10年経ち、あらためて思い知る中村俊輔“FK2発”の衝撃
私が目撃した、チャンピオンズリーグ名勝負#1
欧州最高峰のコンペティションとして、これまで幾多の伝説をサッカー史に刻んできたUEFAチャンピオンズリーグ。その名勝負誕生の瞬間にスタジアムで立ち会った『footballista』執筆陣が、当時の興奮や感動を振り返る。
豊福晋氏が見届けた名勝負
06-07 セルティック vs マンチェスター・ユナイテッド
今から10年と少し前、英国の戦いというものがあった。
「バトル・オブ・ブリテン」
もちろんこの時期、(幸いにも)実際には英国で戦争も内紛も起きていない。UEFAチャンピオンズリーグで対戦するマンチェスター・ユナイテッドとセルティックの試合に、英国メディアが仰々しい名前をつけて煽ったのである。随分と時が経った今も、このフレーズのことはなぜかはっきりと覚えている。
このカードは結局のところ、グループステージの2試合に過ぎなかった。だが、イングランドに対して敵意をむき出しにするスコットランドでは、その年の大一番でもあった。
第1戦の舞台はマンチェスターUの本拠オールド・トラッフォード。緑色のサポーターは車で、列車で、バスで、“国境”の南を目指して戦いに出かけた。一方、マンチェスターUサイドと言えば、もちろん盛り上がってはいたけれど、セルティックを取り巻く熱気と比べるとどこか冷めたところもあった。
それはそうだろう。
彼らは欧州の一流クラブだ。バルセロナやバイエルンとの試合こそがUEFAチャンピオンズリーグの大一番。多くの人の心に、そんな想いがあったはずだ。遥か北、スコットランドリーグのセルティックは、エリートの彼らにしてみれば、田舎からの来客でしかなかった。
オールド・トラッフォードの近くにあった、モーテルとホテルの間くらいの宿に泊まった。「グラスゴーから来たんだ」と話すと、主はふんと鼻を鳴らし、英国的な皮肉で歓迎してくれた。
「その日本人が活躍するといいね」
マンチェスターの伝統ある夕刊紙の記者に話を聞いても、まるで相手にされなかった。
英国の、マンチェスターの誇り。この国の歴史と同じく、とても深い。
そうして迎えた一戦。オールド・トラッフォードで、セルティックは2点を奪った。
壁の上をギリギリで越える、低い弾道の鋭いフリーキックが決まると、駆けつけた緑のサポーターは狂ったようにはしゃいだ。
試合に勝ったのは、地元ファンからすると「いつものように」マンチェスターUだった。しかし夢の劇場のスコアボードに映し出された選手の名を、彼らは数カ月後にもう1度目にすることになる。
2戦目の朝、古いアパートを出て、いつものように街の東の労働者が朝食を買いに来る売店で新聞を買った。映画『トレインスポッティング』に出てきそうな、床がチップスの油で滑る店だ。4年間通ったけれど、最後まで女店主が話すスコットランド英語は理解できなかった。そして、紙面は街の期待をそのまま凝縮したようなものだった。
(憎き)イングランド相手に勝利を――地元民は夢見た。それはプレミアリーグほど華やかな舞台の取材経験のないセルティックの番記者も同じだ。まだあたりが薄暗い朝から、人々の話題は試合のことで持ち切りだった。
グラスゴー住民の半分はセルティックの勝利を願い、青いシャツを着た残りの半分の人たちは惨敗を願った。いつものように。
試合は1本のフリーキックで決まった。
1戦目よりも遠い距離、左足から放たれたボールは横っ飛びしたオランダ人ゴールキーパーの長い手の先を抜けていった。
スタンドは揺れた。得点を祝う盛大な音楽。男達の図太い声が屋根に反響し、上から降ってきた。実況席からは叫び声が聞こえ、ファンは踊り出した。スコットランド人がこれほどまでに喜ぶ姿を見るのは初めてのことだった。
マンチェスターUもこれはまずいと攻め立てたけれど、セルティックのゴール前に立つ、少々腹の出たポーランド人が奇跡的なセーブを見せ、最後までネットは揺れなかった。
興奮していたのだろう。試合が終わってもしばらくの間、セルティックがマンチェスターUより先にグループ突破を決めたことに気がつかなかった。
グイドという名の、スキンヘッドの日曜紙の記者が教えてくれた。
「史上初の決勝ラウンド進出だ。彼はこのクラブの歴史に残ったんだ。お前、これから仕事が大変だな」
実際、それからしばらくは幸運なことに、とても忙しかった。携帯電話が鳴り止まないということが実際に起こるのだということを、たぶん人生で初めて知った。
それからずいぶんと経ったある年の冬、中村俊輔とグラスゴーを歩いた。
街は相変わらず不機嫌そうな灰色の雲で覆われていて、レンガのくすみも10年前のままのように見えた。人々が話す言葉はもちろん、難解な抑揚に満ちている。
当時通っていたイタリア料理店のナポリ人店主は昔のままの夏蜜柑の笑顔で迎えてくれた。タクシー運転手も、ホテルの受付も、街行く人も。誰もがあの夜について語りかけてくる。
「フリーキック、さすがだった」
僕はと言えば、ただそこで観ていただけなのになぜか感謝されることも多くて、日本人であることを誇りに感じたものだ。
セルティックパークで試合を観た。レベルは決して高くはない。あの時の魔法の雰囲気はなかったけれど、愛するチームを鼓舞する声は、今も図太く煉瓦のスタンドに響く。
ピッチに迎えられた英雄は、懐かしそうにファンに手を振った。マンチェスターU相手に決めた2本のフリーキックの映像が流される。拍手は止まなかった。
時は進み、街も、フットボールも変わっていく。それでも、かつて心を揺さぶられた記憶というのはいつまでもそこに残り続ける。
バトル・オブ・ブリテンと2本のフリーキックは、10年後の僕にそう教えてくれた。
○ ○ ○
そして、今なお欧州でも称賛の声が絶えないこの2試合が『スカパー!』で放送される。さらに、試合前には中村俊輔本人が振り返る “特別解説インタビュー”も放送!
