Twitterの戦術家たちがメキシコを丸裸に。ドイツ対メキシコ リアルタイム分析レポ
文 ジェイ
フットボリスタをご覧のみなさま、はじめまして。「ジェイ」(@RMJ_muga)と申します。2018 FIFAワールドカップ ロシア大会が開幕してはや10日。みなさん、眠れぬ夜をお過ごしではないでしょうか。私も寝不足です。
ワールドカップのグループステージと言えば「両チーム慎重になって意外と盛り上がらない」というのが相場ですが、今回は開催国ロシアの開幕大量得点やスペイン対ポルトガルの壮絶な打ち合いなど、見ごたえのあるゲームが多数展開されています。
中でも、特にネット界隈を賑わせたのが、17日(日)に行なわれたドイツ対メキシコの試合。前回王者ドイツが初戦で敗れるという番狂わせもさることながら、メキシコが展開したドイツ対策に大きな注目が集まりました。
当然、その模様はフットボリスタが運営するサロン「フットボリスタ・ラボ」でも大きな話題に。試合後の、この五百蔵容さんのツイートを見た浅野賀一編集長が、
「ツイッター上の戦術分析過程をレポートしてみよう」という提案をしたことで、僭越(せんえつ)ながら私が記事を担当させていただくことになりました。
それでは、熱狂の18日深夜、市井(しせい)の分析家たちが試合を紐解いていく過程を振り返ってみましょう。
【キックオフ 日本時間6月18日 00:00】
この試合のドイツのスターティングメンバ―はGKノイアー、DFラインは右からキミッヒ、イェロメ・ボアテンク、フンメルス、ブラッテンハルト。守備的な中盤にケディラとクロース、2列目にミュラー、エジル、ドラクスラーを並べて、1トップにベルナーという豪華布陣。基本形は[4-2-3-1]となりますが、ここからボールと敵味方の位置に応じて変化する王者のポジショナルプレー。
対するメキシコはGKオチョア、DFアジャラ、サルセド、ラジュン、モレノ、MFエレーラ、グアルダード、ガジャルド。FWベラ、エルナンデス、ロサーノというラインナップ 。出場選手の登録ポジションを見ると[4-3-3]に見えますが、率いるは予選でも複数のシステムを使い分けてきたオソリオ監督。メキシコがどういう形で迎え撃つかが注目されます。
試合開始直後から鋭いカウンターを見舞うメキシコ。そして早くも、戦術クラスタたちが、「メキシコが何か特殊な守備陣形を敷いているのではないか?」と考察を始めます。
あまりにも無防備にメキシコのカウンターにさらされている、ように見えるドイツ。幾度となくドイツの右サイドが破られる様に、twitter上でもメキシコの狙いについての分析が続きます。
メキシコはドイツのボールの位置によって可変守備採用してるな。通常451、クロースをマンツーで捕まえに行く4411、自陣ゴール前ではSH落として532かな
— 羊 (@GP_02A) 2018年6月17日
右→左のサイドチェンジも多いしなーメキシコ。意図的にドイツの右サイドを狙おうという
— 羊 (@GP_02A) 2018年6月17日
徐々に解き明かされていく、メキシコの狙い。
そして幾度となく繰り出さされるカウンター攻撃がついに成就。
メキシコの先制点により、メキシコの仕込んだ「罠」「戦略」の存在について一気に解析が進みました。
フンメルスとクロースをマンツーで抑えてボアテングにボールを持たせる。持ち上がらせる。その上で素早いトランジションからのカウンターを仕掛ければ、キミッヒの裏を突くこともできる、ボアテングの居なくなったスペースを突ける、フンメルスになら走り勝てる…そういうメキシコの思惑
— 羊 (@GP_02A) 2018年6月17日
凄い。かつてここまでレーヴのドイツを戦術的に叩き潰したチームは無かった。度々メキシコは欧州にはないアイディアをこうして披露してみせてくれるけど、このアイディアはどこから湧いてくるんだ
— 羊 (@GP_02A) 2018年6月17日
下記のツイートによる分析まとめは試合終了から半日後のものですが、これだけのことがリアルタイムで行われていたということに驚愕です。
【前半終了 日本時間 6月18日 00:47】
ハーフタイムで一息となりますが、興奮冷めやらぬタイムライン。分析が再整理されたり、個々の選手へのフォーカスも。また、ここまでの分析がデータによっても裏付けられていきます。
相手がマンツーで来た時に有効な動きはポジションチェンジ。だからクロースは左大外レーンに逃げたり、そこから右の大外レーンに大移動してメキシコのマンツーを剥がそうとしてる。でも、それはボールが奪われた瞬間に悪手となる。「攻撃をしながら守備を考える」ポジショニングからは逸脱しているから
— 羊 (@GP_02A) 2018年6月17日
ドイツがボールを失った瞬間、メキシコのカウンターに備えるために本来居なければならない場所にクロースが居ない。クロースの代わりにビルドアップをやらなければならないケディラも、ボアテングも本来の位置に居ない。だからメキシコのカウンターが面白いようにドイツに刺さる
— 羊 (@GP_02A) 2018年6月17日
【後半戦キックオフ。日本時間 6月18日 01:05 】
前半はメキシコの策にまんまと嵌められたドイツ。後半からどのように変えてくるのか注目されましたが、以外にも見た目に変化はなし。
この試合は、サッカーに詳しくない人でも十分に楽しめるスペクタクルがあったと思います。しかしやはり、サッカーについて、競技についてもっと知ることができれば、より深く楽しむことができる。大丈夫、戦術は怖くないよ…!
