覚悟を決めた選手でないと、広島ではやれない。足立修(広島・強化部長)
【短期集中連載】広島を蘇らせる、城福浩のインテンシティ 第四回
今年で16年目。広島の生き字引の1人であり、2017年において関係者で最も胃が痛い思いをした1人だろう。立場上、ネット上で最も叩かれた1人かもしれない。
足立修(あだち・おさむ)氏。京都・神戸を経て2002年に強化部スカウトとして入団、強化部長代理兼スカウトを経て2015年3月から強化部長に就任した。足立氏の発言にも出てくるが、間違いなく「クラブのDNA」を持ち、体現してきた人物の1人だ。
2度の降格も、3度のJ1制覇も、そして昨年3度目の降格を辛くも免れた現実もすべて現場で目撃してきた。強化部でもチームでも最古参にあたる人物の言葉は、広島の強化ポリシーそのものだ。第四回は、そんな氏に現在の好調をどう捉えているか訊いた。(取材日・2018年05月30日)
城福さんのチームとは、対戦成績が良くなかった
――足立さんのことなので、この成績だからといってホッとしているところは一切ないと思います。
「おっしゃる通りまったく満足してないですし、後半戦に向けて順位や勝ち点はいったん忘れてゼロからやっていかないと。去年のこと(残留争い)もあるし、一寸先は闇だと思っています。Jリーグは戦国時代というか、どこが勝ってもまったくおかしくない。選手も監督もスタッフも、身が締まる思いでやっていると思います。悠長なことは言ってられないな、というのが正直なところです」
――中断時点で、2位FC東京との勝ち点差9。リーグのセーフティリードは「残り試合数=勝ち点差」と言われることもあります。中断時点で19試合残っていますから、その観点からも全然安心できないわけですね。
「中断期間に補強をするところも、監督が替わるところもあるでしょう。リーグ後半はまったく別のリーグ、という認識です。前半戦は忘れて、チームとして積み上げていく感覚でいます」
――前半戦の成績は予想外でしたか、それともプレシーズンを見てある程度予想できましたか?
「勝ち点に関しては予想外でした。ただ今年の入り方を見た時に、『もしかしたら上向くチームになるかな』という気はしていました。選手から『絶対に去年と同じ轍を踏みたくない』という思いを痛切に感じたんです。
去年、選手は迷っていたと思います。森保一元監督(現日本代表/五輪代表兼任監督)のやっていたフットボールから、ヤン・ヨンソン前監督(現清水)のベーシックなフットボールに変わった。ヨンソン監督は残留のために割り切っていたと思いますし、選手は勝ち点1の大事さをすごく感じたでしょう。残留できて、ホッとしたはずです。ただ、戸惑いがあった気がしたんです。
そういう観点から城福浩監督に来ていただいて、整理してもらう意図がありました。城福さんにはFC東京、ヴァンフォーレ甲府時代に対戦し、敵としてウチをどう分析したのか非常に興味がありました。城福さんのチームと広島は、対戦成績が良くないんです。いつもやられているイメージがあります。優勝したシーズンでも、城福さんの甲府には完璧にやられました(編集部注:2013年8月28日のJ1第23節、広島はアウェイで甲府と対戦し2-0で完封負け)。
城福さんは、外からサンフレッチェをしっかり分析されている方だと思ったんです。以前から仕事ぶりを拝見し、サッカーに対する向き合い方といいクラブ全体、チーム全体のオーガナイズ、指針に合う人物だと思っていました。織田秀和前社長(現熊本GM)からも、常に監督候補として名前が挙がった方です。
今季は、その方針がまさにフィットしているというか。選手に迷いがなくなり、『こうやっていこう』というベクトルが決まりました。プレシーズンにタイのチームに負けたりなどはありましたが、『今年はやってくれるかもしれない』という気持ちがありましたね」
城福浩は、4コマ漫画のように整理する
――広島は序盤いきなり札幌、浦和、鹿島、川崎、柏という難敵ぞろいの連戦でした。不安はありませんでしたか?
「カードが発表された時、正直『負けが先行するかもしれない』という危惧はありました。けれども、相手がどうあれ僕が思ったのは『まず我われサンフレッチェがどうあるべきか』です。
サンフレッチェらしさとは何か。目指すべきものを一致させ、前に進んでいくというのがクラブのスタイルです。フォーメーションだとかやり方とか聞かれますけど、まずはクラブとして目指すものがフィットするかどうか。
今までがそうじゃなかったわけではないです。ただ、何をするにせよ全員一致しないと前に進めない。石にかじりついてでも前に行く、束になってやっていく。ヨンソンさん、森保さん、ミシャ(ミハイロ・ペトロヴィッチ・現札幌)、みなそういうチーム作りでした」
――城福さんの特筆すべき能力は、どのあたりですか?
