コロンビアは強力な“個”を活かすも欠点あり。ウルティモ・ウオモが徹底分析
ウルティモ・ウオモが暴く「日本の敵」の正体:コロンビア編
詳細な戦術分析でサッカー評論の新たな地平を開拓するイタリアの新世代WEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』は、日本の対戦国をどう分析するのか? そんなフットボリスタからの依頼に応えてくれたダニエーレ・マヌシア編集長がポーランド、コロンビア、セネガルに詳しいUU執筆陣をピックアップし、「日本の敵」の正体に迫ってくれた。前回大会で日本が完敗したコロンビアは南米予選で大苦戦したが、「個」のポテンシャルはやはり大きい。
今回の南米予選、コロンビアは最終戦での引き分けで勝ち点1を稼ぎ出し、最後の最後でロシア行きの切符をもぎ取った。しかしそれを理由にこのチームを過小評価することは許されない。「カフェテロス」の愛称で呼ばれるコロンビア代表にとっては、これが通算6回目のW杯出場。前回のブラジル大会では、コートジボワール、日本、ギリシャと同居したグループステージを首位(3勝)で勝ち上がり、ラウンド16でウルグアイを下した後、準々決勝で開催国ブラジルの前に涙を呑んだ。とりわけ、その際立ったタレントを存分に発揮したハメス・ロドリゲスの活躍が記憶に残る。4年後の今大会もベンチには、アルゼンチンU-20代表を3度の世界王者に導いた経歴を持つホセ・ペケルマンが引き続き座り、自身にとって3度目のW杯に臨む。
ペケルマンは今回、いくつかの異なるシステムを試しながら南米予選を戦った。[4-4-2]でスタートした後、中盤を3セントラルMFに変え、攻撃陣の顔ぶれに応じて[4-3-3]、[4-3-1-2]という2つのシステムを使い分けた。終盤になって、中盤を2枚に戻してシステムを[4-2-3-1]に固定したことで、やっとチームが固まり安定した結果を出せるようになった。このシステムで記録した1試合平均の勝ち点1.6、得点1.3、失点0.8という数字は、他のどのシステムをも上回るものだ。
攻撃の局面
Come attacca la Colombia
攻撃は低い位置からパスを繋いでのビルドアップが基本だ。2CBと2セントラルMFの4人が、スローではあるが質の高いパス回しで相手のプレスを引きつけ、敵の2ライン間にスペースを作り出そうとする。中央のゾーンにおける数的優位を確保するために、トップ下が中盤に下がってパス回しに参加することも多く、時には一方のSBが内に絞る場合もある。
このパス回しを通して敵第1プレッシャーラインの背後にスペースを見出すと、コロンビアはすぐに縦方向に攻撃を加速しようと試みる。敵中盤ラインを割る縦パスは中央のゾーンから、トップ下のハメス、あるいはセントラルMF(アベル・アギラル、カルロス・サンチェス)によって送り出される。受け手となるのは2ライン間に戻る動きをするCF、あるいは外からハーフスペースに入り込む動きをするウイングだ。この時にはCFファルカオがCBと駆け引きしつつ裏のスペースを狙う動きを繰り返して最終ラインを押し下げ、2ライン間にスペースを作り出す役割を担う。
アギラル、C.サンチェスという2ボランチは非常によく呼吸の合ったプレーを見せる。アギラルが数メートル前進して敵第1プレッシャーラインの背後に出ることで、後方でのパス回しに縦のパスコースを作り出そうとする。C.サンチェスは典型的な南米型のレジスタだ。動きはスローだが頭脳的なパスワークで興味深い攻撃の流れを作り出す。
この2人を欠いた時のコロンビアは、攻撃の局面におけるビルドアップでも、守備の局面における中央ゾーンのプロテクトでも、小さくない困難を抱えることになった。
