現場で感じるオランダサッカー
VVVフェンローが2部で戦っていた今からちょうど1年ほど前のこと。ハイ・ベルデン会長は「開幕直後から飛ばして1位に立つとプレッシャーがかかるから、終盤までは少し低い順位の方が良い。勝負どころでスパートをかけて優勝するのが理想的」と企んでいた。だが、その目論見は良い意味で大きく外れた。第16節で首位に立ったVVVは残る22節、その座を譲らず独走優勝を遂げた。
昨季が閉幕してからしばらく経ち、フェンロー市内でベルデン会長と会った。
「2部と違って、1部は開幕から良いスタートを切った方がいい。シーズン序盤である程度勝ち点を積み重ねておかないと重圧がかかってくるからね」
これが今季のプランである。
残留を果たすという目標に向けて、ここまでは順調に進んでいる。開幕戦でスパルタに3-0で勝利したVVVは第13終了時点で3勝6分4敗、勝ち点15を稼ぎ12位とまずまずの順位につけている。
秋空澄み渡る9月のある日、VVVの練習場を訪れると、コーチングスタッフも選手たちも、笑顔の中にもピリッとした空気が同居する理想的な雰囲気でトレーニングに励んでいた。この日は昨季までコーチを務め、今季からイングランド2部のリーズで新たなチャレンジを始めた藤田俊哉も練習を見に来ていた。
「今のパスワーク見た? まるで全盛期のジュビロのようだったよね」
鮮やかな崩しからのフィニッシュを見た藤田の口を突いて、2000年前後に自らもその一員として伝説の中盤を築いたジュビロ磐田の名が出てきた。
VVVの練習は、一つひとつのメニューが極めて短い。「マウリス(スタイン監督)は良い現象が1回出ると、そこでトレーニングをピタッと止めるタイプの監督なんだ」と藤田。良い感触をつかんだまますぐに次へ。好調チームのトレーニングはテンポ良く回っていく。
投資ファンドが可能にした日本人獲得
かつて、ベルデン会長は投資ファンドを活用して本田圭佑や吉田麻也、アーメド・ムサ(現レスター)らタレントを買った。その後カレン・ロバート、大津祐樹、田嶋凜太郎もプレーしたが、今は日本人選手の姿はフェンローの街にない。
「時代は変わった」。そうベルデン会長は言う。規制強化に伴い投資ファンドを使った補強ができなくなった今、VVVは予算規模に見合った選手を獲得しないといけない。選手予算わずか2億6000万円のVVVにとって、5000万円近いとも言われるEU外選手への最低年俸を払う余裕はない。
それでも、VVVと日本の絆は途切れていない。今もなお、ベルデン会長と日本のVVVファンクラブは交流を続けており、7月に有楽町で開かれた2部リーグ優勝祝賀会にはベルデン会長も参加したのだ。
2部だった昨季もスタジアムで日本人ファンを見かけた。彼らはこれからもVVVの試合に日本から通い続けるだろう。
Photo: VI-Images via Getty Images
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。