「具体的な問題解決能力ですね。問題はいろいろなシチュエーションで発生しますが、そこを4コマ漫画のように起承転結で整理し、わかりやすく選手にアプローチしています。選手たちは、スッと腑に落ちるんですね。悶々としたものが、なぜこうなったのか理解できている。
内容としては、ベーシックなところだと思います。ですが、そのベーシックなことを、トップの選手たちに腹落ちさせられる説明能力の高さ。子どもたちが聞いてもわかるような明快さです。これまで、なかなかそういった方はいなかったですね。選手を躍動させるわかりやすいアプローチ、かつ時に厳しさもあってメリハリがある。選手は、納得しやすい指導をしてもらっていると思います」
覚悟を決めた選手でないと、広島ではやれない
――足立さんは、いつから広島の強化部にいらっしゃるんですか?
「2002年シーズンからですね。今年で16年目です」
――選手を獲得する上で、ここは外せないという部分はありますか?
「『何が何でもサンフレッチェでやりたい』ということ。それだけです。新人選手も、移籍してくる選手もそう。『俺はここでやるんだ、サンフレッチェしかないんだ』という選手ですね。
迷いがあったり『ここに来てやった』という気持ちが少しでもあると、ウチの集団には入ってこられません。これは、今西和男さんが作られたサンフレッチェの伝統だと思います。関東のクラブに比べたら資金は潤沢にはないですから。『ここでやるんだ』という強い気持ち、這い上がるんだという気持ちを持っていないと。
吉田サッカー公園は、サッカーに集中できる環境です。逆に言えば、覚悟した人間じゃないとやっていけない。そこは重要なポイントです。これは僕だけでなく、クラブ全体の見解です。これから先も、クラブのDNAとして残っていくと思います。
ただ、『外に出て見えるものもある』と最近思うようになりました。森崎和幸・浩司や青山敏弘のように、ずっとサンフレッチェでプレーするのは素晴らしいこと。でも、時には外を見てきてもいい。親元を離れて、初めて親の気持ちがわかるというか。帰ってきた時に『サンフレッチェでよかったな』と思ってもらいたいし、外に行って広島に足りないものを持ち帰ってほしい。一度外に出ることに、マイナスの要素はないと思います」
――サポーター目線で見ると「練習場が街中にある方が有利なんじゃないか」と思ってしまいますが、一概にそうとは言えないんですね。
「ここにはここの良さがあります。雑音もなく練習に集中できる点では、Jの中でもナンバー1の環境でしょう。市内から1時間近くかけて往復することはコンディション面を考えたらどうか、と思う部分はあります。けど、どんな環境であれ『ここでやるんだ』という覚悟を持たないと、プロとしては絶対に成功できませんから。
我われはリーグタイトルを取ったチームであり、歴史も伝統もあるクラブです。もちろん、来てほしい選手には誠心誠意その旨を伝えます。だけど『じゃあ、入団してやる』という捉えられ方では難しい。すべての事情を伝えた上で、『ぜひやらせてください』と言ってくれた選手がチームにそろっています。そういう集団の方が団結しやすいと思いますし、それこそがサンフレッチェの強みだと思います。
あと、これは広島の土壌だと思いますが、来た選手はみな広島をすごく好きになってくれますね。街並みも人も文化も。関東人だろうが関西人だろうが九州人だろうが、みんな広島人になってくれる。人もお金も必要ですけど、それ以上に大事なものが広島にはあると思います」
――広島って、小さな国みたいに完成しているところがありますよね。美しい風景があって、街並みがあって、宮島や原爆ドームなど世界遺産もある。山と海が近いので、野菜も海産物も水も酒も美味しい。
「外国人もみんな広島のことが好きになってくれます。そこは、広島の強みだと思います。加えてプロ選手として一番大事なものが、サンフレッチェに伝統として残っています。それをまず、伝えていきたいと思います」
佐々木翔は、後半戦さらに良くなる
――今季の加入選手では、特に大宮アルディージャから加入した右SB和田拓也選手の活躍が目立ちます。獲得の発表は比較的遅かったように思いますが、いつから目をつけていたんですか?
