他クラブのファンから強烈な反発に遭いながらも、一時はブンデスの盟主バイエルンを抑え首位に立つなど快進撃を続けるRBライプツィヒ。その強さの源の一つに、スポーツディレクターであるラルフ・ラングニック仕込みの独特な戦術がある。いったいどんなメカニズムで成り立っているのか。月刊フットボリスタ第31号『戦術パラダイムシフト』で分析した記事を特別公開。
ダイナミズムと緻密な計算
異端の[4-2-2-2]
RBライプツィヒの守備時の布陣は、パッと見ると通常の[4-4-2]のように思える。だが、ドイツのメディアは敬意を込めて、それを[4-2-2-2]と表記する。明らかに通常の[4-4-2]とは異なるダイナミズムを持っているからだ。
まずは守備の時、「ボールがあるサイドに極端に寄る」のが特徴だ。ピッチに仮想の中央線を引いて左右に分け、フィールドプレーヤー全員がボールサイドに集まり、究極のコンパクトネスを生み出すのである。例えば、右前方にボールがあったら、左SBはピッチの中央線まで寄せるのがルールだ。それゆえにウォーミングアップも独特。試合開始前、フィールドプレーヤー10人がピッチの8分の1ほどのスペースに集まって[4-2-2-2]の陣形を組み、小刻みにステップを踏んでコーチがパスを出した瞬間に爆発的なプレスをかけるというメニューを繰り返し行う。まるで魚の群れだ。
ボールを奪ったら、今度は爆発的な縦への進撃が始まる。中央にいる2列目のMFと2トップが“正方形”を作りながら、一気に走り出すのだ。そしてリスクを負って斜めのショートパスを繋いでいく。トップスピードのためミスも起こるが、後ろから人が駆け上がってきているのでこぼれ球を拾いやすい。攻守においてアクセルを踏みっぱなしのサッカーで、ドイツでは「パワーフットボール」と呼ばれている。
相手が完全に引いた場合には、2CBと2ボランチでパス交換をし、ウイング化したSBの裏への飛び出しや、“正方形”に縦パスを入れて連係で崩す。もしそこで失っても再びプレスで奪い返すのが彼らの流儀だ。
そしてラングニック監督の真骨頂は、細かな布陣変更にある。ボランチを1人減らして[4-1-2-3]にし、前線の“正方形”を“五角形”にすることで相手を混乱させるのが常套手段だ。シーズン後半戦に入ってからは前線を“三角形”にする[4-2-3-1]を好んで使っている。いずれも攻撃陣が真ん中にぎゅっと集まっていることに変わりはない。現在ライプツィヒは2部の首位を独走している。来季1部の舞台で、多くの人がこの前衛的な新戦術に驚くに違いない。
Profile
木崎 伸也
1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。