知っていると自慢できる!?ポジション名講座ドイツ編
ある事象を表現するには言葉が必要だ。ゆえに各国でポジションがどう呼称され、またイメージが共有されているのかにはそれぞれの国のサッカー観が表れる。ここではスペイン、イタリア、ドイツにおける「ポジションの呼び方」とそれにまつわるトピックを紹介する。
かつて右SBが「2」、左SBが「3」、守備的MFが「6」、CFが「9」のようにそれぞれのポジションが背番号で分類されていた頃の名残から、ドイツでは現場レベルでもいまだに番号で呼ばれるポジションがいくつかある。「ゼクサー」(6番)は守備的MFで「ツェーナー」(10番)がトップ下、そして「アハター」(8番)はその中間となる攻守両面での役割を担う。こうした番号によるプレーイメージは良く知れ渡っているので、指導の際には非常に使い勝手がいい。
例えば、試合前のミーティングで「お前は今日ゼクサーだ」とスタメンで伝えれば、それだけで「4バックの前で守備的な仕事をメインにこなしながら、攻撃時はシンプルにパスをさばいて前の選手を動かしていく」という大体のやるべきプレーを伝心することができる。ダブルボランチの時、1人には守備的な働きをさせるために「ゼクサーのように」と声をかけ、もう1人にはより攻撃にも関与してほければ「お前はアハターのつもりで」と言えば選手はバランスを取りながら攻撃にも顔を出してくれる。攻撃ばかりに気が回ってしまうと試合中に「お前はツェーナーじゃないぞ!」という叱責がベンチから聞こえてくる。ドイツの週末、ごくごく日常的に見られる風景だ。
ドイツ独特の表現で、言い回しとして面白いと思うものもいくつかある。例えば、2トップでプレーする時は1人を「シュトースシュトゥルマー」、もう1人を「ヘンゲンデ・シュピッツェ」と使い分けることが多い。シュトースシュトゥルマーの「シュトース」は「突き当たる、押し込む」の意、「シュトゥルマー」はFW。2トップのコンビのうち、体格的にも大きく、相手の激しいマークにも負けず相手守備を押し込んでいく典型的なCFタイプがこう呼ばれる。一方のヘンゲンデ・シュピッツェは直訳すれば「ぶら下がっている尖端」とでもなろうか。どちらかというと小柄で俊敏なFWが、バラバラにではなくシュトースシュトゥルマーを支点にぶら下がり、周りを精力的に動いていくような役割を連想させる。日本で定着しているセカンドトップやシャドーストライカーという言葉と比較すると、より両FWの位置関係、相互の補完関係がイメージしやすい言葉が使われているのだ。
これらは昔からの伝統的な表現だが、比較的新しく生まれた言葉もある。ドイツと言えばかつては「ツバイカンプフ」=1対1ばかりがフォーカスされていた。だがその後、モダンで組織的な守備の仕方を模索する時代に突入。その流れの中で、守備組織の根本的な考え方を表す意味で4バックのことが「フィアラーケッテ」と呼ばれるようになる。これは大きな「発明」だったと思う。「フィアラー」は4人、「ケッテ」は鎖のこと。つまり、4人で鎖のように途切れず伸縮を繰り返しながら動く。子供にとってもわかりやすい考え方ではないだろうか。
ポジション名講座シリーズ
①「スペイン編」
②「イタリア編」
③「ドイツ編」
Photo: Bongarts/Getty Images
Profile
中野 吉之伴
1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。