Twitterの戦術家たちが暴くベルギーの策略。ブラジル対ベルギー リアルタイム分析レポ
「優勝予想は……やっぱりブラジルですね」
W杯特集のテレビ番組に出演する多くの解説者たちがそう述べていた。
しかしどうだろう。サッカー王国はベスト8であっさり敗北した。ブラジル全国民の夢を打ち砕いたのは、決勝トーナメント1回戦で日本を、後半ロスタイムの逆転弾で破ったベルギーだった。
彼らはいかにして、優勝候補筆頭のブラジルを撃破したのか。
前回王者ドイツをメキシコが下し話題となった一戦の、ツイッター上での戦術分析をまとめた「twitterの戦術家たちがメキシコを丸裸に。ドイツ対メキシコ リアルタイム分析レポ」に続く第2弾を、私サッカーアナライザー(@_socceranalyzer)がお届けする。
【キックオフ 日本時間7月6日 27:00】
ブラジルのスターティングメンバーはGKアリソン、DFは右からファグネル、チアゴ・シウバ、ミランダ、マルセロ。MFはフェルナンジーニョ、パウリーニョ、コウチーニョ。3トップは右からウィリアン、ガブリエウ・ジェズス、ネイマールだ。基本フォーメーションは[4-3-3]。累積警告によりカセミーロが出場停止となるが、その代役がフェルナンジーニョと優勝候補にふさわしい豪華なメンバーがそろっている。
一方のベルギーは、GKクルトワ以下アルデルワイレルト、コンパニ、フェルトンゲン、ムニエ、フェライーニ、ウィツェル、シャドリ、デ・ブルイネ、エデン・アザール、ルカクという顔ぶれ。日本戦からの変更点としてシャドリ、フェライーニがスタメンに抜擢された。これまでの基本フォーメーションは[3-4-2-1]。ボランチの位置で起用することが多かったデ・ブルイネは、この試合では1列前のシャドーでの出場が予想された。前線のデ・ブルイネ、アザール、ルカクの高速カウンターは世界トップレベルだろう。
定刻となり、いよいよキックオフ。すると開始早々、twitterの戦術クラスタから驚きの声が上がった。
デ・ブライネが1トップに居る
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
グループステージや決勝トーナメント1回戦の日本戦では、デ・ブルイネを3列目に配置していたベルギー。この起用法に関して、ツイッターの戦術クラスタの間では“デ・ブルイネは前にいる方が怖い”という意見が少なからずあった。しかしながら、まさか1トップとは誰も予想していなかったのだ。
デ・ブライネをトップに置いた451。マルセロが上がって居なくなったスペースにルカクをぶつけるということか
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
またこのデ・ブルイネの1トップ起用に伴い、これまでCFだったルカクを右ウイングに移動。SBは他のポジションに比べれば小柄な選手が多い。そこに身体の大きな選手をぶつけて質的優位で勝ろう、というアプローチは近年、確かに増えてはいる。とはいえ、この大一番でこの采配は驚きを与えた。こうしてベルギー代表監督ロベルト・マルティネスは、試合開始からブラジルに揺さぶりをかけてきた。しかし、ベルギーの策略はそれだけではなかった。
ポゼッションしてる時は普通の343なんだよな。ルカクがトップに居て。デ・ブライネ1トップの451は守備~ポジトラのためだなやはり
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
徐々に見えてくるベルギーの実態。ボール保持時はこれまでと同様[3-4-2-1]だが、ボール非保持の際には[4-3-3]に。右ウイングバックのムニエは最終ラインに下がって右SBとなり、左ウイングバックのシャドリは左インサイドMF、左CBのフェルトンゲンは左SBにスライドする可変型フォーメーションだ。
そして、このベルギーのシステムにブラジルが対応する前に、ベルギーの先制点が生まれる。
きたああああああああああああああああああああ
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
ただし、この夜のベルギーはこれだけでは終わらない。デ・ブルイネの位置取りが少し下がり目であることが増えていき、さらなる考察がなされていく。
守備時451でルカクを右に出してる&セットプレー守備に自陣に戻らせないのはブラジルに対してカウンターが最大の得点機と見込んでるからで間違いない。ポゼッション時はルカク真ん中の343なんだし
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
ドイツvsメキシコ以来の楽しい夜になりそうで非常に高まっております
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
まさにドイツ対メキシコのメキシコを彷彿とさせる“戦術アタック”が炸裂。タイムラインからは、戦術クラスタが嬉々として楽しむ様子が伝わってくる。もちろん、サッカーに詳しくない方にも楽しめる試合展開だ。
その後は拮抗した展開が続いていく。なかなかポゼッション時に決定機を得られない両チーム。
