現場で感じるオランダサッカー
ロビン・ファン・ペルシーが14季ぶりにフェイエノールトへ帰って来た。背番号32は、01-02にブレイクし、UEFAカップ(現EL)獲得に貢献した時のもの。34歳のベテランレフティーは、1月の加入会見で「この番号には深い思い入れがある」としみじみ語った。
ためらうことなく若手を抜擢するオランダリーグだからこそ、各チームに“ベテラン枠”がある。今季、第2ストライカーというポジションをのんでアヤックスに復帰したクラース・ヤン・フンテラールは、日本で言うところの「2年目のジンクス」にかかったカスパー・ドルベリに代わり頼れるエースとして貴重なゴールを決めている。
エドガー・ダービッツ、フィリップ・コクー、パトリック・クライファート、ヤープ・スタム、マルク・ファン・ボメル、ヨン・ハイティンハ……。オランダリーグに復帰して成功した者もいれば失敗した者もいる。それでも今年の正月、高校サッカー取材で再会したオランダリーグ通の元日本代表Kさんは「オランダリーグはキャリアの終わりにスターが戻って来るから良いですね」と、半ば羨ましげに言っていた。
フェイエノールトもまた、ベテランの力を知るクラブである。何せ、18季ぶりとなった昨季のリーグ優勝はディルク・カイトの力に依るところが大きかったのだ。優勝を決めた最終節のヘラクレス戦でハットトリックを完成させ、そのまま引退したカイトは36歳にしてロッテルダムの現人神となった。
カイトの後釜として、フェイエノールトは夏の移籍市場でファン・ペルシー獲得に動いていたが交渉がまとまらず。ベテラン不在の影響は大きく、安定性を欠き1月早々に連覇を諦めたチームの惨状を受け、ジョバンニ・ファン・ブロンクホルスト監督に対するプレッシャーは高まった。「できれば、ロビンにはシーズン開幕からいてほしかったんだ……」という指揮官のコメントは切実だった。
反感も今は昔
リバプールへ移籍する前のカイトが、献身的なプレーでファンから愛されていたのに比べて、アーセナルに移る前のファン・ペルシーはピッチ内外での振る舞いが反感を買い「アイツがアーセナルで成功するはずがない」とすら言われていた。しかしアーセナル、マンチェスター・ユナイテッドで活躍し、オランダ代表歴代最多ゴールの記録を持つ今の彼に悪童の面影はない。
第22節フローニンヘン戦で復帰後初ゴールを記録すると、第24節ヘラクレス戦では押され気味の苦しい試合で決勝ゴールを決めて、チームを1-0の勝利に導いた。ともに、インステップで蹴らず、インフロントで丁寧にコースを狙ったシュートが印象的だった。
「みんな、力任せにインステップで蹴って外しているよね。かつては自分もそうだった。今、僕は10本蹴ったら8本は枠に飛ばすことを考えて撃っている。そうしたら、遅かれ早かれゴールは決まるものさ」
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本稿がフットボリスタ本誌の連載コラムとして掲載されてからおよそ1カ月半が経った。
4月22日、フェイエノールトはAZを3-0で降し、KNVBカップを獲得。ファン・ペルシーはチームのリードを広げる、右足の巧みなチップシュートを決めてチームの優勝に貢献した。
1月にオランダへ戻って以降、ファン・ペルシーはリーグ戦で5ゴール、KNVBカップで2ゴールをマークした。その間、彼が放ったシュートはたった8本。枠内シュート率は100%で決定率87.5%という驚異的なスタッツを残した。
“ゴールの匠”が本領を発揮したシーズンだった。
Photos: VI-Images via Getty Images, Getty Images
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。