グループステージを前に敗退に終わったセルティック移籍初年度、05-06シーズンの悔しさに始まり、「より神経が研ぎ澄まされる」「100%のプレーをすれば、自分の課題が見つかる」というUEFAチャンピオンズリーグという舞台ならではの感覚、当時世界最強だったマンチェスターU相手に感じた“世界との差”、「相手ファンの圧力よりも、たくさん来ていたセルティックファンの印象が強い」というアウェイの雰囲気や、ホームでの試合ではいつもと逆の左サイドで起用されロナウドとマッチアップした真相、そして「感触が残っている」と語るフリーキックの際の「あえて助走を短くした」といった細かな駆け引きに至るまで踏み込んで解説。衝撃的だった2試合についてたっぷりと語る、必見の内容となっている。
「名勝負クラシック」1月以降の放送予定
2007/08 ラウンド16 1st leg
ローマvsレアルマドリード
ラウールのアウェイゴールでレアルマドリードが先制もローマがオリンピコで意地の逆転劇。内容で上回る相手にローマのディフェンス陣の奮闘も光った一戦に。
1/2(火)後11:00 CS800/Ch.580 スカサカ!
2007/08 ラウンド16 1st leg
セルティックvsバルセロナ
中村俊輔がフル出場。展開的にはシーソーゲームも内容ではバルセロナが圧倒。他クラブが苦しむセルティックパークでも一味違うバルセロナは必見。
1/3(水)後11:00 CS800/Ch.580 スカサカ!
2007/08 ラウンド16 1st leg
アーセナルvsミラン
終始攻撃的な姿勢を崩さなかったアーセナル。このシーズン一番の出来を見せたと言っても過言ではないミラン。0-0の結果も、互いに高い集中力を見せた好ゲーム。
1/4(木)後11:00 CS800/Ch.580 スカサカ!
2007/08 ラウンド16 2nd leg
ミランvsアーセナル
サンシーロでヤングガナーズが躍動。攻撃的なスタイルで2試合を通じてアーセナルが前年度王者ミランを圧倒。若き司令塔セスクの支配力をまざまざと見せ付けた。
1/4(木)深1:15 CS800/Ch.580 スカサカ!
2007/08 ラウンド16 2nd leg
インテルvsリバプール
1st legは2-0、余裕を持って2nd legを迎えたリバプール。インテルも意地を見せるが、落ち着き払ったフェルナンド トーレスのスーパーゴールは一見の価値あり!
1/8(月)後11:00 CS800/Ch.580 スカサカ!
2007/08 準々決勝 2nd leg
リバプールvsアーセナル
84分にアーセナルが2-2とし、このまま行けば勝ち上がりはアーセナル。しかし、直後のジェラードのPK&このシーズンのアーセナルの象徴セスクが振り切られる形でバベルがダメ押し。リバプールが準決勝へ
1/9(火)後11:00 CS800/Ch.580 スカサカ!
2007/08 準決勝 1st leg
リバプールvsチェルシー
1st legから劇的展開。アンフィールドでリバプールが躍動も追加点を奪えずに入ると、最終盤にリーセがまさかのオウンゴール。結果的にはこれが悔やんでも悔やみきれない結果に…
1/10(水)後11:00 CS800/Ch.580 スカサカ!
2007/08 準決勝 2nd leg
チェルシーvsリバプール
もはや風物詩となった両者の対戦は延長までもつれ込む激戦に。天国の母に捧げたランパードのPKはUCL史に残る名シーンに。UCLにおいて立ちはだかり続けた赤い壁をブルーズがついに撃破した一戦。
1/11(木)後11:00 CS800/Ch.580 スカサカ!
2007/08 準決勝 2nd leg
マンチェスターUvsバルセロナ
スコールズのビューティフルゴールが最大のハイライト。ライカールトバルサは終焉を迎えることに。ユナイテッドが見せた”大人の”フットボールはこのシーズンの強さの象徴。
1/15(月)後11:00 CS800/Ch.580 スカサカ!
2007/08 決勝
マンチェスターUvsチェルシー
初のプレミア勢同士の決勝はPK決着へ。雨のモスクワ、テリーのスリップ、ロナウド歓喜の涙。ユナイテッドが”カンプ ノウの奇跡”以来の戴冠へ
1/16(火)後11:00 CS800/Ch.580 スカサカ!
詳しい放送予定、そして今シーズンのUCL放送情報はスカパー! サッカーUCLページでご確認ください!
Photos: AFLO, Getty Images