日本の「数的優位を殺した」。コロンビアの柔軟性と守備戦術
コロンビア対日本 図解つき戦術分析
19日のコロンビア戦に勝利し白星発進を決めた日本代表。ただ、わずか3分で相手に退場者が出たうえにリードを得ながら一時は同点に追いつかれるなど、簡単な試合ではなかった。なぜ、日本は数的優位にもかかわらずゲームメイクに苦しんだのかを中心に、両チームの戦術的な攻防をブログ「サッカー戦術分析ブログ~鳥の眼~」で緻密な分析を披露しているとんとん(@sabaku1132)氏がレビューする。
2018年4月9日のヴァイッド・ハリルホジッチ電撃解任の後に誕生した、西野ジャパン。ここまでの強化試合の成績は1勝2敗、3戦目のパラグアイ戦では光明が見えたものの数々の課題を残したままロシアW杯初戦となるコロンビア戦を迎えた。
スターティングメンバーには、6月12日のパラグアイ戦にてゲームメイカーとして多くの好機を演出した柴崎岳、的確な状況判断とポジショニングで守備を支えた昌子源、攻守両面において他の選手との違いを見せた乾貴士らが名を連ねた。武藤嘉紀や岡崎慎司、本田圭佑や宇佐美貴史らは外れる形となった。
狂ったゲームプラン、予想外の退場劇
開始3分、両チームのゲームプランを大きく狂わせる出来事が起きた。カルロス・サンチェスの退場である。この退場劇については、コロンビアの試合の入りがあまりにも緩慢だったと言わざるを得ない。
ファン・キンテーロとファン・クアドラードが中央で連係をとりつつ左SBホアン・モヒカに展開。同時にポジションを上げていくが、この2人の動きにセンターハーフの2人は連動しない。これにより、香川真司がフリーでセカンドボールを回収可能な状態ができ上がった。さらに、香川へ寄せに出たのはセンターハーフではなくセンターバックのオスカル・ムリージョ。この状況を見た香川がすかさず裏にボールを送り込むと、大迫とダビンソン・サンチェスが1対1となるシチュエーションを迎えた。D.サンチェスからすれば、仮に体勢を崩しても誰もカバーする選手がいない状況だ。
カウンター対応におけるセンターハーフのフィルター役としての重要性は、先日波乱として扱われたドイツ対メキシコを観れば一目瞭然だ。試合の入りの集中力に関しては、日本が勝っていたと言えるだろう。このカルロス・サンチェスの退場により、両チームが描いていたゲームプランは大きく変化していく。
トップ下不在の影響、日本の対応
10人となったコロンビアは、トップ下のキンテーロをセンターハーフに落とした[4-4-1]に変更する。この「トップ下不在」が攻守にいくつかの重要な影響を及ぼし、日本の試合運びを楽にさせた。
①左サイドの連係の機能低下
コロンビアの攻撃のベースは、右サイドのクアドラードの突破、キンテーロの精度の高いラストパス、左サイドのホセ・イスキエルド&モヒカの連係から、ターゲットのラダメル・ファルカオを狙う形だ。このファルカオに当てるまでの手段の中で、10人となってしまった影響を最も強く受けたのが左サイドの連係だった。
ジローナ所属のSBモヒカは、周りを動かしながらボールを前進させる配球役として非常に優秀だ。この試合でも精度の高いパスを前線に何度か送り込んでおり、中央への切り返しで別の展開を図るクレバーな状況判断も見られた。しかし、トップ下のポジションが空白になったことでその脅威は半減。3人目の連動がなくなることで柴崎は中央のみ遮断すればよくなり、香川もバックパス対応に圧縮。数の利を活かした守備で封殺した。
②ファルカオの孤立
コロンビアの両翼はサイドに張っていることが多く、ファルカオの周囲にコロンビアの選手がまったくいない状態となった。日本にとってはクサビを入れられてもそれほど怖くない状態だ。そしてターゲットがファルカオのみとわかっていれば、パスカットのための予測、ボール奪取も容易となる。吉田と昌子のCBコンビは連係をとりつつ、コロンビアのエースに当てられたクサビを幾度となくシャットアウトして見せた。
地力を見せるコロンビア
日本は、基本的に2CBと2センターハーフの4人でビルドアップを行なう。これに対してコロンビアはファルカオ1人が対応する形だ。数字だけ見れば圧倒的に日本の数的優位であるにもかかわらず、ピッチ上ではコロンビアが苦もなく日本の攻撃を抑え込んでいた。