他国の素晴らしい試合を観るたびに、心の隅に悲しい思いが去来するのはなぜなのか……?
どうやらドイツは、リスクを承知でやり方を変えずに、相手が疲弊するのを待つようです。王者のプライドなどというものではなく、それで耐え切って逆転できるという計算でしょうか。
【後半15分ドイツ、マルコ・ロイスを投入。日本時間 6月18日 01:17 】
ここまで(ボールを保持しながらも)耐えていたドイツがついに動きます。
守備的なMFケディラに代えてロイスを投入。エジルをケディラがいたポジションに下げます。
クロースがマンツーで付かれてケディラが捌かなきゃならない。だったら捌ける選手をケディラの代わりに置いてしまおう作戦。だからロイスを前に入れてエジルをDHに下げた
— 羊 (@GP_02A) 2018年6月17日
最初から、もしくはもっと早くエジルをボランチ起用していればよかったのでは?という疑問も出るかもしれませんが、やはりメキシコの攻守の強度、特にカウンターの威力が落ちるのを待っていたのでしょう。
これでもうクロースがマンツー剥がすために無理に左右に動く必要もないから、ドイツのネガトラは安定してくるはず
— 羊 (@GP_02A) 2018年6月17日
エジルがDHに入ったことで、ドイツの右クロスに対してクロースがセカンド拾える位置にポジショニングできるようになってる
— 羊 (@GP_02A) 2018年6月17日
ドイツがじわりと圧力を強め、メキシコは耐える時間がいよいよ長くなってきます。
しかしこの「戦術カメラ」は素晴らしいですね……!
ちょっと誰が誰だかわかりにくくなる、というのはありますが、選手間の距離やフォーメイションがよくわかります。ゾーンディフェンスマニアの人などにはたまらないアングルですね。
戦術カメラの良いところは、ほぼピッチ全体が映っているので、GKが裏抜けに対してどんな準備をしていつ飛び出してるかがわかることだね。
DFライン裏のスペースをいかに守るか。 pic.twitter.com/EfW736hekb— Rene Noric???? (@ReneNoric) 2018年6月16日
また、普段は画面に映っていないことの多いゴールキーパーもしっかり追えますので、GKクラスタにもおススメです。
私もテレビにて通常視点で試合を観つつ、ノートPCでは戦術カメラを、スマフォではtwitterのタイムラインを追っていますので、まともに試合を観ているのか怪しい状況に陥っています。
左サイド9番のラウール・ヒメネスはカウンターのためにもできる限り前残りさせたいから532…でもドイツがゴール前まで侵入してきた時は守備に戻って541
— 羊 (@GP_02A) 2018年6月17日
【後半29分 メキシコ、ラファエル・マルケスを投入。日本時間 6月18日 01:31 】
全体の強度は落ちたものの、メキシコのカウンターはまだ死んでいない。メキシコは守備ラインを下げて撤退守備に移行しますが、ドイツは狙い通りに押し込みつつも、逆に追加点を奪われてもおかしくないシーンが何度も現出しました。
【後半34分 ドイツ、マリオ・ゴメスを投入。日本時間 6月18日 01:36 】
メキシコが自陣に撤退を選択した事で、自由を謳歌し始めたクロースとエジル。そして満を持して登場のマリオ・ゴメス。クロースとエジルが自由を得た事で、ボールは運べる。クロスは入ってる。後は上から叩くだけ。非常にロジカル
— 羊 (@GP_02A) 2018年6月17日
ゴメスを投入していよいよ仕留めにかかるドイツ。
しかしながら、メキシコの守り方が良いのか、それともパスにこだわりがあるのか、ドイツはゴメスを投入しながら、さらにはイェロメ・ボアテンクまで前線に上げながら、それほどクロスを上げてきません。
これには一部のtwitter民からも不満が。
ボアテングまで上がって放り込む準備は万全なのにクロスが上がってこない
— 羊 (@GP_02A) 2018年6月17日
【試合終了 メキシコ、ドイツを撃破! 日本時間 6月18日 01:50 】
メキシコの戦いぶり、気力や体力だけではないその戦術に惜しみない称賛が送られました。
メキシコの成し遂げた偉業に、その試合内容にあてられて、寝る予定がそのままブラジル対スイス戦まで行ってしまった方も多数発生した模様です。
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夜が明けてからも、続々と試合の感想、考察、分析、またはそれらの動画がアップされ続けました。
【ゴールキックを見れば、チームの意図が見える】
メキシコはタッチライン際のSBに当ててセカンドボールを拾う設計。ただ前半はCBが低い位置で2-4-4。ドイツの4-4-2にガチ合わせ。片方サイドに集めず深さと幅を広く。後半は1-0なのでCBを高い位置。ビルドアップのリスク避け、深さも幅もコンパクト。 pic.twitter.com/V1mpGW4fdf— サッカーアナライザー(図解分析ブログ) (@_socceranalyzer) 2018年6月18日
いかがでしたでしょうか?
サッカーという競技の魅力とはどういうものでしょう。
鍛え上げられたフットボーラーが、より早く、より強く、ピッチを走り、正確で強いボールを蹴る。気力を振り絞って体をぶつけ合う。
それだけでもサッカーは魅力的なものです。
しかしながらその一つの走り、一つのキックに隠された「戦術」の意図が見えた時に、さらなるフットボールの魅力が見えてくるのではないでしょうか。
Photos: Getty Images
Profile
ジェイ
1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。