ウクライナの新星ジンチェンコ。攻撃を司るペップの「秘蔵っ子」
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3月27日、日本代表と対戦するウクライナ代表。エースFWヤルモレンコを欠く今回、攻撃の中心を担うことになるのが21歳のMFオレクサンドル・ジンチェンコだ。所属するマンチェスター・シティのグアルディオラもその将来性を高く評価する逸材のキャリアとプレースタイルに迫る。
ウクライナ生まれの小柄な青年は、他の選手と比べても異質なキャリアを歩んできた。母国の名門シャフタール・ドネツクのユースチームで磨かれた宝石は、トップチームへのステップアップを求めてクラブを離れることになる。家族とともに戦火を避ける目的でロシアに移住したことをきっかけにルビン・カザンへの移籍を目指したが、シャフタールとの契約が残っていたことで失敗。最終的に、ロシアリーグのウファに加入することになる。
「フェルナンジーニョ、ドウグラス・コスタ、ムヒタリャンといった名手がそろったトップチームに、ユース出身者が入り込むことは困難だった」
本人がこう語るように、当時のシャフタールは世界中からタレントを集めたチームだった。ブラジルとの強固なコネクションを武器に、彼らはレベルの高いブラジル人プレーヤーを常に確保。「ウクライナのユース代表で活躍する選手はヨーロッパのトップチームでも通用するが、国内のチームでは出番が与えられない」がゆえに不遇をかこったジンチェンコだが、その言葉を証明するように階段を駆け上がっていく。
ロシアリーグでの活躍からわずか1年半で、一本釣りに成功したマンチェスター・シティへ。ロシア方面のスカウトは彼の才能を高く評価していたが、プレミアのトップクラブがロシアリーグの中堅でプレーする若者を獲得したことは驚きだった。直後にレンタル移籍したオランダのPSVでインパクトを残し、再度レンタルの意向を示したマンチェスター・シティに残留。アピールを重ね、自らの手で出番をつかみ取る。19歳でのウクライナ代表デビュー(2015年)と、アンドレイ・シェフチェンコの記録を更新する代表最年少ゴール記録は華々しいが、プロキャリア自体は長くない。周囲には16歳、17歳でデビューする早熟の若者もいる中、デビューは19歳。最も驚異的なのは、プロ入りからたった3年間で彼がマンチェスター・シティの一員として出番を得ていることだ。
シティでは“偽サイドバック”として台頭
「99%の努力と1%の才能」を座右の銘にするジンチェンコは、マンチェスター・シティでは左ウイングバックや左SBのポジションで起用されている。バンジャマン・メンディが負傷で離脱する中、“偽サイドバック”として存在感を放っているファビアン・デルフの控えを「攻撃的MFが本職の若手」が見事に務めているのは、1つのうれしいサプライズだ。PSV時代は、高いポジションに進出して華麗なテクニックでゴールに直結する仕事をこなし、低い位置ではルカ・モドリッチを彷彿とさせるような細かなターンで状況を打開していた天才肌のMFは、ウディネーゼなどでプレーした元フィンランド代表ロマン・エレメンコを想起させるような細かなステップから柔らかいボールタッチで相手を翻弄した。
一方、マンチェスター・シティでは周りのMFにシンプルに預けるプレーが求められることから、細かいキックフェイントを使いながら冷静にボールを繋いでいく。デルフと比べるとパス&ゴーの意識が強く、俊敏なステップから次のパスを受けるスペースに飛び出すことができるのも特徴的だ。引きつけながらボールを味方に預け、一気にリターンを受けられるエリアへと抜け出す。献身的な動きでハーフスペースに走り込み、ウイングプレーヤーに自由を生むことも欠かさない。副次的にではあるが、1対1の守備スキルも向上している。距離感を取るのが巧く、間合いを詰めるスピードもあるので、レスターのリヤド・マレズも突破できずに苦しんだ。
高い機動力とボール扱いのスキルを兼ね備えた彼は、現在のチームメイトの中ではギュンドアンに近い。日本代表で言えば、ボールを扱う技術や狭いスペースでも受けられる技術といった面で川崎フロンターレの大島僚太との共通点が多い。ウクライナ代表では、攻撃的なセントラルMFのポジションでコノプリャンカら両翼にボールを供給しながら中盤でタクトを振り、ゲームを構築する役割を任される。顔がケビン・デ・ブルイネに似ていることから、シティの同僚に「ケビンさん、写真を撮ってください! あれ、別人?」とネタにされている陽気な若者は、ペップ・グアルディオラの新たな秘蔵っ子になれるだけの才能を秘めている。
オレクサンドル・ジンチェンコ
Oleksandr ZINCHENKO
1996.12.15(21歳) 175cm / 64kg MF UKRAINE
Playing Career
2015-16 Ufa (RUS)
2016-17 PSV (NED)*
2017- Manchester City (ENG)
*=on loan
■footballista Pick Up Player
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Photos: Getty Images
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。