Jリーグに新たな技術革新? 名門が絶賛するOmegawaveとは?
Omegawave グローバルマーケティング担当ミカエル・リーマタイネン氏インタビュー
近年、選手のケガ予防という観点から、選手個々のコンディションを科学的に把握し、トレーニングの負荷や頻度をコントロールすることを重要視する向きが強まっている。そんな最先端技術の一つで、2017シーズンのブラジル全国選手権を制したコリンチャンスの理学療法部門コーディネーターに「優勝に不可欠だった」と言わしめたツールが日本にも上陸するかもしれない。すでに欧州サッカーはもちろん、MLBやNFLでも多くのクラブが導入しているOmegawaveとはいったいどんなものなのか? 来たる2月上旬にJクラブのキャンプ地で説明会を開催するOmegawaveグローバルマーケティング担当のミカエル・リーマタイネン氏に話を聞いた。
これさえあれば本当の意味での“ベストチーム”が組める
――まずはOmegawaveが何を目的に作られ、何ができるデバイスなのか教えてください。
「Omegawaveについて何も知らない人には、『試合や練習時ではなく、リラックスして休んでいる選手の客観的なデータを計測して、その数値を基にどのくらい疲労が溜まっているのか、次の練習に向けた準備がどのくらいできているかを判定するデバイス』だと説明しています。
実は開発からすでに15年ほど経っているのですが、動機となったのは伝統的なトレーニングに対する疑問でした。サッカーに限らず多くのプロスポーツで、監督を筆頭にアシスタントコーチやフィジカルコーチ、メディカルスタッフが連係してトレーニングのスケジュールを組み立てますが、以前は全選手がほぼ同じメニューをこなすのが当たり前でしたし、いまだにそういうチームが少なくありません。ですが、それは正しいとは言えません。当然のことですが、選手の身体は一人ひとり違っていて、試合や練習後の疲労度やフィジカルコンディションの回復に要する時間にも個人差があるからです。試合後24時間でリカバリーできる選手もいれば、48時間必要な選手もいるでしょう。ですから、本当なら次の練習でどれだけトレーニングの負荷をかけるか、調整しなければならないはずです。
にもかかわらず、トレーニングメニューは同じでした。(疲労度や回復時間に)個人差があること自体はわかってはいても、実際にどれくらいの負荷をかけるのが適切なのかを知る方法がなく、(トレーニングメニューを)選手に合わせてカスタマイズするのが難しかったからです。それを把握して選手に合わせたトレーニングメニューを作るためには、それぞれの選手の疲労度や回復具合の客観的なデータが必要です。そうしたデータを計測するために作られたのがこのOmegawaveです。
アマチュアならまだしも、どんどん高度化していくプロスポーツの世界ではディテールが勝敗を分けるようになってきています。最近になってようやく、こうした取り組みへの注目が高まってきたところです」
――客観的なデータを計測して選手のコンディションを把握する、というお話ですが、具体的にどういったデータを測定するのでしょうか?
「Omegawaveで測定するのは主に2つ、脳波と心拍変動です。とはいえ、試合や選手の個人スタッツとは違って、具体的な数字がわかったところでその道の専門家ではないコーチングスタッフの方にはそれが何を意味するのかわからないでしょう。ですが、心配はいりません。ここは特に強調しておきたいところであり、また勘違いされやすいところでもあるのですが、Omegawaveは単にデータを測定するためのものではありません。測定したデータを基に、それぞれの選手が現在どういったコンディションで、どれくらい負荷をかけられるかをわかりやすく判定してくれるのです。コーチングスタッフはそれを見て、じゃあ今日は別メニューにしておこうか、といった具合にメニューを調整するのです」
――コンディションを判定してくれるとのことですが、読者がイメージしやすいようにもう少し詳しく説明してもらえますか?
「データのアウトプットは耐久力、スピード、パワー、コーディネーションスキルの4つに分かれていて、項目ごとにシグナルで状態を教えてくれます。赤は練習を避けた方がいい、黄色は消耗している状態、緑であれば良好を意味します。例えば、月曜日の朝に計測した際、パワーは赤だけどコーディネーションスキルは青だったとしたら、パワー系のメニューに関しては回避して個別メニューにする。(練習を)やるかやらないかの2択ではなく、疲労が溜まっている箇所を考慮して選手に合った練習メニューを組むことができるのです」
――今はトレーニングの話でしたが、試合に関しても同様に判定するのでしょうか?
「メッシやクリスティアーノ・ロナウドのようなスーパースターであれば、たとえコンディションが70~80%の状態でプレーしても他の選手よりうまいですよね。逆に一般的な選手であれば疲労度を考慮して、トップパフォーマンスができる控えの選手を起用した方がいいかもしれません。Omegawaveは客観的なデータを基に選手の状態をアドバイスはしますが、最終的に起用するかどうかを決めるのは監督です」
――データの集計にはどのような機器を用いるのでしょうか?