「彼のことは東京ヴェルディ時代から知っていました。ベガルタ仙台、大宮と移籍してからも見ていましたが、去年のアウェイ大宮戦で『いい選手だな』とあらためて思いました。非常にサッカーIQの高い選手だと思います。
もともとはボランチということもあり目立ちにくいですが、上がるタイミング、絞るタイミング、本当に僕の好みの選手でした。去年の途中で3バックから4バックに変更することになってSBが不足したのですが、補強候補として彼の名前は一番に挙げていました」
――どのタイミングでアプローチしたんですか?
「シーズンが終わってからですね。シーズンが終わるまで、翌年のことは考えられなかったので。ただ、今思えばあの時、J2に落ちた想定はまったくしてなかったです」
――それは「落ちるはずがない」なのか、それとも「そんな想定はするつもりがなかった」ということですか?
「もちろん『現実に起きてしまうかも』という頭はありましたし、会社と予算の擦り合わせはしました。けど、J2に落ちた時の算段はまったくしてなかったです。この立場としてはダメだと思うんですけど、イメージがなかったんです。
シーズン終了後、まず城福監督との契約を決めました。城福さんは、和田選手がU-17時代に年代別代表で見ていたので話しやすかったですね。これは工藤壮人もそう。城福さんは代表・甲府・FC東京とやられてきた。柏好文、稲垣祥、パトリック、佐々木翔とは甲府で一緒にやったイメージがあるし、丹羽大輝や青山とも協会やトレセンで間接的に絡みがある。監督・選手ともお互い、まったく知らない仲ではない。そこはアドバンテージがあったと思います」
――ある種、外部パートナーを監督として招へいした感覚なんでしょうか?
「そうだと思っています。うっすらとお互い知っている存在。何度も対戦しているからどういうサッカーをするかもわかるし、選手も腹落ちしやすい。ただ記者会見で知ったんですけど、広島では城福さんになるまでに過去に他チームを率いた日本人監督はいなかったんですね。言われて初めて知りました」
――なるほど。他にも、2年間を靱帯断裂のリハビリに費やした佐々木翔選手が、左SBで劇的な復活を遂げました。SBでの起用は予想していましたか?
「できるとは聞いてました。けど、取り扱いに関しては城福監督の方が詳しいですから監督に任せました。もちろん今まで3バックだったので、ウチでSBでは起用していません。和田のようなクレバーな選手、佐々木みたいな強い選手が両SBにいるのは強みだと思います」
――それぞれに個性がありますね。
「佐々木はこの2年間、非常に苦しい思いをしたので、今シーズンに懸ける思いの強さはわかっていました。復帰直後にこの連戦は、しんどかったと思います。ただ、この前半戦の結果は、佐々木が自分と向き合いながらリハビリを続けたことへのご褒美なんじゃないかなと。前半戦で身体が慣れてゲーム勘が戻ったと思うので、本当のスタートは後半戦だと思っています。これからの彼には、さらに期待したいですね」
勝ち点1差の残留が、非常に大きかった
――この連戦は移動含め苦しかったと思うんですが、結果を見ると上々の成果です。昨年の上位チームにほとんど勝利を収めた理由は、どのあたりにあると分析されていますか?
「そうですね、上位チームと序盤に当たったことは大きいと思います。上位チームは、自分たちのサッカーをどう表現するかをまず考えます。しかも相手のホーム。我われを研究するより、自分たちのサッカーをどうするかを考えてたんじゃないかと思います」
――ということは、後半戦に彼らが広島のホームに乗り込んでくる時は……。
「いろいろ対策を講じられるでしょう。我われは前期、まずはしっかりディフェンスから入りました。失点ゼロで抑えられた試合が多く、自信になりました。コンディションについても池田誠剛フィジカルコーチに来てもらって、『やれば結果が出る』という成功体験がついていったのかなと思います。
特に珍しいことはしていないし、ベーシックなことしかやっていません。当たり前のことを当たり前にやる集団でいますし、そうでないと上にはいけない。それを再確認できたと思います。今後も、さらに当たり前を積み上げていくことに終始すると思います」
――広島が前半戦終了時点で首位にいることはある種、全チームに対する批評的な要素もありますね。昨年は低迷し、今年は監督が代わったばかり。にもかかわらず、ここまでの成果を残した。「Jリーグの伸びしろは、まだまだあるぞ」ということを示していると思います。
「やはり、基本が大事なんだなとあらためて思います。当たり前を当たり前にやるのは、言うのは簡単だけど難しいですよね。とはいえ、まだまだ足りないと思っています。何が当たり前かはわからないですけど、ベーシックなことに向き合って後半戦も行けたらと思っています」
――スポーツにおけるベースはまずフィジカルだと思います。池田さんを呼ばれたのは、城福さんのリクエストですか?
