知っていると自慢できる!?ポジション名講座#1 スペイン編
ある事象を表現するには言葉が必要だ。ゆえに各国でポジションがどう呼称され、またイメージが共有されているのかにはそれぞれの国のサッカー観が表れる。ここではスペイン、イタリア、ドイツにおける「ポジションの呼び方」とそれにまつわるトピックを紹介する。
最初に言っておくと、私は日本語で執筆する時にはスペイン語のポジション表記は使わない。右SBと書けばいいところを「ラテラル・デレーチョ」では長いしわかりにくいというのが1つの理由。もう1つの理由は、スペインにはスペイン語でしか表記できないスペイン発のポジションというのが存在しないからだ。これはスペインが戦術後進国で、例えば「リベロ」というのは名称も概念もイタリアから輸入したものが使われているから。「メディアプンタ」もトップ下も同じもので、スペイン語でしか表現できない微妙なニュアンスというのは存在しない。
ただ、これが戦術用語となると話は別。例えば、マークを外す動きには特別な用語が当てられ、しかも目的によって2種類に区別されるのだが、日本語がないので説明に苦労している。つまり、ポジション用語については日本語化が進んでいるが、戦術用語については発展途上というわけだ(これはおそらく、日本サッカーの戦術的立ち後れを意味する)。
話をポジション用語に戻す。表を見てほしい。
スペイン語のポジション表記は非常に単純だ。ほとんどが表のポジション名+「デレーチョ」(右)、「セントロ」(真ん中)、「イスキエルド」(左)という構成になる。私は少年チームの監督をしてきたが、左右、真ん中の区別は、選手を的確に配置しなければならない育成の現場では特に欠かせないものとなる。
ポジション別に見ていくと、FWは「デランテーロ」で「セントロ」をつけるとCFとなる。左ウイング=「エストレモ・イスキエルド」の代わりに左FW=「デランテーロ・イスキエルド」という言い方もできるが、ニュアンスは変わってくる。サイドに徹する、例えばネイマールは「エストレーモ」と呼んでも違和感がないが、ゴールに直接絡むロナウドは「デランテーロ」の方が響きが良い。FWは「プンタ」、セカンドトップは「セグンダプンタ」という俗称もある。
MFでは並びと役割によって区別される。「インテリオール」はインサイドで、真ん中は「メディオセントロ」。これが守備的だと「デフェンシーボ」がつき、攻撃的な「メ ディオセントロ・オフェンシーボ」はすなわち「メディアプンタ」である。ボランチは「ボランテ」とも呼ばれるがバスケットボール用語から来た「ピボーテ」が一般的だ。
DFはSB「ラテラル」とCB「セントラル」で、3バックも4バックも区別はしない。ただしSBについては3バックと4バックでは役割が大きく異なるため、指導者講習会では説明をつけて前者を「長距離のラテラル」、後者を「短距離のラテラル」と呼ぶ。前述のようにリベロはイタリア語そのままで、スペイン語表記の「リブレ」の方が廃れてしまった。ベッケンバウアー型の攻撃的リベロを「リベロ・アレマン」(ドイツ式リベロ)、カバーリング重視のいわゆるスイーパーを「バレドーラ」(ほうきで掃く人)と区別することもある。
GKは「ポルテーロ」(門番)が一般的だが、「アルケーロ」(アーク=枠を守る人)、「カンセルベーロ」(監獄で鍵をかける人)とも呼ばれる。
ポジション名講座シリーズ
①「スペイン編」
②「イタリア編」
③「ドイツ編」
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。