敵が高い位置からプレッシャーをかけてきた場合、コロンビアは左右のSBを低い位置に留まらせることでサイドに組み立てのルートを作り出し、そこから敵SBと1対1の関係を作ったウイングに向けて縦にボールを展開しようと試みる。このサイド経由の組み立てはとりわけ、高いドリブル突破力を誇るファン・クアドラードをウイングに擁する右サイドで効果的に機能する。ただしクアドラードは今シーズン、慢性的な内転筋炎に悩まされて手術を強いられ、3カ月以上戦列を離れているため、本番にどれだけのコンディションで臨めるかは未知数だ。
敵が引き気味の布陣で中央を固めて2ライン間へのパスルートを閉じてきた場合には、中盤からいったんサイドに開いて、そこから裏のスペースを攻略するという選択肢も持っている。この場合はSBが積極的に敵陣に攻め上がってウイングと連係し、敵SBに対して2対1の関係を作ろうとする。両SBはいずれも高い走力を備えており、骨惜しみせずにオフ・ザ・ボールでオーバーラップを繰り返して、ウイングに選択肢を提供する。このオーバーラップでうまくマークを剥がせれば、ウイングがドリブルで縦、あるいはゴールに向かって斜めに仕掛けるし、もちろんウイングからSBにボールを送り込んでサイド深くからクロスというパターンもある。
攻撃の局面におけるコロンビアの大きな強みは、前線の4人が流動的に動くことで作り出す意外性だ。チーム最大のスターであるハメスは、最も高いテクニックの持ち主であると同時に最も直感的なプレースタイルを持ち、周囲のアタッカーとポジションを入れ替えながら前線を自由に動き回る。それに対し右のクアドラードは典型的なウイングであり、戦術的な対策が比較的取りやすいタイプだが、もちろんいくつかのバリエーションを持っている。ドリブルで縦に抜け出すだけでなく、2ライン間に入り込んでそこからコンビネーションで最終ラインを攻略しようと試みたり、あるいは直接ミドルシュートを狙ってくることもある。
CFのラダメル・ファルカオは180cmに満たない身長ながらも空中戦に強いのが特長で、ビルドアップが行き詰まった時にはハイボールを送り込むターゲットとしても機能する。しかし最大の武器はやはりその卓越したゴールセンス。コロンビア代表史上最多得点記録を持ち、ペナルティエリア内でどこにボールが来るかを察知する読みと勘の鋭さ、どんな体勢からでも正確にシュートを枠に収める優れたコーディネーションと左右両足のテクニックは際立っている。エリア内でのこぼれ球に対する反応だけでなく、タイミング良く裏のスペースをアタックしてハメスやクアドラードからスルーパスを引き出す動き、クロスに合わせてニアポスト際に飛び込み頭でフィニッシュするプレーなど、ゴールのパターンは多様だ。
ファルカオは膝の故障によって足かけ2年にわたる長期離脱を強いられていたが、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシーを経てモナコに復帰した昨シーズン以降、徐々に本来のパフォーマンスを取り戻してきた。ファルカオが不在で他のストライカーを起用せざるを得ない時、コロンビアの攻撃のメカニズムは明らかに異なったものになる。
予選で13試合3得点を記録したカルロス・バッカは、最終ライン裏のスペースをアタックするプレーを好んでおり、ゴールに背を向けてのプレーを苦手としている。とりわけDFにタイトにマークされた状態でそれが顕著だ。もう1人のCFミゲル・ボルハは逆に、2ライン間に下がって中盤でのポゼッションに絡むことで、背後にウイングやトップ下が入り込むスペースを作り出すプレーを好んでいる。
また、ペケルマンはセビージャでプレーするルイス・ムリエルを前線のすべてのポジションで試してきた。オープンスペースで前を向かせた時のスピードは特筆すべきレベルにあり、同時に高いテクニックの持ち主でもある。
どう守るか
Come si difende