「最初に、僕がリクエストしました。松本良一フィジカルコーチが、東京五輪でプレーする日本代表チームに招集されたこともあって。あとは勤続疲労もあって昨シーズンはキレがなかったし、オフも少ないシーズンが積み重っていました。そういうタイミングでフィジカルコーチを代えるにあたり、キャリアを積み重ねた人がいいと思っていたので監督にお願いしました」
――池田誠剛フィジカルコーチについて詳しくは他記事に譲るとして、メンタルの部分もすごく充実しているように思います。メンタル面で、何か特別なアプローチをしたことはありますか?
「特別に何かはやっていません。ただ、去年のJ1残留は大きいと思います。厳しい1年だったけど、しっかり目の前のことを真摯にやっていればこういう現実が起きると。人事を尽くして天命を待つ、じゃないですが。
去年の体験と、今年に入っての1戦1戦の成功体験が、メンタルを充実させているのかなと思います。去年は勝ち点1差でなんとかJ1に残った。チームは、勝ち点1の重みが身にしみたはずです。さらに今年はディフェンスを真剣に突き詰め、『失点しなければ負けない』ということを学んだと思います。後半戦で下向きになりそうになっても、去年と今年の蓄積がそうはさせないのではないかと。いろんな体験をプラスに変えている、と僕が胸を張って言える選手たちです」
――確かに昨年J2に落ちた新潟、大宮、甲府は今季、いずれも苦しいスタートでした。甲府は、最終節で紙一重で降格しています。残留争いのダメージを、引きずった部分はあるのかもしれませんね。
「他チームのことはわからないですが、勝ち点1差で残留したのは非常に大きな経験だったのかなと。それはシーズン終わってから言いたいと思います、まだわからないですから。あくまで現時点での仮説に過ぎないので、そういう年末にしたいなというところです」
青山敏弘の選出は、チームが認められた証
――キャプテン・青山敏弘選手の復調は感動的ですらあります。「紫熊倶楽部」を読むと、昨シーズンの試合はほとんど覚えていないほど精神的に追い込まれたとか。
「彼にとっても、昨年は悶々としたシーズンだったと思います。現役生活で一番苦しんだ年かもしれません。2016年には森崎浩司が引退し、オフには佐藤寿人が移籍した。キャプテンとして、気負いがあったはずです。そして7月には成績不振で森保さんもいなくなった。彼は自分にプレッシャーをすごくかける子なので、非常に苦しんだと思います。
勝ち点1差でJ1に残ったのは、彼にとっても大きな経験だったと思います。そして、悶々としていた部分は城福監督が来て整理できた。去年は単にがむしゃらだったのが、今はピッチでの役割、キャプテンとしての役割、ピッチ外の役割、すべて整理できたんじゃないかなと。青山だけでなく林卓人も、千葉和彦も、水本裕貴も、丹羽も、柴崎晃誠も、この年代の選手はみんなそうでしょうね。
加えて、池田さんのフィジカルトレーニングで走る大事さも再認識できた。近年はACLがあり、遠征があり、クラブワールドカップもあったりして、オフにほとんど休めなかった。プレシーズンで追い込むこともできませんでした。サッカーにおけるフィジカルの重要性をもう一度認識できたと思いますし、彼らもベテランとは言わせない頑張りをしてくれています。
そうなると、若い選手が『オレたちも頑張らないと、まだまだ足りない』となって、すごくいい循環ができていますね。そんなチームの象徴として、青山の代表選出に繋がったのかなと。チームとして、非常に喜ばしいことだと思っています。あと半年、これを続けることが大事です」
――ロシアW杯が終わって次の監督になった時、広島の選手が何人入るか楽しみですよね。
「若い選手にも良い選手がたくさんいるので。野上結貴も稲垣も柏も、川辺駿も吉野恭平もそう。『頑張ったら認められる、代表に選ばれる』ということをあらためて見せてくれました。チーム内の影響は大きいと思います。目の前に良い手本があるということを、若い選手にあらためて示した。クラブの底上げもできたのかなと思っています。
青山は作陽高校の時代に例の『幻のゴール事件』がありました。ウチに入団しても2年間ずっとケガをし、けれど3年目でミシャが来てからグンと伸びて北京五輪代表候補に選ばれた。しかし五輪の最終予選の最終節で骨折して、チームもJ2に降格、五輪本戦からはメンバー落ち。でも、そこからまたグッと上がって来た。
