1試合で頓挫。中国U-20代表のドイツ4部リーグ参戦が残した禍根
1シーズンを通して行われるはずがわずか1試合で問題が噴出し、結局17年12月23日に中止が正式発表された中国U-20代表チームのドイツ4部・レギオナルリーガ参戦はドイツでどう受け止められていたのか。国内の反応をおさらいする。
11月末にマインツの小さなスタジアムで起きたことに、ブンデスリーガのマネージャーや財務責任者たちは密かに驚愕を覚えたはずだ。
2020年の東京五輪に向けた準備としてテストマッチの相手を探していた中国サッカー協会は、ドイツでその機会を得た。世界王者であるドイツのサッカー界は、新しい市場を開拓するというアイディアに取り憑かれており、5億人のサッカーファンがいるとされる中国は、札束に目のないフロント陣にとってこの上ない金脈に映ったことであろう。
こうして両者の思惑が一致した結果、実現したのが中国U-20代表のドイツ4部レギオナルリーガ参戦だった。対戦したクラブは試合ごとに1万5000ユーロ(約200万円)を得ることになっていた。
ところが、初戦でいきなり事件が起きた。6人の平和的なチベットのアクティビストたちがチベットの旗を掲げ、それに対する抗議として中国人選手たちが途中で試合をボイコット。中国で生中継されていた記念すべき一戦が、30分間にわたって中断されたのだ。試合後の協議の結果、とりあえずの処置としてプロジェクトは中断されることになり、その後結局はプロジェクト自体の中止が決定された。
「ナチスを支援するのも同じなのか?」
今回も、ただのサッカーファンの方が、カネが稼げる機会を見つけると容易に現実感覚を失うドイツサッカー連盟(DFB)の人間たちよりも賢かった。今回の計画の第一報が報じられた直後から、活動的なファンはサッカー界の果てしない金欲について嘆いただけでなく、道徳的な面を憂慮してもいた。ファンは「中国で言論の自由が抑圧されていることを指摘し、それはDFBの道徳基準に沿うものなのか? と説いていた」と『南ドイツ新聞』は思い起こす。
世界に対してオープンで前衛的であるように見せたがるDFBは、ジレンマを抱えることとなった。中国側の要求があまりにも理解に困り、非民主的であったからだ。
中国共産党の機関紙『人民日報』の英語版は、今回の事件のことを「ゲストに対する平手打ちだ」と非難した。「ドイツ側の責任者たちは、ホストとして見合わない自分たちの態度を恥じるべきだ」と。さらには、チベットの旗を見せるのが言論の自由であるという考えを厳しく批判してもいる。「言論の自由には限界がある。それとも、ドイツではナチスを支援することも同じように扱うというのか?」とさえ論じていたのだ。
どうやら中国人は、かの国ではよくある反体制派の弾圧を欧州へ“輸出”するつもりらしい。いずれにせよ、彼らの自国民に対するメッセージは明らかだ。『ベルト』紙はこれを「中国U-20代表チームが試合をボイコットしたのは、国民に対する“ゲームのルールを決めるのは自分たちだ”という意思表示である」と解説する。
また、それでなくとも数々の事件でまいっていたDFBは、この問題への対応で自分たちの評判を自ら、ますます台なしにしてしまった。
中国との協力関係を中断すると発表したDFBは、その理由を「さらにエスカレートする恐れがあるため」と説明した。これに対し、『シュピーゲル』誌は「エスカレートという言葉の意図するところを、よく噛み砕かなければいけない」と忠告。「彼らの言うエスカレートが指すのは、“一つの中国”政策に対する平和的な抗議のことだ。だが、チベットの自決権が大いに侵害されていることは、中国以外ではもう長年来、認知されていることだ」と続ける。
DFBは中国側にはっきりした態度を示すのではなく、「試合が何人かの観客に利用された」と嘆いた。「中国の代表チーム、サッカー協会、観客たちの心情を傷つけるメッセージを送った」として。『フランクフルター・アルゲマイネ』紙はDFBのこの声明の内容を、「言論やデモをする自由に議論の余地はないにもかかわらず、どこを探してもそうした言及は出てこない」とその姿勢を糾弾している。
悪しき未来への予兆?
ザンクトパウリのマネージャーであるアンドレアス・レティッヒにとって、今回の一件は喜ばしくない将来の始まりでしかない。サッカー資本主義という病巣に対し以前から批判的だったレティッヒは、今回の事件に対する中国側の過剰反応を、ブンデスリーガへの“警鐘”だと捉えている。外国資本を呼び込むために、「50+1ルール」が失われる日がいつか来るのではないか。もしそうなれば……という危惧である。ゆえに「アクティビストたちが中国の仮面を剥ぎ取ったのはいいことだ」というのがレティッヒの意見であった。
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Profile
ダニエル テーベライト
1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。