欧州「移籍ゲーム」を動かす大物代理人たち
信じられないお金が動く昨今の移籍市場はドライな契約関係という印象が強いが、同時に「人間関係」がものを言う“コネの世界”でもある。例えば、ポグバ加入以降のマンチェスター・ユナイテッドにミーノ・ライオラの顧客が集うのを「偶然」と考える人間は皆無だろう。非現実的なマネーゲームを加速させたのも代理人なら、ビッグディールの裏にある人間ドラマの脚本を書いているのも代理人。誰と誰が繋がっていて、影響力の強いクラブはどこなのか? 大物代理人を知ることは、イコール欧州の移籍市場のカラクリを知ることでもある。
#2
Volker STRUTH
フォルカー・シュトルト
株主のうかつな一言が、フィクサーの存在を表舞台に出してしまった。ハンブルクは資金難に陥って以来、運送業で富豪になったキューネの資金に助けられてきた。すでに約6000万ユーロ(約78億円)が出資され、同氏の株式保有率は17%にもなる。そのオーナー的存在のキューネが、8月中旬、『スカイ』のインタビューでこう口を滑らした。
「もしウッドをチームに留められないのなら、ハーンの移籍金は出資できない」
結局、ウッドはハンブルクと契約を延長し、給料が2倍の年俸300万ユーロに。ハーンはボルシアMGから移籍金600万ユーロでやって来た。
なぜこの発言が炎上したのか? ウッドとハーンの代理人が、ドイツで最も有名な代理人、フォルカー・シュトルトだったからだ。
シュトルトは25歳の時に事務用品の会社を起業し、3年で業界のトップになった。続いてイベント会社を立ち上げ、2006年W杯に向けて車にドイツ国旗をつけるムーブメントを起こして、10万本を販売。そして代理人事務所『シュポルト・トタール』を設立すると、レバークーゼンの元マネージャーのカルムントの後押しと、優れた営業力によって急拡大。現在クロース(レアル・マドリー)、ロイス、カストロ、トプラク(ドルトムント)、ヘベデス(ユベントス)、ティモ・ホルン(ケルン)、ウッド、ハーン(ハンブルク)らと契約している。2016年まではゲッツェの代理人を務め、2014年W杯では控え役だったゲッツェを電話で励まし続けた。親友のようなコミュニケーションが彼の武器だ。
ネットワークが高く評価され、2016年2月にカルムントの紹介でキューネと会談。キューネの個人的なアドバイザーになった。同年11月に契約が解消されたと報道されたが、今回の一件で今でも近い関係にあることがわかった。有名選手だけでなく、クラブをも操る。「ドイツ版メンデス」と言われるわけだ。
クラブのオーナーが選手強化に口を出すのはリーグ規約に抵触するため、シュトルトはキューネとともに批判の対象になっている。だが、一切動揺を見せず、同時にヘベデスのユベントス移籍交渉を成功させた。これからもドイツサッカー界の裏側で、この天才的な営業マンが暗躍していくだろう。
Photo: Getty Images
TAG
Profile
木崎 伸也
1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。