“後方支援”を受けたガスペリーニは強い
昨シーズンのセリエA最大のサプライズとなったガスペリーニ監督のアタランタ。通常この規模のクラブがELに進出すると、セリエAとの二正面作戦を支え切れず不振に陥ることが少なくない。しかし今シーズンのアタランタは、前半戦はELに優先順位を置いたターンオーバーで戦うという思い切ったアプローチが功を奏し、リヨン、エバートンという難敵と同居したグループステージを1位で勝ち上がっただけでなく、セリエAでもEL圏内の6位と3ポイント差の8位(25節時点)と期待以上の健闘を見せている。
昨冬のガリアルディーニに続き、17年夏はケシエ、コンティという主力2人がチームを去ったが、それでもパフォーマンスが落ちないのは、チームの骨格と戦術的なアイデンティティが完全に確立されており、イリチッチ、クリスタンテといった新たな主役たちもその中にぴったりと収まる形で持てるクオリティを発揮しているから。
ガスペリーニは、セリエBのクロトーネを率いていた当時から10年以上、1対1のデュエルに基盤を置くアグレッシブな「人を見るゾーンディフェンス」、サイドに作り出したロンボ(ひし形)によって一気に前線にボールを運び、フィニッシュ時には3、4人がペナルティエリアに侵入する攻撃という、ディテールまで明確にコード化されたシステマティックな[3-4-3]システムを一貫して採用してきた。
ジェノア時代は半年ごとに陣容を入れ替えるオーナーの「プレーヤートレーディング中毒」に振り回されてチームを熟成させる時間が与えられなかったが、クラブとの間に絶対的な信頼関係が成り立っているここアタランタでは、希望通りの補強で昨シーズンを上回る陣容が整った。敵中盤の陣形に応じて前線3人の位置関係を変え、さらにその一角でイリチッチ、クリスタンテというタイプの異なる2人のアタッカーを使い分けるなど、戦術や選手起用にも幅が出てきた。
2年連続のEL出場権を懸けたセリエA後半戦の戦いぶりはもちろん、ELでぶつかるドルトムントとのガチンコ勝負が楽しみである(編注:2月15日の第1レグはアウェイで3-2と惜敗。22日に第2レグが行われる)。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。