日本代表、アジア予選で見えたロシアW杯へのキーワードとは?
ボール支配率65%→42%が意味するもの
8月31日、W杯最終予選第9戦。日本はオーストラリアを攻守で圧倒し、FW浅野拓磨が巧みな裏への抜け出しから奪った“寿人ゴール”とMF井手口陽介がショートカウンターから突き刺した“ゴラッソ”でロシアへの切符をつかみ取って見せた。
勝つべくして勝ったと言うしかない完勝ゲームだったが、日本のボール支配率は33.5%。アジアのチーム相手にホームでここまでポゼッションで差を付けられることはなかなかないが、ハリルホジッチ監督が明確に舵を切って、意図的にボール支配を捨てていたことは明らかだった。中盤3枚の構成はMF長谷部誠をアンカーに、“猟犬”タイプの山口蛍と井手口を前に置く逆三角形。山口と井手口は相手のダブルボランチへ徹底的に食い付いて、はがされても追いかける絶対的な運動量で相手の心臓部が心地よく鼓動することを許さなかった。
一方、相手に“楽しくない”リズムで持たせながら、自らがボールを持てば、シンプルにフィニッシュまでやり切った。横パスは徹底して少なくして、縦へ鋭く前へ出る。かつて日本がアジアに対して負けパターンとして持っていた流れを逆にやってみせたとも言えるだろう。オーストラリアが最後まで「自分たちのサッカー」を貫き、ボールをグラウンダーでつなぎ続けてくれたこともそうした印象を後押しすることとなった。
これに対して、UAEに敗れた最終予選初戦などはまさにこの負けパターン。日本の支配率は67.1%でボール支配ではまさに圧倒しながらの敗戦だったのは示唆に富む。「ハリルホジッチ監督が何をしたいのかわからない」という批判はよく聞かれたが、確かに舵取りが曖昧に見えたかもしれない。だからこそ、より明確に舵を切った最終予選第4戦、豪州とのアウェイマッチが大きな意味があった。
この試合、日本はポゼッションを完全に割り切って捨てて戦い抜いた。ボール支配率は32.0%。ホームの豪州戦と同じ[4-1-4-1(4-3-3)]の配置からこの予選で最も低い支配率を記録しているのだが、ハリルホジッチ監督の狙いは明確だった。UAE戦はともかく、この試合について「何をしたいのかわからない」という評価はあり得ず、ここから「自分たちのサッカー」からの脱皮という志向は明確になった。
このアウェイ豪州戦以降の6試合で日本の平均支配率は約42%。それ以前の3試合の平均支配率が約65%だったのは圧倒的に対照的で、戦術的転換というよりも、サッカーに対する基本的な考え方の転換があったのは明らかだ。「第3戦までのサッカーでは勝てない」というのが指揮官の結論だったのだろう。ここから“ゆっくり攻める”力を持つFW本田圭佑の出番が激減していったのは一つ象徴的な出来事で、走れて潰せる選手たちがチョイスされる中で、MF香川真司が先発から外れていくのも必然的な流れだった。一方で、この2人の状態が悪いからこそ転換に踏み切ったという見方もできるかもしれない。
そして、問題はここからである。このスタイルを突き詰めてW杯に臨むというのは確かな方向性だが、あと9カ月あまりでどういう上積みを加えていくのかということだ。
一つはより「カメレオン」になっていくこと。“相手ありき”の考え方はブレないと思うが、相手の個性も戦い方も千差万別なのがW杯という舞台である。オーストラリアを相手に機能した今回の戦い方が全部の試合に当てはまるわけではない。というより、オーストラリアのように頑迷に同じスタイルにこだわって自滅するようなチームがW杯にいるかはかなり疑わしい。機能しないとなれば、試合中でも戦い方をいじって変化を加えてくるだろう。そこでより戦術的な柔軟性と多様性が求められることになっていくはずだ。
それを実現するためには、相応の駒が必要だ。現状の選手層で十分かと言えば、そうではないだろう。例えば5バックの選択肢も用意しておきたいと思うと、CBの層が薄過ぎる。高さのあるセントラルMFも欲しい(こういうのは言っていくと、切りもないのだが)。いずれにしても、アルジェリア代表がそうだったように、本大会でも各試合を同じメンバーで戦い抜くようなことは考えていないだろう。“相手ありき”で選手をセレクトすることになるはずだ。
戦い方のバリエーションを用意するという意味では、もう少し落ち着いて試合を運ぶ(=ポゼッションでゲームを殺す)必要性がある状況も当然考えていきたい。これはやり過ぎるとせっかく最終予選でつかんだ方向性が選手たちの中でブレてしまいかねないので諸刃の剣だが、おそらく指揮官も考えているはずだ。それが本田や香川の復権に繋がる可能性もあるが、より若い才能に期待を傾ける方がよりありそうではある。例えば柴崎岳はその候補だろうし、まだ代表にいない選手の抜擢もあり得る。
予選突破に至った過程とホーム豪州戦での勝利経験はチームにとって財産になるもので、監督の求心力にもなるものだった。今後は本大会に向けてダイナミックな選手の入れ替えもあるかもしれない。少なくとも決断をするための土壌が耕されたのは間違いない。次のサウジアラビア戦では、指揮官の考える本大会に向けた選考の方向性も少し見えてくる予感がする。
Photos: Kiyoshi Ota / Getty Images
Profile
川端 暁彦
1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。