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「デュエル」の強さは必要ない? RBライプツィヒの先鋭的実験

2018.02.01

グループを挙げて追求する「パワーフットボール」の正体


ゲーゲンプレッシングの求道者ラルフ・ラングニックが戦術コンセプトを横展開しているRBグループのスタイルは、一見するとドイツらしい「ツバイカンプフ」(1対1)のサッカーの進化形に映る。しかし、ドイツの異端者たちは「個」ではなく「群れ」であることを強調する。フィジカルコンタクトの強さでは欧州最高峰の一角に位置するRBグループが追求する「デュエル」の先にあるものを伝えたい。

 徹底したボールオリエンテッドな(人ではなくボールの位置に応じた)ゾーンディフェンスでボール周辺に数的優位を作り出し、奪ったら一気に相手ゴール前に攻め上がる――これがRBライプツィヒやザルツブルクをはじめとするRBグループの戦術に対するイメージだろう。インテンシティの高いユニークなスタイルの根底にはどんな戦術思想が流れているのか? ドイツサッカーを変革しつつある『RBコード』を解き明かしたい。

RBグループのコンセプトの源流
「ドイツ国内にお手本がなかった」

 RBグループの主なキーパーソンは2人。1人目はグループ全体のスポーツディレクターを務めるラルフ・ラングニック、そして2人目は戦術アドバイザーのヘルムート・グロースだ。前者はプロ選手としての経験がないにもかかわらず、ブンデスリーガで成功を収めた「ラップトップ監督」の先駆者。後者はボールオリエンテッドなゾーンディフェンスを80年代のドイツで最初に実践した人物で、橋の建築士を本業としながらシュツットガルトの育成部を統括していた。

中央がラルフ・ラングニック、右がヘルムート・グロース

 2人に共通しているのが、ディナモ・キエフの名将バレリー・ロバノフスキーへのシンパシーと、ドイツで長らく主流だった3バックのマンツーマンディフェンスへの拒否感だ。グロースは、80年代にボールオリエンテッドなゾーンディフェンスを導入したきっかけをこう語る。

 「建築のエンジニアの同僚にサッカーをやたら分析的に見るやつがいてね。当時のシュツットガルトのリベロの選手が、マンマークでついている味方選手の1対1に加勢に行くと必ずボールが取れたんだ。このコンセプトはそこから発展していった」

 ラングニックはロバノフスキーの影響を明かす。「1984年にプレーイング・マネージャーを務めたバックナンの街で、たまたま近くでロバノフスキー率いるディナモ・キエフがキャンプをしたんだ。試合を見ていて、10分もしないうちに何かがおかしいとわかったよ。明らかに人数が多く見えるんだ。混乱したね。慌てて数えたら、キエフの選手はやはり11人だった。感覚としては、向こうは13人くらいに見えた。彼らはピッチの距離をうまく分割して、強烈なプレスを仕掛けていた。次の日からさっそくキエフの練習所に出かけたよ。彼らのサッカーはドイツとはまったく違った考え方をしていたんだ」

 ロバノフスキーの監督としての全盛期は70年代から90年のソ連崩壊までの約20年間。ウクライナの偉人は「攻撃するためには、ボールを奪わなければならない。その時に5人で行うのと11人で動くのとどちらが簡単だろう? サッカーで重要なのは、選手がピッチ上でボールを持っていない時に何をするかだ。素晴らしい選手というのは、99%のハードワークと1%の才能の結果だ」と現在のRBグループのコンセプトの原型となる言葉を残している。

 「戦術というのは、相手にミスを犯させるように強要するものだ。言い換えれば、自分たちが望むように対戦相手を動かすこと。その時に重要なのはスペースを操ることだ」というロバノフスキーのコンセプトを信奉し、イタリア人らしく戦術的なディテールを詰めて現代サッカーの基礎となるゾーンディフェンスを完成させたのがアリーゴ・サッキだ。グロースはラングニックと2人でサッキのサッカーをビデオが擦り切れるまで研究したという。

