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小学生年代からすでに争奪戦。育成大国フランスのタレント発掘

2017.10.11

 昔からフランスは育成に定評のある国だ。すべてのプロクラブが育成部門を併設し、若手の指導に積極的に取り組んでいる。そこには、フランスリーグがスペインやイングランドのトップリーグのような「選手が目標とする最高峰リーグ」ではないという背景がある。ブラジルからパリ・サンジェルマンを経てバルセロナに羽ばたいたロナウジーニョのように、ヨーロッパ圏外の選手が欧州進出の“とっかかり”とする場であるなど、「受け入れ側」よりは「輩出側」なのだ。

 よって、イングランドで導入されているような「必ずチームに生え抜き選手数人を入れること」といったルールを設ける必要すらないと、国立養成所クレールフォンテーヌのディレクターは話す。

 この国で育成と言ってまず名前が挙がるのがそのクレールフォンテーヌだが、数年前から「レベルが下がった」と聞かれるようになってきた。フランスの育成事情に詳しい小栗和秀さんによれば、彼らの体制自体はまったく変わっていないものの、プロクラブの育成部門がより強化されたことにより、クレールフォンテーヌが必ずしも“最高峰”とは呼べないレベルになってきているのだという。小栗さんはPSGの育成部門でコーチを務め、現在はUEFA-Aコーチライセンスを取得中だ。

 優秀な選手を育てて高く売れれば財源になる、もちろん自チームでも活躍してもらえる、というのが各プロクラブが育成に力を入れる要因だが、近年顕著なのは若年齢化だ。

 フランスの育成システムは現在、13歳までを「サッカースクール」、13歳から15歳までを「プレフォルマシオン」、それ以降を「フォルマシオン」とカテゴリー分けしている。13歳までは国の規定で保護者の下で生活しなくてはいけないため、ほとんどのサッカー少年はアマチュアを含む地元のクラブで練習を積む。そしてプレフォルマシオンになって、どこへ入ろうか? という話になるのだが、以前はここで、プレフォルマシオンの専門機関であるクレールフォンテーヌを目指すことが最大のチャレンジだった。その上で卒業後にプロクラブのフォルマシオン入り、というのがエリートコースとされていた。

 「ところがここ最近は、プロクラブがサッカースクールの段階で将来有望な選手に目をつけ、早々に契約を交わしてしまうんです。強化はもちろんですが、環境面でもクレールフォンテーヌ同様に食事と宿舎、さらに学校教育も無料で提供するので、早い段階でプロクラブの下部組織に入る方が何かと好都合だと考える子供や父兄も多く、目立った子供はプレフォルマシオンの時点で引き抜かれていく。クレールフォンテーヌのセレクションに集まるのは、どのプロクラブからも声がかからなかった子供ということになり、その段階で以前とは差が出てきたわけなのです」と小栗さんは言う。

 かつて日本のJクラブのユースチームがフランスのいくつかの同世代チームと対戦した際、「クレールフォンテーヌチームは弱かった」と感想を漏らしたのを耳にしたことがあるが、これにはプロクラブとクレールフォンテーヌの育成方針の違いも絡んでいる。

 クレールフォンテーヌでは、「試合に勝つための指導」はしない。試合でもあくまでパフォーマンス重視だ。良いサッカーをしていればそれが勝利に繋がっていくという長期的なコンセプトであり、プレフォルマシオンならではの指導法と言える。「しかしプロクラブは、クラブの看板を背負っていることもあって、この年齢でも『試合には勝つ』という要素が必要とされます」

 実際、ここからプロ契約までこぎ着けるのは平均2、3人だという。そのため、すでに“将来有望!”と的を絞った選手を優先し、その育成に役立つメンバーを周囲に集めてチームを構成している場合もあるそうだ。

 さらにプロクラブは、練習生を集める段階のシステムも以前より格段に強化している。

 「フランスは広いですが、小さな町に潜む逸材も見逃さないよう、週末の試合などにはくまなくスカウトが送り込まれるようになりました。しかしいくらビッグクラブでも、さすがに大人数のスカウトマンは抱えられない。そこで、普段は別の職業を持つ人材を歩合制で雇い、彼らが良い選手を発掘したら報酬をもらえる、といったシステムがどんどん一般的になっています。良い選手の情報は常にプロクラブ間で交錯するので、例えば近年フランスの育成部門でトップを守り続けるリヨンは(※)、先手を打つべく町のクラブと積極的にパートナー契約を締結し、スムーズに選手を獲得できる環境を整えています」
(※)毎年フランスサッカー連盟は、プロ入りや年代別代表入りした人数、予算、指導者ライセンス、施設のレベルなどを点数で評価し、育成所のランキングを発表している。昨季は4年連続でリヨンが首位。以下PSG、トゥールーズ、ボルドー、モナコと続く

 リヨンは「Réseau Sport de l’Olympique Lyonnais」(オランピック・リヨネ・スポーツネットワーク)なる組織を形成し、今年1月にはパリ郊外ブローニュにあるアマチュアクラブを29番目の提携クラブに加えた。リヨンだけでなく、育成に力を入れるPSG、トゥールーズ、ボルドー、モナコらも似たような手法を取り入れている。

 育成所で指導を担当するコーチ陣は、クレールフォンテーヌの指導者養成所で教育を受けている。よって、どのクラブの育成所も基本はクレールフォンテーヌと同様の指導要綱で少年たちを育てている。したがって、各育成所間で差を生むのは、第一に緻密な情報網による練習生のスカウティング、続いて予算をどれだけかけるかで決まる設備等のレベルや、クラブ自体がどのようなプロ選手を備えているかという点だ。

 より多くの素材の中から選んだ原石を、より高度な手法で磨き上げる近年のフランス育成システム。その取り組みが、サッカー大国の一つとしてクラブ、そして代表レベルで世界のトップクラスに位置するための基盤となっている。

Photo: Yukiko Ogawa

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フランス育成

Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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