日本語、忘れてません。39歳エメルソン、今も元気でやってます
名優たちの“セカンドライフ”
欧州のトップリーグで輝かしい実績を残した名優たちが、新たな挑戦の場として欧州以外の地域へと旅立つケースが増えている。しかし、そのチャレンジの様子はなかなか伝わってこない。そんな彼らの、新天地での近況にスポットライトを当てる。
from BRAZIL
EMERSON SHEIK
エメルソン・シェイキ
コンサドーレ札幌、川崎フロンターレ、浦和レッズと2000年から5年間、Jリーグでもプレーしたエメルソン。現在39歳と選手としては大ベテランだが、今も現役。ビッグクラブで活躍し、ゴールでサポーターを沸かせている。
浦和を去った後、カタールのアルサッドやUAEのアルアインでプレーしカタール国籍を取得したエメルソンは今、ブラジルでは“シェイキ”と呼ばれている。アラビア語の称号をポルトガル語読みしたもので、“中東で儲けた”というニュアンスで使われ始めたため、本人は最初気に入らなかったらしい。ただ、当時所属していたフラメンゴのサポーターから熱狂的に愛され、親しみを込めて呼ばれたことですっかり定着している。
何しろ彼は優勝請負人、どこに行っても愛される。ブラジル全国選手権でも、09年はフラメンゴ、10年はフルミネンセ、11年はコリンチャンスの選手として3年連続タイトルに貢献した。
ただ、昨季プレーしたポンチ・プレッタだけは事情が違った。ワンランク上を目指す中堅クラブのリーダーにと請われて移籍し、彼自身は重要な試合でゴールを決めるなど奮闘したが、クラブの投資が続かず2部降格。不本意な1年となった。
そんなエメルソンは今季、コリンチャンスに復帰した。12年のFCWCや、大会MVPにも選ばれたコパ・リベルタドーレスなど5つのタイトルを獲得したクラブ。彼自身の思い入れも深い。クラブ史上最年長の契約で、期間が6カ月と短いこともあり、初日の会見では「今回の契約は、その実績に対する引退前の功労賞のような意味なのか」という質問が出た。しかし、彼は「信頼してくれたクラブに対して、ピッチで答えを出すための6カ月だ」ときっぱり反論。パーソナルトレーニングのチームとも契約して、ハードにフィジカルを整えた。
メディアもビックリの“2018年バージョン”
契約時、首脳陣には「実力はわかっているけど、規律だけは乱さないでね」と釘を刺されたそうだが、本人は「それは昔の僕だよ」と笑い飛ばす。
過去には、自由奔放な行動が話題になった。フルミネンセ時代には、試合に向かうチームバスの中で「フラメンゴの列車にはブレーキなんかない~♪」と、最大のライバルチームの連勝を称える曲を歌ってしまったことがある。試合への景気づけに、いろいろなファンクの曲をかけていた中でたまたま流れてきたから歌ったらしいが、結局それが戦力外通告に繋がった。
遅刻魔としても有名だったが、今回は住居をクラブの練習場の近くに決めた。
「良い練習と栄養、休息を心がけているんだ。息子たちも成長したし、僕も責任ある態度を示さなくちゃ」
そんな問題児の変貌ぶりに、メディアが“2018年バージョンのエメルソン”という言葉を使い始めたほど。チームを率いるカリーリ監督からは「若い選手たちを引っ張ってほしい」と、ピッチの内外で絶大な信頼を寄せられるようになった。
「でも、真面目なだけじゃないよ。僕の陽気さは変わらない」と言う彼は、今もけっこう日本語が達者だ。試合の後にインタビューをと呼びかけると、怒った顔で「ナニイッテンダヨー!」と日本語で言い「アトデ、アトデ!」と立ち去ろうとする。こちらが笑っていると、くるりと振り返り「ダイジョーブ!」と満面の笑み。そんな茶目っ気を、周囲のブラジル報道陣はポカーンと眺めている。
注目されるのは、現契約満了後に延長されるのか、もしくは引退もあり得るのか。本人は「僕は幸せでありたいだけ。そのために、今はこの半年にベストを尽くすことしか考えていない」と言うに留めていたが、サポーターはせめて今季が終わるまでは、と期待を寄せている。
プロフィール
Emerson Sheik
エメルソン・シェイキ
(コリンチャンス/元カタール代表)
1978.9.6(39歳)171cm/69kg FW QATAR
1998-99 São Paulo (BRA)
2000 Consadole Sapporo (JPN)
2001 Kawasaki Frontale (JPN)
2001-05 Urawa Reds (JPN)
2005-07 Al Sadd
2007 Rennes (FRA)
2008-09 Al Sadd
2009 Flamengo (BRA)
2009-10 Al Ain (UAE)
2010-11 Fluminense (BRA)
2011-14 Corinthians (BRA)
2014 Botafogo (BRA) on loan
2015 Corinthians (BRA)
2015-16 Flamengo (BRA)
2017 Ponte Preta (BRA)
2018- Corinthians (BRA)
Photo: Getty Images
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。