 「当時3000マルクもするビデオデッキを買ったが、何度も巻き戻しとスローを繰り返していたら、すぐに壊れてしまったよ。だからビデオの編集ができるようにさらにビデオデッキを2台買いそろえたんだ(笑)」

 ラングニックはさっきだけでなく、ゼーマンサッカーの研究者でもある。 

 「91年にたまたま休暇を取っていたら、プレッシングとゾーンディフェンスの先駆者の一人であるズデネク・ゼーマンのフォッジャがキャンプを張っていてね。カミさんには申し訳なかったけど、毎日練習を見学に行ったよ」

 80年代から当時ドイツでは異端とみなされていたボールオリエンテッドなゾーンディフェンスを独力で吸収してきたグロースは「この40年間、基本的なコンセプトは変わっていない。ただ、選手に求められる認知のスピードが圧倒的に違っているがね」とRBグループの戦術コンセプトの骨格は一貫して変わっていないと自負している。

認知のトレーニング:「脳神経系に注目している」

 RBグループには、2人の構想を実現するためのトレーニングコンセプトが準備されている。これはRBライプツィヒ、ザルツブルク、ニューヨーク、そしてサンパウロでも共有され、各地に定期的に講師が訪れ、コーチ陣のために少人数のワークショップが開かれている。戦術ブロガーとして名を馳せ現在はザルツブルクでアシスタントコーチを務めるレネ・マリッチは「選手の成長を助けられるトレーニングメソッドとプレーコンセプトにおいて、RBグループは素晴らしいものを持っている」と絶賛する。

 選手の成長のためにグロースが常に強調するのは、「認知→判断→実行」に至るまでの脳神経系のスピードを上げることだ。とはいえ、ライフキネティックなどの脳や神経系に同時に負荷をかけながらコーディネーションを高めるやり方は、ドイツのトップレベルではすでに浸透している。

 では、RBグループの特徴はどこにあるのか?

 それは常に縦パス→プレスを繰り返すテンポの速いプレースタイルの徹底と、ゲーム形式のトレーニングで意図的にスプリント数を増加させるような状況設定の仕方にある。グロースは言う。

 「我われのインテンシブなトレーニングで(戦術と同時に)フィジカルを鍛えられるのは証明できている。フィジカルに特化したトレーニングは各選手の弱点を補う補足的なものになる。(サッカー選手の)フィジカルの発展はすでに限界に達しようとしている。今後は認知に関する脳神経系のトレーニングに注目している。例えば、極力狭いスペースの中で、どれだけ速く正確に戦術・技術的な判断が下せるようになるかというね」

 ラングニックも同じ意見だ。

 「我われは基本的に制限付きのゲーム形式のトレーニングを行っている。例えば、1秒ごとに大きな音が鳴り、10秒でブザーが鳴るカウントダウンタイマーを設置して、それ以内にゴールを決めるようなルールにしたり、ピッチ上のプレーゾーンを制限したりね。例えば、ピッチ右側の大外部分と中盤のセンターサークルまでのエリアを使用禁止にし、左サイドの極端に狭いスペースを通過して一気にゴールに迫ることを求める『バナナ』といったゲームもある」

 グロースは「速さ」をキーワードに挙げる。

 「我われのトレーニングはとてもダイナミックで、スモールフィールドでのトレーニングでは時に30秒から60秒程度の短時間で終わるケースもあるが、その代わり実際の試合ではあり得ないスピードで行われる。しかもすべての物理的な速さはGPSによって管理されている。状況をデフォルメして行うことでコンセプトの理解はより深まる」

 プレーテンポが「速い」からこそ、急激に入れ替わる状況を素早く把握する「認知」が重要になる。レネ・マリッチは、サッカーにおける認知のメカニズムを学ぶため大学で心理学を専攻しているほどだ。グロースもスマートフォンやデジタル技術による認知のトレーニングに興味を抱いている。

