footballista Pick Up Player
ルイス・フィーゴやクリスティアーノ・ロナウドを筆頭に、優秀なドリブラーを次々と輩出してきたポルトガルの中でも、リカルド・クアレスマは異彩を放っていた。日本刀のような一瞬の切れ味と、南米人のようなトリッキーなフェイント。代名詞である「トリベーラ」と呼ばれるアウトフロントでのセンタリングは、DFの隙間に曲がりながら落ちる軌道を描く。しかし、特徴的なプレースタイルは彼の成功を阻むことになる。
スポルティングでの活躍を評価され、2003年に19歳で力試しに乗り込んだのはバルセロナ。だが、ライカールト監督がロナウジーニョやルイス・ガルシアを重用したことで出番を失い、母国のポルトに戻ることになる。2008年にはポルト時代の鮮烈な活躍を高く評価したモウリーニョの誘いでインテルに加入するも、守備貢献の少なさやオフ・ザ・ボールの動き、球離れの悪さといった弱点に足を引っ張られ、期待に応えられない結果に。「ハリー・ポッター」と呼ばれた男の魔法は簡単に解けてしまい、後輩のロナウドやナニーの活躍にクラブレベルで比肩することはできなかった。
スピード勝負から「タイミング」勝負へ
その後は様々なクラブを渡り歩き、現在はトルコリーグのベシクタシュでプレー。欧州の最前線から消えたと思われていた男は、ポルトガル代表が優勝したEURO2016でスーパーサブとして躍動する。後方に重心を置くポルトガルにおいて、高いテクニックと柔らかいボールコントロールで右サイドの起点として機能。正確なトラップで浮き球をコントロールし、敵に寄せられた状況でも丁寧に足下でボールキープ。足裏でボールを動かしながら相手を誘い込み、シンプルに味方を使う。ファウルを誘うのも巧く、難しい局面でも簡単にはボールを失わない。派手なプレーを好んでいた男とは思えない縁の下の力持ちとして、クアレスマはチームを支えた。
ベシクタシュでは、今季CLのバイエルン戦(ラウンド16)で孤軍奮闘のパフォーマンスを披露し、キレ味抜群の切り返しでドイツ代表CBフンメルスを突破してみせたように、代表と比べてアタッカー的なプレーが目立つ。前を向いて勝負することが求められるチームで、派手なフェイントやラボーナキックでのクロスボールを積極的に狙っていく姿からは、「チームにおける自分の役割」をよく理解していることがわかる。
トルコではいまだにトリッキーなプレーで対面するDFを翻弄し、容赦なくサイドを制圧する。相手をスピードで振り回すスタイルではなく、「焦って足を出すまで待ち、そこにタイミングを合わせながら抜いていく」柔軟なドリブルが近年の武器だが、テクニックはまったく錆びついていない。足裏でボールを引き寄せながらのダブルタッチや深いキックフェイントからのカットインは絶妙で、現在のクアレスマが好んで使う緩急をつけたフェイントだ。
ロナウドへ届け、必殺インフロントキック
さらなる伝家の宝刀は、正確無比なインフロントキック。ポルトガル代表ではロナウドの最高到達点にぴたりと合わせるようなアーリークロス、セットプレーでチームの得点源となる。同世代として最高のドリブラーを争った2人のホットラインは、ポルトガルにとって重要な武器だ。守備の意識も増しており、下がってのプレーも苦にしない。本人が「ピルロやギグスのように、長くプレーを続けたい」と語っているように変化を恐れず、新たなプレーを積極的に取り入れている。
円熟味を増すドリブラーは、指揮官フェルナンド・サントスにとっての切り札になるだろう。代表では地味な役割に徹しつつ、そのテクニックを勝負どころで繰り出すことができる経験豊富なウインガーのプレーはチームに良い影響を与えるだろう。ジェルソン・マルティンスやゴンサロ・ゲデスのようにスピードで勝負できる若武者たちとの交代で起用されれば、持ち味をさらに生かせるはずだ。フィーゴとルイ・コスタが挑んだEURO2004のように、ロナウドとクアレスマという2人の天才が集大成となる大舞台に挑んでいく。「代表の若い選手たちに、自分の経験をすべて教えたい」と語る魔法使いの意志は、ポルトガルの若き才能へと受け継がれていくだろう。
Ricardo QUARESMA
リカルド・クアレスマ
1983.9.26(34歳)175cm / 67kg PORTUGAL
PLAYING CAREER
2001-03 Sporting
2003-04 Barcelona (ESP)
2004-08 Porto
2008-09 Inter (ITA)
2009 Chelsea (ENG) on loan
2009-10 Inter (ITA)
2010-12 Beşiktaş (TUR)
2013 Al Ahli (UAE)
2014-15 Porto
2015- Beşiktaş (TUR)
Photos: Getty Images
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。