W杯出場国コラム:ベルギー
戦術家マルティネスでも、このチームの操縦は難しいようだ。W杯欧州予選を9勝1分、驚異の43ゴールで走破したが、昨年11月の日本戦でも見て取れた、まだどこかうまくいってない感。国内の評論家もファンも、そして今や“タイトルに飢えた”選手たちも、疑念を募らせている。
長らくビッグイベントから遠ざかっていたベルギーを、2014年のW杯と2016年のEUROに導いたとはいえ、マルク・ウィルモッツ監督の評価は芳しいものではなかった。EUROではGSのイタリア戦、準々決勝のウェールズ戦が終わった後、GKクルトワ(チェルシー)が指揮官に対して厳しく戦術の批判をしている。
エデン・アザール(チェルシー)、ケビン・デ・ブルイネ(マンチェスター・シティ)、マルアン・フェライーニ(マンチェスター・ユナイテッド)、ドリース・メルテンス(ナポリ)……。「黄金世代」と呼ばれるタレントをズラリとそろえたベルギーは今、タイトルに飢えている。だからこそ、代表チームの監督も、選手のクオリティにふさわしい指導者でなければならない。残念ながらウィルモッツの戦術眼ではもう、選手たちは納得できなかった。
ロベルト・マルティネス監督に懸かる期待は、ベルギー代表をモダンサッカーに進化させることだった。賛否両論が起こったとはいえ、基本システムを従来の[4-3-3]から[3-4-2-1]へ切り替えたことは、高みを目指す意欲の表れだったとも言える。W杯予選は9勝1分という好成績で難なく突破。総得点43はドイツと並び、W杯/EURO予選の最多ゴール記録となる数字だった。ここまでおおむね、ベルギーは順調にチーム作りを進めていた。
「これならウィルモッツのままでも良かった」
だが、マルティネス監督の采配・戦術に対して一抹の不安もあった。昨年になってから3月の親善試合ロシア戦(3-3/A)、10月のW杯予選ボスニア・ヘルツェゴビナ戦(3-4/A)と大量失点を食らう試合が増え始めたのだ。くすぶり始めた指揮官への批判は11月の代表ウィークでマックスに達した。10日のメキシコ戦でまたしても大量失点し、3-3で引き分けたのだ。
W杯予選ではベルギー相手に撃ち合いを挑むチームはなかったが、メキシコは3トップが前線に張ったまま、ベルギーの3バックに圧をかけ続けた。この対処法を監督は見出そうとせず、3バックはズルズルと後退し、さらに両ウイングバック(WB)も最終ラインに吸収されて5バックの状態に陥った。この日、[3-5-2]の中盤でインサイドMFを務めたデ・ブルイネは舌鋒鋭く、マルティネス監督の戦術を批判した。
「あまりにベルギーはタレントに頼ってサッカーをし過ぎている。メキシコのFWが高い位置を取り続け、ベルギーの“5バック(3CB+2WB)”は低い位置で守備することを余儀なくされた。その結果、中盤がスカスカになった状態で試合を始めてしまった。良いW杯になってほしいけれど、いまだにこの解決策を見つけられないのは残念。僕は監督に『戦術に関して良い解決方法を見つけないといけない』と言った」(11月11日、ベルギーメディアに対して)。
続く14日の日本戦(1-0)では、右の浅野には左CBフェルトンゲン(トッテナム)を、左の原口には右WBムニエ(パリSG)を付けて守備を修正しクリーンシートを達成したが、試合そのものは凡戦で、ファンは「戦術がない。これならウィルモッツのままでも良かった」などと嘆いていた。評論家たちも「ますますマルティネス采配に疑念が募った」などとネガティブな風潮を強めている。
“欧州予選モード”から“ロシアW杯モード”へ、ベルギーの戦術には変化が求められている。
Photos: Getty Images
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。