 テクノロジーの活用に関してはホッフェンハイムが先を行っている。だが、ここで見落としてはいけないのは、RBグループのプロジェクトは実質オーナーのディートマー・ホップと喧嘩別れし、夢半ばで挫折したラングニックのプロジェクトの延長なのだ。つまり、ホッフェンハイムにもラングニックのビデオ分析やゲーム形式のトレーニングによるコンセプトの落とし込みのノウハウは蓄積されており、それを見事に開花させたのが当時ホッフェンハイムのU–17コーチとしてやって来たばかりのユリアン・ナーゲルスマンなのだ。だが、ピッチ上で行われている両者のサッカーはまるで違う。ホッフェンハイムは認知トレーニングのメソッドは受け継いだが、ラングニックのプレーコンセプトは一度破棄しているからだ。ここで初めてプレーコンセプトあるいはシステムがテーマになる。

[4-2-2-2]が形成する六角形「群れとしてボールを狩る」

 グロースが頻繁に使う言葉に「群れ」がある。

 「我われのコンセプトを実現するためには、いかに群れとして効率的に数的優位を作れるかという点に懸かっている。各選手がただ速く走ればいいというものではない。各選手が群れとして素早く予測し、賢く判断する。群れとして作業を行えば、個人よりもはるかに大きな物事を成し遂げられる。群れはそれぞれがお互いのことを考え、同じビジョンの下に予測し、共同作業をし、走り回り、素早く反応しなければならない」

 ラングニック、グロースとともに現在のシステムを考案したロジャー・シュミットも『キッカー』誌のインタビューで「ボールを中心に集団としてボールを狩りに行く」と話している。彼らにとって重要なのはボールを中心に囲む群れであり、その中の一局面を切り取ったツバイカンプフ(1対1)ではない。

 ボールへのコンタクトが強いので誤解されているが、それは相手の足下にボールがあるのでそう見えるだけであって、アタックに行くのは「ボール」であって「人」ではない。1人がボールにアタックに行けば、もう1人はボールの行き先を限定し、さらにもう1人はそのカバーに回る……。RBグループの戦術にはボールを狩りに行く群れとして効率的に動くことがプログラミングされている。2010年W杯前、日本代表の岡田監督が「ハエがたかるように何度もチャレンジしていく」と目指すサッカーを表現したが、基本的なコンセプトは似ているかもしれない。

 ここでもう一度ロバノフスキーの言葉を引用する。

 「戦術はベストな選手に合わせるのではなく、彼らが我われのサッカーに合わせるのだ。我われは科学的な方法に基づきながらチームを形作る。だから、すべての選手が我われのサッカーに適しているわけではない」

 RBグループも基本的にこの考えに則っている。ラングニックが行っているように、選手をできるだけ早い段階で獲得するのは、頭が真っ白な若手の方がRBグループのシステムに適応しやすいからだ。ロジャー・シュミットがレバークーゼンを解任された時、彼のコンセプトに不安を持ったベテラン勢と続けたがった若手でチームが真っ二つに別れてしまったことが象徴的だ。

 レネ・マリッチは戦術ブロガーだった時代に「フォーメーションとは、スキーム(型)のことで、システムとはこのスキームを生かしてチームのコンセプトをピッチ上に落とし込む原則の総体を示す」と書いている。では、RBグループによるシステムとはどのようなものか。RBライプツィヒが基本的に一貫して[4-2-2-2]を貫くのに対して、ザルツブルクは監督によって流動的だ。

