世の中には、死んでも治らないようなバカもいるものだ。例えば、石器時代のような大昔のサッカー界で一般的だった、無駄に男臭い下世話なフレーズがいまだに口から出るのを止められないような連中であったり、あるいは昔ながらの先入観や偏見の中にしつこくしがみつき、パラレルワールドの中で生きているような連中であったり。彼らの頭の中では、女性はキッチンで働き、エロティックな駆け引きを行い、変態的な妄想を次から次へと膨らませていく……。
今シーズンからブンデスリーガ史上初めて女性審判が1部で笛を吹くことが発表されたのは、昨シーズンのフィナーレが迫った5月中旬。混迷を極めた残留争いや引退する名手たち、あるいは来季に向けた補強や体制変更など話題に事欠かない時期だったが、やはりと言うかなんというか、このニュースはSNSで瞬く間に拡散し人々の耳目を集めるに至った。
こうして、この件が特別なニュースとして価値を持ってしまうこと自体、ドイツサッカー界の好ましからぬ部分に光が当てられていることを意味している。社会への女性の進出が比較的進んでいるドイツでさえ、サッカーというのはいまだに男性が支配する世界の“最後の砦”だという意識は根強く残っていることを端的に表していると言えよう。
ジャッジの評価はトップ
そんな世界で、一人の女性が22人の高給取りのプロ選手たちや監督に、マナーやルールを躾(しつ)けることになる。ビビアナ・シュタインハウスという名前は、審判マニアのファンだけに知られているわけではない。彼女はすでの何年もの間2部で笛を吹いているし、1部でも第4審判を務めており、採点では常にトップの成績がつけられている。言ってしまえば、彼女のような能力があり、危なげなく試合を裁けるような人間がブンデスリーガで主審を務めることは極めてロジカルな帰結なのだ。ドイツサッカー連盟やドイツサッカーリーグの経営陣は、これが次世代へのシグナルになることを願っているに違いない。
これからは、女性もブンデスリーガの一端を、ピッチの上で担うという夢を見ることができる。とはいえ、そこに多くの困難が待ち受けているのは明白だ。
『ビルト』紙は何年にもわたってシュタインハウスを可愛い女の子のように「ビビ」と呼び、彼女の審判としての能力よりもスターレフェリーだったハワード・ウェブとの交際を伝える方に力を入れている。そんな彼女の扱い方を考えた時、もし彼女が誤審でもしようものなら……想像するだけでおぞましいものがある。
サッカーを日常的に見ている普通の人であれば、誤審は男女を問わず起こり得ることだと理解している。だが、サッカーファンは普通の人間ではない。死んでも治らないようなバカや、いまだに石器時代のまま時間が止まった人間がのさばっている世界なのだ。
Translation: Tatsuro Suzuki
Photos: Bongarts/Getty Images
Profile
ベンヤミン クールホフ
1981年生まれ。2009年からドイツ最大の月刊サッカー誌『エルフ・フロインデ―― サッカー文化のための雑誌』の編集部に所属し、現在はデジタル部門のマネージャーを務める。編集部では唯一のシャルカー(シャルケファン)である。