ブラジル視点で見た日本代表。密着取材で迫った「本音」とは?
日本代表 欧州遠征レビュー
現時点の実力を測る機会となった欧州遠征で強豪ブラジル、ベルギー相手に連敗を喫した日本代表。多くの課題を突きつきられたが、7カ月後に迫るW杯本大会へ向け特に課題とすべきポイントはどこか? 日本が1-3で敗れた10日のブラジル戦後もセレソンに帯同しイングランド戦まで取材を続けたブラジル在住ライターの藤原清美さんが、試合直後だけでは聞き切れなかった選手や監督、記者の日本評をレポートする。
今回のブラジルには、日本と対戦するのが初めてではない選手も少なからずいた。彼らは日本のサッカースタイルについて、過去の対戦とおおむね同じものだったという印象を受けたようだ。そして、手強い相手だったことも強調する。
チッチ監督の指揮下では初めてのスタメン出場となった右SBのダニーロは「日本とは何度か戦ったことがある。A代表同士では2014年、シンガポールで対戦(0-4でブラジルが勝利)した。いつでも技術的なクオリティが高い選手を多く擁するチームで、攻撃的なプレーを仕掛けてくる。加えて、守備も良くオーガナイズされている。今回もそうだった。僕らを多くの場面で難しくした」と振り返るとともに、前半で3点を先制できたのは日本の弱点からではなく、ブラジルが自分たちの長所を生かすことができたからだと続けた。
「僕らはパスワークやチームプレー、個々の嗅覚といったすべてのメリットを生かしてこの試合を僕ら側に引き寄せ、ポジティブな結果を出したんだ。特に、前半は凄くうまくいった。攻撃もできたし、試合を良くコントロールできた」
日本戦では控えに回ったもののその後のイングラド戦では先発出場したCBのマルキーニョスは、昨年のリオ五輪前に行われた五輪代表同士の親善試合(0-2でブラジルが勝利)が印象深いという。
「僕にとって日本と言えばあの試合だ。あの勝利から、僕らのオリンピック優勝への道のりが始まったからね。僕もゴールを決めるという名誉を授かった。最終的には2点差という結果になったとはいえ、凄く難しい試合だった」
また、彼もダニーロ同様、日本代表のサッカーについての確たるイメージを試合の前から持っていたのは興味深く、その言葉は非常に示唆に富むものだった。
「日本はポゼッションサッカーが好きで、ボールに対して良いプレーをするよね。アグレッシブで、受け身になるのではなく積極的に試合をコントロールしようとする。日本サッカーっていうのはそういうプレースタイルだ。いや、そういうサッカーが土壌にある、と言うべきかな。下部年代でも、いくつかの日本のチームと対戦したことがあるんだけど、いつでも、どのチームもサッカーのベースが同じだった」
そんなマルキーニョスの目に、ベンチから見守った日本はどう映ったのか。
「今回もそう。もちろん監督が違い、選手が違えば、それぞれに特徴はあるとしても、強い姿勢で試合に臨む、足下でボールをプレーし、攻撃にも出てくる、というのは変わらなかった。日本は美しいサッカーを実践しようとしている。良くトレーニングされたサッカーをするし、ポジショニングも良い。あとはこれを完成させていく、というところだよね」
ただ、最後は少し茶目っ気のある笑顔で「でも、僕らは勝つことができた。だから、リオ五輪の時と同じように、この日本戦の勝利から、ワールドカップへの良い流れを作れるといいよね」と付け加えることも忘れなかった。
厳しいメディアの視線
すでに日本でも報じられておりここでは紹介しなかった主力も含め、選手たちの口からは日本に対して肯定的なニュアンスの言葉が聞かれたのに対し、ブラジルサッカーメディアの論調は総じて厳しいものだった。
そんな中、日本の守備面に一定の評価を与えたのがブラジル代表取材の古株『CBSラジオ』のオジーレス・ナダウ記者だ。
「日本代表は、2つのポジティブな面を見せてくれた。1つは守備の良さ。良いGKがいる。PKを止めたことだけじゃなく、頼りになる守護神だ。CBも強い。その前で相手を封じ込める中盤の選手たちも強い。戦術的にも良く統率されている。もう1つ、中盤でのクリエイティブなパスワークは魅力的だ」
一方で、「厳しいのは攻撃。ゴール以外には、FKでボールがバーを叩いたことの他に何も生み出せていない。後半、ブラジルが選手を入れ替えて弱体化した時に日本はアグレッシブになったが、あそこでもっとゴールを決めなくては。引き分けてもおかしくない流れだったんだから」と指摘。
その上で、世界のサッカーにおける日本の立ち位置を考えると、守備が良いことは大きな期待に繋がると結ぶ。
「日本は攻撃サッカーを信条としていると聞くが、現時点で必要なのは強固な守備だ。それが良いところまできているんだから、もう少し攻撃面を改善していけば、ワールドカップで伝統国を脅かすことができるはずだよ」
「(ハリルホジッチ)監督は戦術的に、もう少しチームをトレーニングできるはずだ」と、ナダウ記者とは異なる印象を口にしたのは『Fox Sports』リポーターのフェルナンド・カイターノ氏だ。
「日本の選手たちの戦術への忠実さは称賛に値するし、フィジカル的にも良い。非常によく走り、意欲的なのが印象的だった。だから戦術面では特に、守備にもう少し注意を払ってトレーニングする方が良い。前半は、ブラジルに簡単にかき回すことを許してしまったからね。技術面は、パスやフィニッシュの精度など、選手たちがもう少し磨きをかけるしかない。ただ、空中戦は凄く良かった。ブラジルの意表を突くほどだった」
方向性はうかがえただけに、ワールドカップではその完成度を上げ、今よりもっと強い状態でスタートできるはずだと、前向きな言葉で締めくくってくれた。
最後に、ブラジルを率いるチッチ監督の試合前後のコメントに触れておきたい。
試合前、チッチは日本について「運動量の多いチーム。攻守の切り替えが早い。後ろからのボールに対し、フィルターの役割を果たすピボ(守備的MF)がいる。トライアングルを作って、サポートし合いながらプレーする」と分析し、警戒していた。
一方、試合直後は「経験豊富な選手が多く、我われブラジルと対戦するにも焦ったり、慌てたりすることなく堂々たるものだった。対等に戦ってきた」と、パフォーマンスではなく日本の姿勢への言及に終始していた。
ただ、3日後にあらためて話を聞くと「日本のような運動量の多いチームと対戦できたのは、ワールドカップへの準備の一つとして、非常に良かった」と、収穫を語っていた。
ブラジルのチーム内外から聞こえてきた分析や評価。この試合で見えてきたものが日本にとって、半年後の本番に向けた収穫の一つになることを期待したい。
Photos: Getty Images
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。