フランスとドイツ、一度で二度おいしいミックスカルチャーの街を紹介
昨季リーグ1で奮闘した川島永嗣と酒井宏樹が、今シーズンも引き続きフランスでの挑戦に邁進している。そんな2人をぜひとも現地で応援!と考えている人や、彼らが活動するのはどんな土地だろう?と興味を持っている方もいるかと思うので、今回はマルセイユほどは知られていないメスの街を紹介してみたい。
メスはドイツ国境に近いフランスの端っこにあるが、パリからTGVで1時間半ほどだ。そのアルザスロレーヌ地方は戦争のたび独仏間で取り合いになり、ドイツ領だった過去もあるため、街並みや建築物、人々からもドイツの気風を感じる。玄関口の中央駅もドイツ人建築家の手によるもので、重厚なアーチ型の天井が美しい。
FCメスの本拠スタッド・サンフォリアンは、駅からゆるゆる歩いて20分ほどの新市街地にある。市内を流れるモーゼル川に浮かぶ中之島のような場所に、緑が生い茂る河畔をバックに立つという一風変わった立地のスタジアム。試合日には、プレッツェルというドイツのパンが屋台で売られているところにもお土地柄を感じる。
グルメもアートも、ちょうどいい
メスの見どころの一つである大聖堂は、スタジアム横のモーゼル川に沿って街の方向へ戻った旧市街地にある。周辺は迷路のような小道が入り組み、気の向く方へぶらつくと可愛らしいお店に出会ったりと散策が楽しい。日本の「人間国宝」に相当するフランスの国家最優秀職人章を持つパティシエ、フランク・フレッソン氏のショコラティエもある。欧州で人気沸騰中の「ゆず」の風味を効かせたケーキなど親日家の彼らしい一品もあって、休憩するに格好の場所だ。
食べ物の話が出たところで名物料理は?というと、街のあちこちで見かけるのが地方の名がついた「キッシュ・ロレーヌ」だ。ベーコンとチーズが入った、まさにキッシュの王道。それから「フラムクーシュ」という、極薄のパン生地の上に玉ねぎとサワークリームとベーコンを乗せて焼いたピザ風の郷土料理も美味しい。けっこう大きいが、皮がパリっとしていて完食できてしまう。
アートな気分に浸るなら、駅の反対側にあるポンピドゥーセンターへ。これはパリの有名な近代美術館の分館。建築は日本人の坂茂氏が手がけ、カゴのように編まれた木で優しい曲線を描く屋根が美しい。エコロジー面でも様々な工夫がこらされたこの建物を見るだけでも価値がある。
そうしてちょこちょこと名所を訪ねつつ、仏&独のミックスカルチャーを感じる街並みを散策するのが楽しいメスは、試合を観戦しつつの小旅行にはうってつけの場所だ。ここから1時間足らず電車に揺られれば、アールヌーボー発祥の地と言われるナンシーもあって、個人的にもこの辺りは『フランスサッカー観戦+観光』の行き先ではイチオシの場所。川島選手が活動しているのはそんなところか~と思いを馳せつつ、応援してほしい。
Photos: Yukiko Ogawa
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。