ドイツサッカー誌的フィールド
皇帝ベッケンバウアーが躍動した70年代から今日に至るまで、長く欧州サッカー界の先頭集団に身を置き続けてきたドイツ。ここでは、ドイツ国内で注目されているトピックスを気鋭の現地ジャーナリストが新聞・雑誌などからピックアップし、独自に背景や争点を論説する。
今回は、2018シーズンから「フライデーナイトJリーグ」と称し金曜開催を常設する日本も無視できない、ブンデス1部の月曜開催に対するファンの拒絶反応。
土曜日の午後は、ブンデスリーガ・カルチャーの中で聖なる時間である。
15時30分に試合開始の笛が鳴ると、ドイツのかなり多くの人たちが希望と絶望、勝利の美酒と敗北の痛みの間を行き来する。何十万ものファンがスタジアムへ足を運び、何百万の人たちがテレビの前で釘づけになり、数知れないスマートフォンが得点のたびにゴールアラームを鳴らし、古き良きラジオも素晴らしい瞬間を演出する。『土曜の3時半』や『15:30』というタイトルの本があるくらいだ。そして、同じクラブを愛する親子は、週のどの曜日よりも互いの距離を縮めることができる――土曜日の儀式は、ブンデスリーガが生み出す魔法の大切な一部なのである。
ついに半数以下に
しかし、この魔法の午後は、もっとカネを稼ぎたいブンデスリーガの責任者たちにとってはあまり意味を持たないようだ。ゆえに間もなく、土曜日の15時半には半数以下の4試合しか行われず、新たに月曜の夜に1試合が開催されることになる。サポーターの中には愕然としている人たちもいれば、肩をすくめて離れて行く人たちもいる。近年の変化がいつも、同じことを目的としているからである。言わずもがな、さらなる収入を得ることに他ならない。『WAZ』紙が「ブンデスリーガは、ファンたちを呆れさせ、サッカー離れが始まらないよう気をつけなければならない」と警鐘を鳴らすが、それはもうとっくに始まっている。
ちょうど1年前のドルトムント対ボルフスブルクで、ホームサポーターが陣取るはずの南側スタンドが空になった。それはもう殺風景だった。ただこれは、RBライプツィヒ戦で一部のサポーターが侮辱的なメッセージの入ったバナーを掲げたことに対する処分だった。
だが、来たる2月26日月曜日のドルトムント対アウグスブルクでは、月曜夜の試合に抗議するために多くのサポーターたちが自ら進んで応援のボイコットを計画している。
「ファンの利害は真剣に考えてもらえない」
ドルトムントのファン後援部で働くヤコブ・ショルツさんの嘆きだ。
一方ではブンデスリーガという商品を国際市場で魅力的にしたいというリーグとクラブの事情があり、他方にはファンの事情がある。仕事がある月曜日の夜ではアウェイの試合を観戦できなくなるばかりか、ホームゲームであっても多くのサポーターが公共交通機関で家に帰るのが難しくなる。さらに、翌日も仕事がある。シャルケのスタンドでは「お前たちの商品は俺たちの人生だ。月曜日の試合に反対」と書かれたバナーが掲げられていた。
プロスポーツそのものの岐路
ドイツサッカー連盟(DFB)は月曜開催試合の導入を、木曜日にELに出場するチームへの配慮だと説明しているが、最大の理由はマーケティングである。すべての試合を土曜15時半に開催してしまったら放映権収入は大幅に減額されるとして、DFBのラインハルト・グリンデル会長は「私たちは話をする必要がある。国際的な競争力を維持するべきか否かを」と問い、『チューリンガーアルゲマイネ新聞』は「プレミアリーグに遅れを取らないようにするためには、他の選択肢はない」と主張する。だが、本当だろうか。より良い育成コンセプトや戦術の革新、賢い強化戦略に懸けた方が、気違いじみた利益競争に参加するよりも賢明かもしれない。何よりファンにとって、大好きな土曜の午後よりも国際的競争力の方が、本当に大切だろうか?
昨季のブンデス1部の総観客動員数は、9季ぶりに1300万人を下回った。アンケートによると、若い人たちはブンデスリーガよりもアマチュアの試合を見に行くことを好み、ティーンエイジャーはスター選手たちにあまり興味を持っていないという。華やかさや国際舞台での成功よりも、自分もその一部として共有できる経験の方が大事なのである。「プロスポーツのビジネスモデルについて、再考する時期が訪れている。でなければ、1999年以降生まれの新しい世代を失うことになる」と研究者たちは忠告する。
今のブンデスリーガは、世界中のトップレベルのサッカーにはびこる貪欲というウィルスに冒されている。誰もが嘆くが、立ち向かうのは数少ないファンだけ。「牛は、牛乳が出るだけ搾られる」と『北ドイツ放送』はその停滞感を表す。土曜日の魔法が犠牲になってもビジネスは繁盛するだろう。だが……なんと悲しいことだろうか。
Photos: Bongarts/Getty Images
Profile
ダニエル テーベライト
1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。