現場で感じるオランダサッカー
ワールドカップは28日にグループステージ全48試合が終了。29日からはいよいよ決勝トーナメントに突入する。一方で、4年に一度の大舞台に立つことができなかった強豪国はどうなっているかというと……。
※この記事はワールドカップ開幕前に執筆されたものです
今季の私は森岡亮太(ベフェレン→アンデルレヒト)や久保裕也(ヘント)らを追うため、オランダとベルギーを頻繁に行き来した。5月に入ると、ベルギーでは国内のシーズン終了の寂しさとW杯への盛り上がりを同時に感じることができた。W杯にまつわる雑誌・新聞の特集に、スーパーマーケットやガソリンスタンド(ベルギー、オランダではコンビニの役割を果たしている)におけるベルギー代表関連商品の陳列だ。ビール、清涼飲料水、ワイン、お菓子など、「赤い悪魔」のシンボルや選手たちがパッケージとなって売られている。
翻って、私の住むオランダにW杯を感じるものはまったくない。スーパーマーケットに行っても、オランダ代表を連想させるものは当然のことながら皆無。オランダではもう完全にサッカーはオフシーズンに入ったのだ。その象徴が、5月末から始まった代表ウィークだ。オランダ代表はスロバキア戦、イタリア戦ともにアウェイで戦った。協会にとって、オランイェがホームでやる商業的なメリットはほとんどなかったのだろう。
昔のことを懐かしがっても仕方がないが、ドイツW杯を1カ月後に控えた06年5月、マルコ・ファン・バステン監督率いるオランダ代表とフォッペ・デ・ハーン監督率いるU-21オランダ代表が、アマチュアクラブのスタジアムにあふれんばかりのファンを集めて練習試合を行ったことがある。A代表のみならず、U-21カテゴリーも当時は大人気だったのだ。あの時買ったオランダ代表の切手シートは、今も私の家のどこかに眠っているはずだ。
W杯やEURO直前の最後の親善試合は「W杯壮行試合」として華々しくアムステルダム・アレーナやスタディオン・フェイエノールトで開催されるのが常だった。あの熱気と喧騒はすっかり昔話だ。
「オランダ人にとってのW杯はフランスだ」
オランダ人は自転車とテニスが大好き。この夏、ツール・ド・フランスではトム・デュムラン、ウィンブルドンではロビン・ハーセやキキ・ベルテンスの応援に夢中になるはずだ。
また、現在オランダはまるで90年代の日本のような空前のF1ブームである。マックス・フェルスタッペンはオランダ人にとって“F1におけるヨハン・クライフ”なのだ。夏は欧州各地でレースが開催される時期だけに、彼らがテレビに釘づけになるのは間違いない。
今回のW杯にはエールディビジの選手も数多く出場する。イランのアリレザ・ジャハンバクシュ(AZ)、モロッコのハキム・ジエク(アヤックス)とカリム・エル・アフマディ(フェイエノールト)、メキシコのイルビング・ロサーノ(PSV)らの活躍を楽しみにしているオランダ人もいることだろう。
しかし、「オランダ人にとってのW杯はフランスだ。そこで優勝するのだ」という声も聞こえてくる。それは来年夏に開催される女子サッカーのW杯。欧州女王のオランダ女子代表こそが、オランダサッカーファンの希望なのである。
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。