 ここでは例としてRBライプツィヒの[4-2-2-2]のスキームの話をしよう。まず、このシステムを構築したのがロジャー・シュミットとヘルムート・グロースということに注目したい。「ハニカム構造」というのをご存知だろうか? 材料工学でのタームで、ダンボールや建築の現場などで一般的にもよく使われている。これは1つの均一の図形で平面を埋め尽くす時に最も負荷への耐性が強いのが六角形という特性を生かした構造だ。というのも、六角形は平面を埋め尽くせる図形の中で最も周の長さが短い。つまり、選手間の距離を効率的に分配し、全体がコンパクトなシステムを構築するためには六角形が最も理想的なフォルムとなる。ロジャー・シュミットはプラスチック工学のエンジニアとして、グロースは橋の建築士として、ともに材料工学に精通しており、幾何学的な計算には慣れている。グロースは「私は職業上、サッカービジネスの世界から独立していることで、業界の外も見ることができるし、より自由に考えられる」と自身の特徴を話している。


図1 中央の六角形


図2 サイドの六角形

 図は中央とサイドでのRBライプツィヒのプレッシングの様子を俯瞰したものだ。ボールの位置や試合の流れの中で誤差は出るものの、チーム全体の大枠が六角形のブロックになっており、その中に均等の位置関係で選手がポジショニングすることで無数の多角形が配置される。ゆえにどこにボールが入ってもボールを中心に六角形が収縮していき必ず数的優位を作れる仕組みになっている。

 重要なのは、この設置した群れの中にボールを誘い込むこと。相手がボールを持っている場合は、パスコースを限定することで狙いの位置にボールが入るまでプレスのスイッチを入れるのを待つ。囲い込んでボールを奪ったら縦に素早く攻めるのが原則で、後方からロングボールを送る時はあらかじめトップの選手の周囲にポジションをセットし、セカンドボールに備えておく。その際、実際にボールが収まるか、ヘディングで味方が競り勝つかはあまり関係ない。ただ、相手に楽にヘディングさせず、五分五分のボールがセットされた群れの中にこぼれれば、あとはそれを迷わず狩りに行くだけだ。

 普段のトレーニングで徹底して鍛えられたスプリントと「認知→判断→実行」の反応速度は相手よりも素早い出足でボールを奪取することに役立つ。奪ったボールはすぐにスピードあるドリブラーたちに預けられ、相手の守備ブロックを一気に突破する。

 ボランチのタスクとして特徴的なのは、このドリブル能力だ。ナビ・ケイタやカンプルはボール奪取はもちろん、ダイナミックなドリブルによってRBライプツィヒの攻撃を加速させる。とはいえ、闇雲にボールにアタックしに行くわけではない。下図はRBライプツィヒのピッチ分割法を示している。日本ではアタッキングサード、ミドルサード、ディフェンディングサードという三分割が一般的だが、彼らは四分割でピッチをとらえており、積極的にプレスをかけるのはエリア2と3に限定される。


図3 RBグループのピッチ分割法

 エリア1に関してはゲーゲンプレッシングがハマる場合は積極的にアタックに行くが、相手がノープレッシャーでボールを保持している場合はセットしたポジション(エリア2または3)まで撤退する。また、エリア4にボールが入った場合も即撤退してゴール前にブロックを作る。ハリルホジッチ監督の言うところの「デュエル」を積極的に行うのは、RBグループでは中盤の位置(エリア2と3)。つまり、ファウルで止めても危険にはなりにくいエリアということになる。ここまでの解説でもわかるように、ラングニックやグロースはRBグループのコンセプトやシステムをオープンにしている。なぜ、秘伝のレシピを隠さないのか? ラングニックはその秘密は3つの「C」に集約されているという。

 「資本(Capital)、コンセプト(Concept)、能力(Competence)の3つがそろえば、RBを真似できると思うよ。でも、そのうちのどれか1つでも欠ければ難しい。ただ、今のブンデスリーガの順位が資金力通りの並びかと言えば、そうでもない」

 近年のRBライプツィヒの躍進は、クラブ組織全体の規模と効率性が鍵を握ることを示している。少なくともそれは簡単に真似できるものではない。


Photos: Bongarts/Getty Images

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RBライプツィヒデュエルヘルムート・グロースラルフ・ラングニック

Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。

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