それはなぜか? 答えは単純、4枚でのビルドアップが機能を停止させられたからである。
注目すべきはファルカオのポジショニングだ。吉田と昌子はすぐ前方に長谷部と柴崎がいるため、ドリブルで持ち運ぶスペースがない。サポートが近過ぎるがゆえに、CBの2人が消えている状態だ。それに伴い、ファルカオはCB2人を放置。長谷部と柴崎の中間にポジションをとり、センターハーフ間のパス交換を選択肢から除外させた。パスの流れのど真ん中に巨大な柱を立てることで、パスの流れに淀みを生み出したのだ。
これにより、センターハーフが逆サイドに展開するにはCB経由の遠回りをする(U字パス)か、長いロングボールを蹴るしかなくなった。コロンビアは守備ブロックのスライドの時間を稼ぐことが可能となる。柴崎・長谷部への対応に関してもスライドが間に合うため、中を塞ぎきってからセンターハーフが距離を詰める。このようにしてコロンビアは日本の攻撃をしのいだのだ。
日本はこの「数的優位が殺されている構造」に気づかず、ひたすらにボールを回し続けた。両チームともプランは開始3分で破壊されている。日本の自滅状態ともとれるが、柔軟性・守備戦術の点においてコロンビアの地力の差を見せつけられる形となった。
クアドラードの交代
前半30分過ぎ、ホセ・ペケルマン監督が動く。右サイドハーフのクアドラードを下げ、センターハーフとしてウィルマル・バリオスを投入、キンテーロを右サイドハーフに移動させた。バリオスの投入により守備の安定を図ると同時に、孤立気味となったファルカオの補佐役としてキック精度の高いキンテーロを側に置く意図があったのだろう。
この交代は、それほど効果を発揮しなかった。クアドラードの持つ単独での打開力は、退場の影響で選手間の距離が広くなったチームにおいて大きな武器となる。さらに背後に抜ける動きでファルカオを助けることもできる選手だ。意図的であったにせよ、一つ大きな手札を捨てたと言えるだろう。セットプレーのキッカーとして優秀なキンテーロをピッチに残す意図はズバリ的中したが、左で連係のとれるモヒカと組ませ、ファルカオに加えクアドラードを大外のターゲットとする形を採用しても面白かったように感じる。
後半
後半、修正を施したのは日本。先述のビルドアップ時の4枚の位置関係が調整され、柴崎と長谷部の位置取りが高くなった。これによりボールの循環は明らかに改善し、数的優位を確実に生かせる状態となった。2点目に繋がったCKを獲得したシーンは、乾と連係がとれる高い位置までポジションをあげた柴崎が起点となっていた。
ポゼッションが安定した日本はいくつかゴールに迫るチャンスを作った。また敵を押しこむことでカウンターの脅威を半減させ、起点となる1トップを吉田と昌子で潰す。こうして前半よりもうまく試合を運び、確実に試合を締めてみせた。
課題
形はどうあれコロンビア相手に勝ち点3をもぎ取ったことは評価されるべきだろう。ただし、スコアに直結するミスがあまりにも多かった。例えば先制点のPK獲得に繋がったシーンも、結果的に退場&PK獲得という最高の形ではあったが、本来大迫が確実に決めておかなければならないシーンであった。強豪相手にそう多くのチャンスを作れないことが予想される日本にとって、こういったミスは死活問題だ。またキンテーロのFK弾に繋がるファウルの直前、長友が空高く打ち上げたクリアはもってのほかだ。
まだまだチームとして未熟な西野ジャパンはせめて、こうした明らかにスコアに直結するミスを減らさなければ今後勝ち点を重ねていくことは難しいだろう。今回獲得した勝ち点3を決して無駄にしないためにも、今現在できる事をピックアップし、チーム内で意識合わせをしていく必要がある。
Photos: Getty Images
Profile
とんとん
1993年生まれ、長野県在住。愛するクラブはボルシアMG。当時の監督ルシアン・ファブレのサッカーに魅了され戦術の奥深さの虜に。以降は海外の戦術文献を読み漁り知見を広げ、Twitter( @sabaku1132 )でアウトプット。最近開設した戦術分析ブログ~鳥の眼~では、ブンデスリーガや戦術的に強い特徴を持つチームを中心にマッチレビューや組織分析を行う、戦術分析ブロガー。