欧州「移籍ゲーム」を動かす大物代理人たち
信じられないお金が動く昨今の移籍市場はドライな契約関係という印象が強いが、同時に「人間関係」がものを言う“コネの世界”でもある。例えば、ポグバ加入以降のマンチェスター・ユナイテッドにミーノ・ライオラの顧客が集うのを「偶然」と考える人間は皆無だろう。非現実的なマネーゲームを加速させたのも代理人なら、ビッグディールの裏にある人間ドラマの脚本を書いているのも代理人。誰と誰が繋がっていて、影響力の強いクラブはどこなのか? 大物代理人を知ることは、イコール欧州の移籍市場のカラクリを知ることでもある。
#1
Jorge MENDES
ジョルジュ・メンデス
2016年の『フォーブス』誌のスポーツ代理人の高額所得者ランキングで世界2位(サッカー代理人では1位)、『グローブ・サッカー・アワーズ』では2010年から6年連続で世界最高代理人に選ばれ、彼の率いる代理会社『ジェスティフテ』は選手の資産価値で世界1位(『トランスファーマルクト』調べ)――。そんな名実ともに世界一の代理人ジョルジュ・メンデスの権勢に陰りが見える。
17年夏の高額移籍ランキングにベルナルド・シルバ(8位)、エデルソン(17位)、アンドレ・シルバ(20位)、ネルソン・セメド(26位)を送り込んでいるが、かつてロナウド、ディ・マリア、ハメスをレアル・マドリーに送り込んだ時のような派手さはない。メンデスの抱える大物顧客は30歳前後となり、次に続くはずのハメスやアンドレ・ゴメス、ジエゴ・コスタは伸び悩んで市場価値を下げている。
夏、代わりにメディアを騒がせたのが脱税疑惑。ロナウド、モウリーニョ、ファルカオ、ディ・マリアらメンデスの顧客7人が次々とタックスヘイブンを使った税逃れの疑いで起訴され、メンデスも参考人として証言台に立っている。ジェスティフテが脱税に関与したかどうかはわからないが、ここ2、3年メンデス周辺にダーティなイメージがつきまとっているのは確かだ。シンガポールの富豪をバレンシアに連れて来てクラブを救済したまでは良かったが、息のかかったヌーノを監督として送り込んでメンデスがスポーツディレクションを牛耳るプランは、大失敗。FIFAが第三者保有を禁止したせいで、投資ファンドを使ったビジネスもやりづらくなった。
サッカー界以外から資金を流入させれば移籍金は高騰する。そうすれば移籍の手数料も高騰するし、資金流入の口利き役としての仲介料が手に入る。この一石二鳥のビジネスモデルを考え出したのがメンデスだった。だからこそ、ジェスティフテは代理業に止まらない総合的なコンサルタント業を売り物としているのだが、それが「クラブ経営への介入」とか「選手の株式化」などと今日、批判される理由となっている。先見の明があり商売の才に長け過ぎている点が、FIFAを頂点とするエスタブリッシュメントの反発を買っているかのように見える。
Photo: Getty Images
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。