相手の組織を壊す、多彩なドリブルとフリーラン
SON Heung Min
ソン・フンミン
1992.7.8(25歳) 183cm/79kg KOREA REP.
絶対的なエースとして君臨するハリー・ケインに加え、エリア内に侵入するスキルに優れたデレ・アリを擁するトッテナムにとって、もう1人のアタッカーはチームの攻撃力を増す重要な鍵だった。
韓国代表ソン・フンミンはオフ・ザ・ボールの能力と優れた判断力によって、見事に前線の一角を担う存在へと成長。アジア人として歴代初となるプレミアリーグ月間最優秀選手に選ばれ、AFC年間最優秀選手賞においても初の複数回受賞者として知られる男は、名実ともにアジアを代表するプレーヤーとなっている。
今季、カップ戦を含めた総計で18ゴール11アシストを記録したトッテナムの「影のエース」は、圧倒的なパワーやスピード、テクニック以外の工夫で相手を翻弄する。
展開の速いブンデスリーガで磨かれたソンの特徴である思考速度は「カウンターの局面」において最大限発揮される。ボルフスブルクで同様のスキルを習得したマンチェスター・シティのデ・ブルイネのように、ソンはスピードを落とさずに次のプレーに移行することができる。
ドリブルを仕掛ける局面では、内側に入り込んで行くドリブルと外側からSBとの1対1に持ち込むドリブルを的確に判断し、カウンターのスピードを落とすことなく仕掛けに繋げる。後ろを向いて受けなければならない状況でも常にスピードを落とさない突破を狙っており、ターンしながら背後の相手を抜き去るパターンも得意技だ。シュートを狙う際のラストタッチも絶妙で、細かなドリブルを仕掛けながら最後の仕掛けでボールを強く持ち出すことで、相手DFを引き離しながらゴールを狙う。
さらにボールを持たない局面でも、ソンは「オフ・ザ・ボールの動き出し」によってDFを欺(あざむ)く。CFでのプレー経験によって鍛えられたパスを引き出す動き出しはパターンも豊富で、DFの死角に入り込むのだ。例えば中央から味方の左SBにパスが出る局面で、彼はボールの動きとは逆に一度内側へ移動。外に動いて行くボールを目で追う瞬間に、DFは死角に入ったソンを一瞬見失うことになる。振り向いて確認しようとしたタイミングで、今度は逆に外のスペースへ抜け出す。普通のウイングであればタッチライン際で待つところに一つ工夫を加えることで、DFが出遅れやすい状況を作り出せるのだ。
逆サイドに走り込んでも柔軟なプレーをこなせる彼の存在は、トッテナムの流動的な攻撃を可能にしている。相手に徹底的に警戒されるケインを利用するように守備陣を崩す「影のエース」は、ポチェッティーノ監督のチームにとって欠かせないピースだ。
Photo: Getty Images
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。