“フリーウェイ”だった右サイド、謎の無策…敗退バルサに何が?
CLレビュー ローマ対バルセロナ
4-1で第1レグを取りながら、敵地オリンピコでの第2レグを0-3で落としローマの相手にまさかの準々決勝敗退を喫したバルセロナ。「自分がこのチームに来てから一番キツい衝撃だ」とブスケッツはイタリアのメディアに落胆ぶりを述べていた。
バルサに何が起こったのか。アプローチを間違えたのか、油断があったのか――戦力差やクラブの戦歴を考えれば、そう思うのも自然ではある。それでもローマに3点を奪われて、1点も奪えないどころか枠内シュートをたった3本に抑えられたという事実は衝撃的である。彼らはローマによって、機能不全を明るみにさらされた。
まずは0封された攻撃面の機能不全。メッシにろくなシュートチャンスが訪れず、スアレスに至ってはシュート1本に抑えられている。ハイプレスによってビルドアップを源泉から破壊され、ボールの供給を絶たれたからだ。第1レグを経て、組み立ての構造は丸裸にされていた。ピケとユムティティの両CB、またブスケッツには、ジェコに加えて中盤の選手1人がプレスをかけてくる。横にパスを繋いで広げようにも、3トップの両翼に配置されたナインゴランとシックのプレスに阻害される。その結果、彼らはテア・シュテーゲンにバックパスする他はなくなり、ロングボールを蹴らされ、それを奪われるという悪循環に陥った。ローマは選手間の距離をコンパクトに詰め、セカンドボールも取り放題。こんな状態では前線に良いボールが入るはずなどなかった。
一方で前線のスペースも消された。この試合で3バックを採用したローマは、守勢に回って自陣に下がれば[5-4-1]でラインを整える。サイドには2枚でしっかりフタがされ、中央には対人にもスペースにも強いマノラスがにらみを効かせた。こういう時バルセロナは、動きの自由を保証しているメッシの個人技を軸に局面を打開する。だが彼が前線から中盤に落ちてきたら、ファン・ジェズスが付いて来てスペースを消される。さらにローマの最終ラインには4枚が残っているから、メッシが引いてCBを引き出す効果も出ない。その結果、スアレスやセルジ・ロベルトの飛び出しも殺されることになった。
ローマのパスは通り放題
そして、それ以上に深刻だったのが守備面での機能不全だ。昨年8月のスペインスーパーカップを除き、今季のバルサが公式戦で3ゴール以上を取られたことはなかった。バルベルデ監督はコンパクトな組織守備を重視し、リーグの無敗記録も守備の安定がもたらしたものとも言えるが、この一戦ではこれが破壊されてしまった。
DFラインがローマのハイプレスで押し下げられた一方、中盤から前が戻って距離を詰めてこないので選手間にはギャップができた。ローマにはゾーンの隙間を使われて、速攻でDFラインの裏を狙われる。しかもコラロフやフロレンツィの上がりにカバーはなく、前線のFW陣もプレスがかからないからローマの後方からもパスが通り放題。ビルドアップの柱となっていたのは右CBに配置されたファシオだったが、彼に至ってはノープレッシャーでサイドを駆け上がり、シックの頭にクロスを供給するシーンさえあった。こうして守備の網を広げられらた挙句、最終ラインはジェコに翻弄される。縦に走られ先制ゴールを決められ、さらにピケは彼との1対1を強いられた末にPKを献上した。
さらに不可解だったのは、これだけの状況に陥っても修正をしてくる節が一切なかったということだ。象徴的だったのは63分、メッシがコラロフへのファウルでイエローカードをもらったシーンだ。カウンターから駆け上がるローマの左アウトサイドに、カバーに入る選手が誰もおらず、組織上守備の負担を免除されているはずの彼が慌てて戻りファウルで止めざるを得なかった。漫然と試合を続ける彼らは、ディ・フランチェスコ監督がウンデルとエル・シャラウィを投入しスピードアップを図っても戦術的な修正を図らない。結局そのまま立て続けにサイドを破れられた挙句、82分にはウンデルの突破からCKを献上し、マノラスに3点目を決められた。前半からバルセロナのセットプレーの守備は常にマークを外しており、そんな状態で許した終盤のCKは致命的なダメージをもたらした。
ブスケッツが故障上がりでなく、他の主軸のコンディションももう少し良ければ、ローマのハイプレスをいなすようなプレーができたのかもしれない。だがチームはコパ・デルレイを含めて50試合を消化した状態でこの試合に臨んでいた。特にバルベルデ監督は2018年に入ってからターンオーバーを極力拒否し、その結果7人が出場時間3300分を超過した状態でこの試合に臨むことになった(メッシに至っては3800分超だ)。他方ローマでは、3300分を超えたのはアリソンとコラロフ、ジェコの3人のみ。ディ・フランチェスコ監督はターンオーバーを積極的に用いて選手の疲労を分散させており、それがあったからこそ大一番でハイプレスを仕掛けられたのだろう。そんな彼らに、バルサがなす術もなく翻弄されたというのは実に象徴的である。
リーグでは無敗を続けているバルセロナに対し、この1敗だけでチームの弱体化やサイクルの終焉を叫ぶとすれば敬意に欠けるだろう。しかしこの試合に関しては、彼らはあまりにも漠然と臨み過ぎた。ローマは第1レグの反省からきっちり問題点を修正し、戦術上の研究でバルサを丸裸にし、選手が一丸となって走ってきた。それを抑えるには、いくら個々の技術が高かろうと無策では無理というものだった。
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Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。