デ・ブライネ1トップの451で守備。デ・ブライネはただ前に居るだけでなく、プレスバックで守備参加&奪ったらカウンターの起点として働き(ベルデニック大宮のノヴァコヴィッチロール)、ブラジルのSBが上がったスペースをアザール&ルカクで殴るベルギー。カウンターに命賭けてきた
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
そんな中、ベルギーが追加点を挙げる。日本戦のように、相手CKからの高速カウンターが発動した格好だ。
ベルギーすげーわ。「私はまだ変身を残している」でその通りぶん殴り抜けちゃう感
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
2点を奪われてしまったブラジル。プライドに懸けて絶対に負けられないセレソンは、攻勢を強めていく。しかし、そこに立ちはだかるのがGKのクルトワだ。
【前半終了 日本時間 7月6日 27:47】
ハーフタイムにはベルギーを讃える声があふれるとともに、後半のブラジルにどのような変化が必要か、意見が飛び交う。
ここまでのベルギーはお見事。これは優勝候補ですわ…
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
ベルギーが非常にタクティカルな戦いを見せている事に感謝したい。ドイツvsメキシコ以来のとてもとても楽しい夜になった
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
【後半戦キックオフ。日本時間 7月6日 28:02】
後半開始から、ブラジルはウィリアンに代えてリバプールのフィルミーノを投入する。
フィルミーノ投入でどう変えるのか
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
ジェズスを右SHにしてネイマールとフィルミーノを並べた442か
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
前半のブラジルは右SBのファグネルがあまり攻撃参加しないため、左サイドに攻撃が偏っていた。それを解決しようという意図もあるのだろう。さらに攻勢を強めるブラジルに苦しむベルギー。
右サイドに数的優位作って崩したブラジル。ベルギーも瀬戸際
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
【後半13分 ブラジル、ドウグラス・コスタ投入。日本時間 7月6日 28:15】
来たよドグラス・コスタ
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
右サイドでドウグラス・コスタの単騎特攻が頻発する。
厄介なのマルセロだなこうなると。ネイマールもドグラス・コスタもカットインしてくるから中央は厚く守ってればいい。問題は縦に行くマルセロ
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
で、マルセロを守備に追いやって消したいんだけど、肝心のルカクがミランダに封殺されているのでそうもいかなくなってるベルギー
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
ベルギーは前線右サイドに残るルカクがミランダに対応されてしまっており、左サイドでカウンターを狙うアザールが頼りとなりつつあった。ブラジルはそんなアザールを抑えるため、右SBのファグネルが守備に残ることをはっきりさせ、右サイドの攻撃をドウグラス・コスタに託したようだ。こうして、後半はブラジルも負けじと修正を施し戦術の応酬に。
ベルギーの戦術に対応していくブラジルが一方的に攻め立てる。しかし、またしてもGKクルトワの牙城を崩せない。
【後半31分 ブラジル、レナト・アウグストがゴール。日本時間 7月6日 28:33】
それでもなお攻め続けたブラジルは、73分にパウリーニョとの交代でピッチに送り込まれたレナト・アウグストがついに1点を決める。チッチ監督の采配が的中した。
ハーフスペースから逆ハーフスペースへのインスイングのクロスによる黄金パターン。流石である
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
ベルギーヤバいな。あと15分は相当厳しいぞ
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
圧倒的攻勢をかけるブラジル。非常に厳しい状況に陥るベルギー。
541だろうか
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
ベルギーの防戦一方が続く。こんな時、前線にキープでき、マイボールにしてくれる選手がいればどれだけ助かるだろうか。ルカクが沈黙する中、あの男が神がかっていく。
この土壇場で力を発揮する半端ないアザール。残り時間も少なく、体力もなくなっているだろう。にもかかわらず、何度もクリアボールを回収していく。
終了間際までブラジルにチャンスが訪れるが、しかし最後までクルトワが壁となる。
クルトワーーーーーーー!!!
