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酸いも甘いも…マンチェスターCレジェンズ列伝

2016.03.05

本誌「Game Labo」でもおなじみの大人気サッカーゲームアプリ「ポケサカ」で現在、マンチェスター・シティFCとのコラボレーションが開催中だ。そこで今回は、コラボを記念してゲーム内で掲載されている「マンチェスターCコラム」を特別に公開! 第2回のテーマは「レジェンド」。正統派から異端児まで、自他ともに認める強豪となる以前の時代を彩った名優たちにスポットライトを当てる。

 マンチェスター・シティの黄金期、それは今である。プレミアリーグでのクラブ歴代得点王であるセルヒオ・アグエロ、中盤の魔術師ダビド・シルバ、絶対的キャプテンのバンサン・コンパニといった現在もチームの中核を担う名手たちは、間違いなくクラブのレジェンドとして後世に名を残すことだろう。

 だが、実は以前にもシティには黄金期があった。多くのレジェンドが輝いた1960年代から70年代にかけてがそうである。1967-68シーズンのリーグ制覇を皮切りに、68-69にFAカップ、69-70にはリーグカップと、クラブ史上唯一の国際タイトルであるカップウィナーズカップ優勝を立て続けに成し遂げた当時のチームには、名ウインガーだったマイク・サマービーや「元祖ダービー男」と呼ばれた点取り屋のフランシス・リー、クラブ歴代最多出場記録(676試合)を持つ守護神アラン・オークスといった英雄たちがいた。

 その中でも特にファンから愛されたのが、「クラブ史上最高のMF」と称されるコリン・ベルだ。2013年に地元紙『マンチェスター・イブニング・ニュース』が選んだクラブの歴代レジェンドランキングで堂々1位に輝き、今もホームスタジアムのスタンドにその名が冠されている中盤のマエストロは、卓越したスタミナや運動能力に加え、MFながらクラブ歴代3位の153ゴールを記録した決定力が最大の武器だった。攻守にダイナミックなそのプレーは、現代ではランパードやジェラードに代表される“ボックス・トゥ・ボックス”のはしりだったと言えばわかりやすいだろう。

 そんなベルは、絶頂期だった1975年のマンチェスター・ダービーで敵の危険なタックルを受けて膝に重傷を負い、その影響で30代は輝くことができなかった。だが、こうした“悲運のスター”ぶりも、彼の存在がサポーターの心に深く刻まれた理由かもしれない。

 「背番号1はコリン・ベル、背番号2もコリン・ベル、背番号3もコリン・ベル……」

 イレブン全員がベルだったらいいのに。そんな思いをビートルズの名曲『イエローサブマリン』のメロディに乗せたチャントは、彼がピッチを去った後も長くスタジアムに響きわたっていた。

 ただ、裏を返せばその歌声にはひどく自虐的な意味合いも含まれていた。ベルの世代が抜けた後、1980年代からクラブは長い暗黒時代に突入。リーグを代表するようなスターは現れなかった。だからこそ、ファンはもういない英雄の名を歌い続けたのだ。

 1992年にプレミアリーグが創設された後も、シティは一介の中小クラブに甘んじた。2部や3部に降格したこともあったが、それでも地元民の熱狂に支えられた“カルトクラブ”には、愛すべき“カルトヒーロー”が生まれるものである。

 代表的なのはショーン・ゴーターだろう。バミューダ諸島出身のストライカーは2部時代の1997-98シーズン途中に加入すると4シーズン連続でチーム得点王になり、103ゴールをシティで積み重ねた。ファンは彼の名前をもじって「ゴート(ヤギ)にエサをあげればゴールを決める」と歌い、その活躍を称えた。プロ生活のスタートはシティにとって宿敵のマンチェスター・ユナイテッドだったがそこで大成できず、シティに流れ着いて花開き低迷期のチームを引っ張ったというその経歴も、ファンの心をくすぐったに違いない。また、彼はダービーにめっぽう強い“ユナイテッドキラー”としても有名だった。2002年、旧本拠メインロードで最後となったダービーで、13年ぶりの勝利をもたらした2ゴールは今も語り草である。

 1990年代から2000年代前半にはゴーターの他にも、真面目一徹の肉体派FWウーベ・ロスラー、「怠け者」と批判されつつも芸術的なテクニックを見せたゲオルギ・キンクラーゼ、「Le Sulk(不機嫌)」というあだ名を気にもかけずクールにゴールを連発したニコラ・アネルカなど、癖のあるアタッカーたちがファンを楽しませた。

 ベルやアグエロのように完璧なエリートではなかったかもしれない。それでも、一様に濃いキャラクターを持った彼らもまた、低迷期を知るファンの心に今も生き続けるレジェンドだ。

 まばゆい輝きを放つスーパースターからどこか影を持ったカルトヒーローまで、様々なカラーを持った選手たちがクラブ史を彩ってきたのも、浮き沈みを繰り返してきたシティというクラブの魅力の一つなのだ。

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寺沢 薫

1984年生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、2006年からスポーツコメンテイター西岡明彦が代表を務めるスポーツメディア専門集団『フットメディア』に所属。編集、翻訳をメインに『スポーツナビ』や『footballista』『Number』など各媒体に寄稿するかたわら、『J SPORTS』のプレミアリーグ中継製作にも携わった。

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