コロンビアの守備戦術は、相手に応じて、そしてボールがピッチのどの高さにあるかによって異なる。南米予選でも、格上のブラジルとの2試合では、自陣の低い位置で相手を待ち受ける戦い方を選んだが、その一方でエクアドルのように格下相手の場合には、敵陣でのプレッシングによって高い位置でボールを奪おうと試みている。ハイプレスを行う時には、アギラルがハメスと同じ高さまで進出して4人の中盤ラインを形成し、その背後でC.サンチェスが2ライン間にとどまってフォアリベロ的な機能を果たす。この時の陣形は[4-1-4-1]。常にボールにプレッシャーをかけ、ボールホルダーの視野を遮ることでミスを誘おうとする。
この守備陣形は状況に応じて柔軟に変化する。敵をタッチライン際に追い込むプレスをかける時には、ボールサイドのプレーヤーがボールホルダーに向けて収縮することで密度を高め、同時に逆サイドのウイングが中央に絞って下がり気味に位置することで、インサイドMFのような機能を担う。これによって、敵が前線のプレスをかわして逆サイドにボールを持ち出した時にも、最終ラインをプロテクトすることが可能になっている。
4バックの最終ラインは敵FWをゴールから遠ざけ、またオフサイドポジションに置くため、高い位置を保とうとする。このリスクの高い守備戦術を採用できるのは、クリスティアン・サパタ、オスカル・ムリージョという2人のCBがスピードを備えているから。控えCBのダビンソン・サンチェス、ジェリー・ミナもその点では引けを取らない。アヤックスからトッテナムに移籍した今シーズン、アルデルワイレルトとフェルトンゲンの故障離脱もあってコンスタントな出場機会を手に入れ大きく成長したD.サチェスは、今やムリージョとレギュラーの座を争う存在になった。圧倒的なフィジカル能力の高さが時に過信を生むこともあるが、高い守備力に加えて高いテクニックを生かしたビルドアップ、そして時には敵陣まで進出して意外性を作り出すなど、攻撃の局面における貢献度の高さも注目だ。
一方、自陣に引いて守備ブロックを構築する時のコロンビアは、縦横双方向にコンパクトな4+4の2ラインを低めの位置に形成する。中央のゾーンを固めて敵の攻撃をサイドに誘導するのがその狙いだ。コロンビアのCB陣はそろって190cm近い長身で(唯一184cmのムリージョも際立った跳躍力を誇る)、空中戦に圧倒的な自信を持っている。
いかに困難に追い込むか
Come mettere in difficoltà la Colombia
各セクションに質の高いタレントを擁するコロンビアだが、チームとして見た時には欠点も少なくない。
[4-2-3-1]の両ウイングに極めて攻撃的なプレーヤーを起用するというアプローチは、攻撃の局面において大きなアドバンテージをもたらす一方、守備の局面に小さくない問題を引き起こす。両ウイングは帰陣が遅れがちで、敵の連係してのサイド攻撃に対して、SBに数的不利での守備を強いることが少なくない。サイドで数的優位の状況を作り出すことが、コロンビア攻略の上で大きなポイントの1つになる。
この数的優位は、アウトサイドレーンを使ってサイドをえぐるだけでなく、ハーフスペースを効果的に使ってSBとCBの間のギャップを突くことによっても生かすことが可能だ。この場合はウイングの帰陣が遅れたことによって生まれる敵2セントラルMF脇のハーフスペース活用が攻略の鍵になる。
CBペアは1対1のマークに強いだけでなく、オープンスペースにおいて敵FWに走り負けしないスピードをも持っている。彼らを困難に陥れるためには、ボール奪取後早いタイミングでサイドに展開することで、CBを外に釣り出すのが有効だ。もう1つ、サイドを深くえぐることで最終ラインをエリア内まで押し下げ、後方から走り込んでくるMFにマイナスのクロスを折り返す攻撃も効果があるはずだ。
■ ウルティモ・ウオモが暴く「日本の敵」の正体
・コロンビア編
・セネガル編
・ポーランド編
Photos: Getty Images
Analysis: Alfredo Giacobbe
Translation: Michio Katnao
Profile
ウルティモ ウオモ
ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。