日は長い間ありがとうございました。



<著者プロフィール>

Diego Torres
ディエゴ・トーレス

1972年、アルゼンチンのメンドーサ生まれ。マドリッドのコンプルテンセ大学法学部を卒業後、スペインの高級紙『エル・パイス』紙で働き始め、レアル・マドリー担当のエース記者を20年務めた。中立な報道姿勢が買われ、会長周辺から選手、職員まで幅広い匿名の情報源を持つ。匿名情報とはいえ内容は確かであり、クラブから“事実無根”等の訴えを受け出入り禁止になったことはない。著書に『モウリーニョ vs レアル・マドリー 三年戦争』(小社刊)がある。

『ディープスロート』出版記念特別公開コラム


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Photos: MutsuKAWAMORI/MutsuFOTOGRAFIA, Getty Images

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木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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