ウイング?セントラルMF?CB? SBからのコンバート、変わる行先
『アオアシ特別号』発売記念!サイドバックコラム
新世代サッカー漫画『アオアシ』と海外サッカー専門誌『footballista』の異色のコラボ『アオアシ×footballista Special Magazine』の発売を記念して、特集「サイドバックの時代が来る」に関連した本誌2015年10月号掲載コラムを特別公開!
マルディーニ、プジョル、セルヒオ・ラモス――サイドバックだった選手が他のポジションにコンバートされたケースを思い返してみると、以前はその多くがCBへの転身だった。チャンスがあればオーバーラップからクロスを上げるものの、まずは守備を求められる、というかつてのサイドバックの役割、起用される選手像からすれば、この流れはうなずける。
ただ、マルディーニに関してはスピードに衰えが見え始めたキャリア後半に、その守備力を生かすためにポジションを移したものであった。それに対し、プジョルとセルヒオ・ラモスはかなり早い段階からCBでもプレーするようになった。彼らに共通しているのは、優れたスピードと機動力を備えている点である。
「経験が物を言う」ポジションであり、なおかつ現在のようにDFラインを高く設定するチームもそれほどなかった時代は、CBに求められる資質として優先順位が高かったのは強さや高さであり、スピード不足は経験と読みで補うことができた。だが、対戦するアタッカーのアスリート的能力の向上に加え、ハイライン&プレッシング戦術の流行によってDFラインのアップダウンが増え、CBにもより運動量とスピードが求められるようになる。そこで、そういった資質に長けるサイドバックに白羽の矢が立った、というわけだ。
中盤適性の見分け方
しかし近年、チームにおけるサイドバックの重要度が増すとともに、求められる資質も多様化。これに伴い、2つの潮流が生まれている。1つは、チームが志向するスタイルに合わせて中盤やウイングの選手をサイドバックで起用するパターン。そしてもう1つが守備力と運動量、縦の推進力といったこれまでのサイドバックに要求される資質にプラスして、司令塔のようなビルドアップ能力や、あるいはウイング並みの突破力とゴール奪取力を発揮するサイドバックがセントラルMFやウイングへとコンバートされるパターンである。
セントラルMFへとポジションを移した選手として名前の挙がるラームやアラバ、ブリント。彼らに関して注目されるのが、もともと左右のサイドバックをこなしていたラームに象徴されるように、利き足でない足を器用に使うスキルも備えている点だ。厳しいプレッシャーにさらされるピッチ中央でボールをさばき展開する際に非常に重要になるだけに、今後サイドバックからコンバートされる選手の中盤適性を見る上で、一つの指標になりそうだ。
似て非なるサイドバックとウイング
一方で、ウイングへとポジションを上げて大成したのは、代表例のベイルを除きほとんど思い当たらない。同じサイドのポジションであることを考えればセントラルMFよりも適応が容易なように思われるのだが、なぜか。
この傾向を読み解く上でキーワードとなるのが「逆足ウイング」だ。チームのサイドバックへの要求が変化しているように、ウイングへの要求もまた変化している。具体的に言えば、よりゴールを期待されるようになり、ピッチ中央へと切り込んでシュートに持ち込みやすい、利き足とは逆のサイドに配されることも多くなった。また、合わせてサイドバックがサイド攻撃=クロスの主な担い手となるチームも増加している。結果的にウイングとサイドバックは“似て非なるポジション”となり、ゆえにコンバート例が少ないのではないだろうか。
逆にウイングからサイドバックへとポジションを下げた選手の多く――マンチェスター・ユナイテッドのアントニオ・バレンシアやボルフスブルクのビエイリーニャ――が縦への突破からのクロスを得意としているタイプであることは、この傾向を示す一例だと言える。
現状では、チームの戦い方に合わせてサイドバックへと選手をコンバートするケースの方が多くなっているが、多彩な資質が求められるサイドバックを経験した選手が、他のポジションへと活躍の場を移すケースは増えていくに違いない。
Photos: Getty Images
Profile
河治 良幸
『エル・ゴラッソ』創刊に携わり日本代表を担当。Jリーグから欧州に代表戦まで、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。セガ『WCCF』選手カードを手がけ、後継の『FOOTISTA』ではJリーグ選手を担当。『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(小社刊)など著書多数。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才能”」に監修として参加。タグマにてサッカー専用サイト【KAWAJIうぉっち】を運営中。