「『footballista』の読者であればご存知の方も多いと思いますが、ヨーロッパのトッププロサッカークラブの場合、トレーニング中、たくさんのテクノロジーを使って選手の心電図やGPSで動きを計測しています。ただ、このOmegawaveはそうした練習中の計測機器とバッティングすることはありません。Omegawaveによる計測を行うのは休養時なので、練習中は他のテクノロジーを使うことが可能なんです」
――Omegawaveの効果を実証する、具体的な例があれば教えてください。
「アメリカのケンタッキー大学による2005年の科学調査で、アメリカンフットボールのトップチームに所属する60人を対象に1シーズン(約8カ月間)かけてテストを実施しました。30人は伝統的な、決まったスケジュール通りの練習を行い、もう半分の30人はOmegawaveを使ってコンディションに合わせて負荷の調整を行いました。そして、彼らが試合でどれくらいトップパフォーマンスを披露できるか、客観的な指標を基に比較したのです。その結果は非常に興味深いものでした。Omegawaveを使用したグループは、伝統的練習メニューをこなしたグループに比べ練習時間が20%減少したにもかかわらず、パフォーマンスは向上していたのです。また、フィンランドにあるスポーツ生物学の分野で世界有数の大学で行われたランニングの実験でも、同じような結果が出ています」
――それは凄いですね。欧州や南米のトップクラブが導入していると聞いたのですが具体的に教えていただくことはできますか?
「代表例は、昨シーズンの全国選手権を制したブラジルの名門コリンチャンスです。クラブの理学療法部門および生体力学研究部門の主任コーディネーターを務めていたブルーノ・マッチオッティが、『Omegawaveは我われのリーグ優勝に不可欠だった。非常にタフなリーグであるセリエAにあって、我われは全クラブの中でも負傷の割合が最も低く(セリエAの平均負傷者数が延べ65人であったのに対し、コリンチャンスは22人だった)、最も多くの試合でベストメンバーを組むことができた。我われの試算では、セリエAのクラブは年平均450万レアル(約1億5000万円)もの費用を治療やリカバリーに費やすが、我われはたったの170万レアル(約5800万円)で済んだ。経費の節減という意味でも非常に大きな効果があった』と絶賛しています。
欧州でもみなさんが知っているようなクラブやサッカー協会で導入されているのですが、残念ながら具体的な名前をお答えすることはできません。現代サッカーは情報戦の様相を呈してきており、こうした最先端技術を使用していることを明かしたくないと考えるクラブが多いのです。
ただ、みなさん日本人に馴染みのある名前を挙げると、昨年までフィンランドのヘルシンキでプレーした田中亜土夢選手がOmegawaveの本社を訪ねてくれました。その時の写真が彼のインスタグラムにアップされています」
――現在、ヨーロッパのビッグクラブに所属する選手たちは中2、3日で週に3試合を戦う厳しい日程を強いられており、試合数を減らすべきだという議論もあります。Omegawaveのような技術が広まれば、選手にとって現在の日程は過酷ではなくなるでしょうか?
「監督によって違いはありますが、基本的にはほとんどの監督が、保守的で可能な限り自らがベストと考える選手とシステムで常に戦いたいと思っているはずです。しかし、限界はあります。Omegawaveが、そうした選手のコンディションをコントロールするのに役立つのは間違いありません。とはいえ、我われのシステムはマジックではありません。多くの選手にとってベストパフォーマンスができるような環境を作れるようサポートはしますが、監督の理想を完璧に実現すると保証するようなものではないのです」
――最後に、日本での説明会に向けてメッセージをお願いします。
「日本では沖縄、宮崎、鹿児島の3カ所でセミナー・デモンストレーションを開催することになっており(編注:以下説明会概要参照)、今回の来日を凄く楽しみにしています。Jリーグのプロフェッショナルなコーチ、フィジカルコーチ、メディカルスタッフがどういう仕事をしているのか、我われがどういうサポートができるのか、情報交換ができればと思っています。
私はこの半年の間に3回、中国を訪れました。中国では五輪競技や大学の研究レベルでOmegawaveに凄く興味を持ってもらうことができました。ですから次は日本で、多くの人たちと出会えることを楽しみにしています」
――本日はありがとうございました。
■プロフィール
Mikael LIIMATAINEN
ミカエル・リーマタイネン
(Omegawave グローバルマーケティング担当)
1979.5.28(38歳) FINLAND
国際営業やビジネスコンサルタントを経て4年前にOmegawaveに入社。営業活動はもちろん、プロクラブやコーチと直接やり取りしてOmegawaveの使用をサポートしている。
Profile
久保 佑一郎
1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。