マドリッド対決と頂上決戦。ある”共通点”から探る勝負の行方
木村浩嗣コラム
今週末に行われるレアル・マドリードvsヘタフェ、バルセロナvsアトレティコ・マドリード。この2試合には興味深い共通点がある。それは4チームとも[4-4-2]を採用する可能性が高いということだ。[4-4-2]には前後のサポート関係が明確でコンパクトに守りやすいという特徴がある。だから、引いてカウンターというプレースタイルをヘタフェとAマドリードが採用するのはわかる。だが、ポゼッションサッカーのRマドリードとバルセロナがなぜこのシステムを採用するのかには、それぞれ別の事情がある。
Rマドリードの場合は、BBC(ベイル、ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウド)を[4-3-3]で配置すると守備が脆くなる。3人ともそろって守りが苦手だからだ。特にヘタフェ戦はクロースとモドリッチの出場が微妙で、もし2人が不在となるとポゼッション力が落ちて危険なボールロストが頻発しかねない。だからBBCがそろい踏みした場合でもベイルを1列下げた[4-4-2]で臨むだろうし、BBCのうち調子の上がらないベイルを温存(3月6日のパリ・サンジェルマン戦に備え)して、最初からMF4人(カゼミーロ、コバチッチ、アセンシオ、ルーカス・バスケス)で臨むことも十分考えられる。
バルセロナの場合は、ネイマールを放出したのが[4-3-3]から[4-4-2]へ変化した最大の理由。代役のウスマン・デンベレも加入してすぐにケガをし、パコ・アルカセルとデウロフェウ(すでに移籍)も期待外れで、バルベルデ監督は苦肉の策としてMFを4人にした。そうしたら、①ボランチがセルヒオ・ブスケッツとラキティッチになったことで守備が厚くなった、②中盤の重要度が増しイニエスタが主役となって帰って来た、③左SBジョルディ・アルバの攻め上がりの回数が増えたという、3つのポジティブな連鎖反応が起き、今ではすっかりメインシステムとして定着した。
4チームとも[4-4-2]であるということで、2トップに注目して2試合をプレビューしてみたい。顔ぶれを見ればわかる通り、「キラー+お膳立て役」という構成で、どのコンビも組まれている。
器用な柴崎の使い方次第でゲームが動く
Rマドリードの場合は、調子の上がるロナウドがフィニッシャーで、ベンゼマがアシストの供給役。ベンゼマはFWなのに得点力がないと批判されるが、第25節アラベス戦でヒールでのトリッキーなアシストを見せたように、ロナウドやベイルのゴール演出役として十分機能している。対するヘタフェの場合はアンヘル(またはホルヘ・モリーナ)がキラーで柴崎がお膳立て役。ヘタフェが得意とするロングカウンターには本来、ポストプレーができるホルヘ・モリーナと得点力があるアンヘルのコンビが組み合わせとしてはベストなのだが(この場合は両方がフィニッシャー)、強敵相手のアウェイゲームとあって、勝ち点1をもぎ取ったカンプノウでのバルセロナ戦同様、セカンドトップは守備のうまい柴崎を先発させるのではないか。
延期となっていた第16節レガネス(1-3)、第25節アラベス(4-0)とヘタフェと同タイプの堅守速攻型のチームに大勝したRマドリードだが、隙がないわけではない。アラベス戦での零封は実は今年に入って3回目で、残り11試合は必ず失点しているのだ。ヘタフェは柴崎以下10人が自陣に籠る形で攻撃をしのぎ、0-0の時間をなるべく長くしたい。そして、その形から手数も人数もかけず2トップ間でカウンターに持ち込む。カウンターのパターンは、相棒がホルヘ・モリーナになるかアンヘルになるかで変わってくる。ホルヘ・モリーナの場合は、彼にボールを一度当てリターンをもらった柴崎が裏へスルーパスを送り込む形(ロングカウンター型)。アンヘルの場合は、まず柴崎がボールもらい相棒を裏へ走らせてスルーパスを送り込む形(ショートカウンター型)。いずれも決まればGKとの1対1を演出することになる。
Rマドリードにリードされた場合は、柴崎をMF(ボランチまたは左サイド)に動かしてホルヘ・モリーナとアンヘルの2トップと組ませる手もある。トップでありながらMFも兼任できる器用さは柴崎独自のもので、ホセ・ボルダラス監督にとっては使い方次第で攻守バランスを[4-2-3-1]的にも[4-5-1]的にもできる柴崎は、非常に使い勝手の良い選手である。トップ以外でのプレーも見られるかもしれない。
堅守同士の“優勝争い”。鍵は少ないゴールチャンス
1位バルセロナと2位Aマドリードの“優勝争い”は、互いの堅守(失点の少なさでリーグ2位と1位)を打ち砕く「フィニッシャー、ルイス・スアレス+演出家メッシ」VS「フィニッシャー、ジエゴ・コスタ+演出家グリーズマン」の戦いである、とも言える。シメオネ監督はコンパクトにスペースを埋め、バルセロナのパスワークを封じ接戦に持ち込む戦い方をしてくるだろう。ゴールチャンスがほとんどない展開で、どちらかの2トップが2点を挙げた時点で勝敗は決するに違いない。第25節はジローナ相手にルイス・スアレスが3点、メッシが2点、セビージャ相手にジエゴ・コスタが1点、グリーズマンが3点と強力な破壊力を見せつけたが、見ものはまずは両者の守り合い:それもポゼッションによる守備、非ポゼッションによる守備という対照的な守備戦術がかみ合う形となる。
その中で、誰が単独で試合を決められるか、と言えばメッシしかいない。ドリブル、アシスト、シュート、FKと、今のメッシは世界最高の選手の名にふさわしいレベルの違うプレーを見せており、彼の天才がひらめいたならシメオネにも、彼が鍛え抜いたリーガ最少失点11の守備陣にも止められないだろう。
◆WOWOW番組情報
【第27節】
セビージャvsアスレティック・ビルバオ
3/3(土)深夜0:00~[WOWOWライブ]※生中継
デポルティーボvsエイバル
3/3(土)深夜2:20~[WOWOWライブ]※生中継
レアル・マドリードvsヘタフェ
3/4(日)午前4:30~[WOWOWライブ]※生中継
バルセロナvsアトレティコ・マドリード
3/4(日)深夜0:00~[WOWOWライブ]※生中継
バレンシアvsベティス
3/5(月)午前4:30~[WOWOWライブ]※生中継
【リーガ首位決戦!第27節 5試合連続キーワードクイズ!】
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『リーガダイジェスト!』
【放送日】
3/5(月)夜8:00~[WOWOWライブ]ほか
今シーズンから時間を拡大してパワーアップした必見のリーガ情報番組。週末に開催する全試合の全ゴールに加えて、貴重な選手インタビューや特集企画をお届けする。
※その他放送カード等、詳しい情報は番組オフィシャルサイトでご確認ください。
Photos: Getty Images
Cooperation:WOWOW
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。