アルシャビンは、まるでアイドル中央アジアでも変わらぬ人気ぶり
名優たちの“セカンドライフ” #16
欧州のトップリーグで輝かしい実績を残した名優たちが、新たな挑戦の場として欧州以外の地域へと旅立つケースが増えている。しかし、そのチャレンジの詳しい様子はなかなか伝わってこない。そんな彼らの、新天地での近況にスポットライトを当てる。
#016 from KAZAKHSTAN
Andrey ARSHAVIN
アンドレイ・アルシャビン
(カイラト/元ロシア代表)
ロシアでは「現時点で21世紀最高の自国選手」という揺るぎない評価を得ているアルシャビン。アーセナル退団後に復帰したゼニトでは徐々にベンチを温める時間が増え、昨季終了後に構想外となった。復活を期してクバンへと移籍するも、デビュー戦で負ったそけい部のケガの影響で出場8試合にとどまり今年2月に退団。中国からの高額オファーを「自分には遠い国」と断り、ロシア語で生活できる旧ソ連カザフスタンの強豪カイラトを「おそらくキャリアを終えるクラブ」として選んだ。
中央アジアでの現役続行にはゼニトで同僚だったティモシュクと、2012年まで10年間ロシア代表のコーチを務めたボロデュク監督(4月に辞任)の存在が大きな役割を果たした。特にウクライナの偉大な主将ティモシュクへの信頼は厚く、「彼がそこにいるということは良いところだという証」と練習に参加。資源マネーに支えられスポーツの発展に力を入れているカザフスタンのインフラの充実ぶりに安心し、「欧州で戦えるチームを作りたい」というボランバエフ会長の野心に共鳴した。
辞任したボロデュクの後を引き継いだツハダーゼ監督も、「当然主力として考えている。偉大な選手だが、若い選手たちとの練習でも謙虚だ。カザフスタンは彼のような選手がプレーしていることを誇りとすべき」と絶大な信頼を寄せる。
クラブはアルシャビンに広告塔としての役割も期待。その効果は即座に表れ、「プレーには興味がなくて、ただ僕を見に来るファンもいる」というアイドル的な人気もあり、ホームでの試合はいつも熱気に包まれる。アウェイでの観客動員数も加入前に比べて39%増加。9月には結婚式も挙げ、本拠地アルマトイの街で温かいファンに囲まれ充実した私生活を送っている。
錆びつかぬプレーで魅了
クバン時代に受けた手術の結果も良好で、現チームでは[4-3-3]の左FWとしてプレー。公式戦33試合に出場し10得点10アシストを記録した。運動量こそ多くはないが、一瞬で局面を打開できる技術は錆びついてはおらず、「問題はピッチ状態だけ。敵地のスタジアムがカイラトのように整っていればもっと活躍できるし、ロシアリーグでもまだ通用するだろう」と現地メディアも手放しで称賛する。
中でも圧巻だったのは国内リーグ第22節タラズ戦でのスーパーゴールだ。1-1で迎えた41分、ティモシュクからのパスを受けると、軽やかなステップで相手2人をかわし、GKの頭上を抜くループシュートで鮮やかにネットを揺らした。この動画はインターネットを通じて瞬く間に広まり、EURO2016での惨敗により停滞感が蔓延していたロシア国内では「アルシャビンは代表に必要か?」と大々的に特集が組まれるほどの反響をもたらした。
35歳のレジェンドは代表復帰に関して「僕の時代はもう過ぎ去った」と極めて冷静な反応を見せつつも、「もし自国のW杯でプレーできることになれば、宇宙に飛び立つようなものだね」とかすかな期待も抱いている様子。「自分は気が短いから指導者には向かないし、引退後はまだ何もわからない」と将来については口を濁しているが、カイラトでの復活劇を見ると2018年までそのことは考えなくて良いのかもしれない、と思わせられる。
<プロフィール>
アンドレイ・アルシャビン
(カイラト/元ロシア代表)
1981.5.29(35歳)
172cm / 69kg FW RUSSIA
1999-09 ゼニト
2009-11 アーセナル (ENG)
2012 ゼニト on loan
2012-13 アーセナル (ENG)
2013-15 ゼニト
2015-16 クバン
2016- カイラト (KAZ)
Photo: Getty Images
Profile
篠崎 直也
1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。