コンバートでブレイク。攻撃のスイッチを入れる最終ラインの司令塔
Frenkie DE JONG
フレンキー・デ・ヨンク
1997.5.12(20歳) 180cm/70kg NETHERLANDS
GKのオナナからリベロのフレンキー・デ・ヨンクにボールが渡った瞬間、すでにアヤックスの攻撃のスイッチは入っている。敵味方の配置、フリーマン、スペースは、まるでスキャナーのようにデ・ヨンクの頭の中に取り込まれている。プレーの選択肢は常に前。縦パス、斜め前へのパス、ドリブルイン――。その中から彼は最善のプレーを選択し、チーム全体が前がかりになるのだ。
アヤックスの攻撃の起点となるデ・ヨンクを、相手も警戒して潰しに来る。だが、安易なバックパスや横パスをいさぎよしとしない20歳のオランダ代表は、敵に体を預けてボールをキープし、シザースを交えながら反転し、スッとマークを外して前へ進んでいく。一見、リスキーなプレーだが、彼にとってはごく普通のプレーである。
アンカーからリベロにコンバートされたことで、デ・ヨンクに武器が一つ加わった。それが自陣の最終ラインからアタッキングサードまで単独ドリブルでボールを運んでいくことだ。自分に対して間合いを詰めてきた相手を1人、2人、時には3人と交わした先には、大きなスペースが広がっている。彼は足下にボールを吸い付かせながら中盤を越し、デンジャラスゾーンまで侵入していくのだ。その距離、ざっと40mから60m。ヨハン・クライフ・アレーナに詰めかける、5万人を超すファンが沸きまくる大きな見せ場だ。
リーグ開幕から14試合、14失点を喫していたアヤックスは、リベロ・システムを採用してから11試合で7失点と、劇的に守備力を向上させた。昨年12月、首位PSVを3-0と完膚なきまでに叩きのめした試合が、リベロ・システムの始まりだった。この一戦でデ・ヨンクは104本パスを出し、そのうち51本が敵陣だったというスタッツは興味深い。
ポゼッション型サッカーの追求に揺らぎのないアヤックスは、デ・ヨンクがリベロになったことでますますその傾向を強めた。その結果、相手にボールが渡った瞬間、7人(FW、MF+デ・ヨンク)でプレッシングをかけることができるようになり、敵はビルドアップがままならなくなった。苦し紛れのクリアボールは、最終ラインのフェルトマン、デ・リフト、タグリアフィコが難なくはね返してくれる。このボール保持と回収の連鎖によって、アヤックスの守備が強まった。
リベロとしてブレイクを果たしたデ・ヨンクだが、ビッグクラブにステップアップした時のことを考えると、最後尾のポジションを務めるにはサイズが足りない。それはアヤックスも本人も理解しており、いずれシェーネの後継者としてアンカーに戻る日が来るだろう。
Photo: Getty Images
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。