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
このクルトワさんから2点を決めた日本代表はよく頑張った、と誇りに思えるほどの鬼神っぷりを見せ続けた。
【試合終了 ベルギー、ブラジルを撃破! 日本時間 7月6日 28:53】
終わったー!ベルギーおめでとう!おめでとう!
— 羊 (@GP_02A) 2018年7月6日
優勝候補筆頭だったブラジルを相手に、ベルギーが成し遂げた偉業に称賛の声がやまなかった。
○ ○ ○
翌日以降も試合の感想や分析、動画がアップされていった。
クルトワ(vsブラジル)
頭上を越すと思ったボールに手が届くリーチの長さ。だから前で勝負できる。
そして終了間際のこのプレーで窮地を救う。真骨頂。 pic.twitter.com/Hpc1M8Q6Nu— Rene Noric (@ReneNoric) 2018年7月7日
ベルギーの速攻
スペースへ走り出すムニエ、デ・ブライネ、ルカク。クルトワは「より相手ゴールに近い」「より広大なスペースへ走る」ルカクへスローイング。 pic.twitter.com/sIUotzYRbp— Rene Noric (@ReneNoric) 2018年7月7日
【ブラジル対ベルギー】名将による計画された戦術変更|スケゴー @sukego_fut|note(ノート) https://t.co/yKiWPqCv84
— スケゴー (@sukego_fut) 2018年7月7日
ブラジル代表は4年前に大敗したドイツ代表戦で突かれた弱点をまたもベルギー代表に狙われていた。反省してない。
— スケゴー (@sukego_fut) 2018年7月7日
ベルギー代表は、何度も何度もシステムを変えてブラジル代表に後手を踏ませ続けた。非常に戦術的に見どころの多い試合だった。
— スケゴー (@sukego_fut) 2018年7月7日
【シャドゥリロールと2得点目の布石となったルカク⇔デブライネがスイッチした場面】??はスカッドこそ3-4-3ですがシャドゥリがIHに絞ることで4-3-3陣形にシフトしたり、ルカクがワイドに開いたりして??に罠を仕掛け続けました?この場面の直後のカウンターでデブライネの鬼ミドルが決まります⚽️ pic.twitter.com/1N4aJgPuyL
— GIUBILOMARIO???? (@giubilomario) 2018年7月7日
【ルカクの配置・方向転換とデブライネの半端なさでブラジル撃退】
CKのセカンドボールを回収にルカクはハーフスペース位置。アザールとルカクの数的優位で1人抜く。大外にデブライネ達。ドリブルをマルセロ達へ方向転換。ボールウォッチャーの瞬間にデブライネ達はスイッチオン。デブライネがズドン! pic.twitter.com/1nP4NGBJPu— サッカーアナライザー(図解分析ブログ) (@_socceranalyzer) 2018年7月8日
ベルギーが数々の戦術を仕掛けて、ブラジルに、人々に驚きを与えた。そしてブラジルもただでは終わらずに戦術の応酬を見せ、観る者をワクワク、ドキドキさせてくれた。
彼ら一人ひとりの能力は世界トップレベルであり、テクニック、キック精度、巧みなトラップを見ているだけでも楽しめる。
ただし、サッカーはそれだけだはない。そこに隠された戦術が見えれば、より サッカーの魅力を感じることができるのではないだろうか。
Photos: Getty Images