リバウンドメンタリティの強い子です。今回の代表に選ばれたことで、もしかしたら『これは彼のキャリアにおける最終章なのかな』という思いもありました。けど、アクシデントもあって結局は外れてしまった。彼は僕がスカウトした選手で、付き合いは長いです。その立場からいうと、『彼のキャリアに、もう1つ良いドラマが起きるんじゃないか』と思っています。
もしかしたら、本人もそう思っているかもしれません。これまでも山あり谷ありのキャリアでしたから、次のステップのために受け止めてほしい。谷があれば、山があります」
――ひょっとしたら、この落選をきっかけに青山選手の現役生活が伸びた可能性もありますよね。
「間違いなくそう。みんなと一緒に頑張れるキャプテンであり、チームを象徴する選手です」
スタジアムが建つまで、J1に居続ける。
――そういう意味で、川辺駿選手には踏ん張ってほしいですね。磐田から戻ってきて、主力として期待されながらここまで十分な試合出場ができていない状況です。
「『苦境を乗り越えたらこうなれる』という見本が、近くにいるわけですから。駿には『いい選手』ではなく、相手にとってイヤな選手、チームにとって大事な選手になってほしい。まだ若いから、いろいろなことを経験してほしいですね。試合に出ることはもちろん必要ですが、それは磐田で十分経験した。本人がこの状況をどう受け止め、どう変化するかが楽しみです」
――現状、右サイドMFを柴崎選手と争っている形です。柴崎選手はもちろん非常にハイレベルなプレーをしていると思います。が、それは戦術的な素養であったり柔軟な状況判断であったりと「頭の中身」の部分。川辺選手がまったく追随できないわけではないのかなと。
「おっしゃる通り、その部分でいい先輩はたくさんいると思います。青山もそう、千葉もそう、サッカーIQが非常に高い。水本の経験だって、(林)卓人からも学べるところは大きい。駿も含め若い選手はいろいろな先輩から吸収して、次の世代に表現してほしいです」
――プレシーズンまで「今季は川辺駿のチームになる」と、誰もが考えていたと思います。乗り越えてほしいですね。
「駿が帰ってきたことで、他の選手にも化学変化が起きました。『簡単にはやらせないぞ』と。そういう経験を積み重ねて、チーム力が上がっていくのだと思います。ウチは潤沢な資金はないし、ビッグネームを呼べるような環境ではない。チーム内競争こそが、最大の補強だと思っています」
――今後、どういうチームにしていきたいと思っていますか?
「そこはね……去年を見て、『目の前の現実をしっかりしないといけないな』と思ったんです。だけど、やっぱり我われにはスタジアムの問題がある。新スタジアムができるまで、僕らはずっとJ1に居続けないといけません。
もちろん中・長期的な計画はあります。川辺、吉野だとか、若手の森島司や松本泰志含めていろいろな選手がいます。けど、僕の立場として言えるのは絶対にJ1に居続けることです。サンフレッチェを愛する仲間たちで、J1に居続けたい。その仕事しか、僕にはないかなと思っています。
『サンフレッチェを愛するメンバーで』という言い方には、中長期的な視野も入っています。育成とか言っている場合ではないと思われるかもしれませんが、我われは育成のクラブです。サンフレッチェを愛するみんなで力を合わせて、J1に残り続ける。我われは中四国唯一のJ1クラブであり、我われは広島です。広島が広島であり続けるために、J1に居続けなきゃいけません。
今回、J1に残留できたことでこういう成功体験を積めています。ビジョンのないやつだ、と思われるかもしれませんが、J1にいる大切さをあらためて思い知りました。それがないと、サンフレッチェは中・長期を考えられない。J2に落ちていいことは1つもありません。サンフレッチェを愛するすべての人間でJ1に居続ければ、中・長期的ビジョンを見ていただけるのかなと思います」
【短期集中連載】広島を蘇らせる、城福浩のインテンシティ
第一回:城福浩の時計は、2016年7月23日で止まっていた(前編) …8/7
第二回:城福浩が語る、選手育成。「ポジションを奪うプロセスこそ、成長」(後編) …8/8
第三回:稲垣祥、「連続性」のモンスター。広島を動かす中盤のモーター …8/9
第四回:覚悟を決めた選手でないと、広島ではやれない。足立修(広島・強化部長) …8/10
第五回:GK林卓人(広島)。寡黙な男が語る、雄弁なプレーのすべて …8/13
第六回:池田誠剛は、城福浩を男にしたい。「正当な評価がされなければ、日本の未来はない」 …8/14
第七回:池田誠剛が語る、広島。「ここにいる選手たちを鍛え上げたい」 …8/15
Photos: Daisuke Sawayama, Takahiro Fujii, Getty Images