新スパイクに込められたアディダスの哲学とは?
現在発売中の第23号の特集「これからのフットボール」では、経営、戦術、監督、選手、移籍、FIFA、ファンなどあらゆる側面から、フットボールの向かう先に光を当てた。その中の一つ、「スポーツブランド」ではアディダス社の2人から話を聞いているが、ここではさらにアディダスのドイツ本社でゼネラルマネージャー(GM)を務めグローバルマーケティングの陣頭指揮を執るマーカス・バウマン氏から、革新的な新スパイク「X」と「ACE」にも投影されているアディダスの哲学について語ってもらった。
「X」と「ACE」
フットボール革命への自信
――今回は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。まずは簡単な自己紹介と担当されているお仕事を教えてください。
「アディダス本社フットボール部門のGM、マーカス・バウマンです。アディダスがスポンサーをしている選手やクラブ、一連のグローバルマーケティングやリアル店舗・オンラインで扱う数々の製品等、アディダスのフットボールビジネスに関わるすべての業務をマネージメントしています。アディダスに入社して20年以上経ち、最近行ったスパイクの大規模リニューアルも担当しました」
――おっしゃるように、スパイクのラインを「X」と「ACE」の2つに絞ったのは大胆な決断だったと思います。その動機を聞かせてください。
「アディダスがフットボール界のトップブランドとして現在のポジションを確立できているのは、絶えずイノベーションを起こしているからです。ビジネスはフットボールと同じで、止まっているわけにはいきません。大胆に、そして絶えず変化をすることで競争に勝つことができるのです。フットボールのゲームは変化し、現在はプレーヤーが『ゲームチェンジャー』と『プレーメーカー』の2つのクリエイタータイプに分かれることを、ペップ・グアルディオラやジョゼ・モウリーニョのような専門家たちとともに働くことで理解することができました。そこでアディダスはその2種類のプレーヤーに特化した『X』と『ACE』、そして世界最高の選手であるリオネル・メッシのために作った特別なスパイクを導入することで、このフットボール革命を牽引しようとしているのです。このスパイクに投入したテクノロジーは、どれも今までにはないものです」
――原点回帰とも言えるシンプルな構成に対する迷いや反対意見はなかったのでしょうか?
「今回の戦略は選手や監督、そして最も大切なユーザーの声を聞き、その声をもとに決断しています。我われが行ったリサーチでは、現在のプレーヤーは『ゲームチェンジャー』と『プレーメーカー』の2タイプに分かれることを示しています。『X』と『ACE』はこの見識から作られたスパイクで、必ず成功するという自信があります」
――フットボールを取り巻くテクノロジーはシーズンごとに進化を続け、競争も激化しています。新規参入メーカーも増える中でアディダスとして特に注力しているテクノロジーは?
「私たちは常にテクノロジーと製品を刷新しています。『X』や『ACE』にはアディダスがイノベーションの最先端にいることを証明する多くの新しいテクノロジーが含まれています。『ACE15』の革新的なアッパー素材「コントロールウェブ」には3層構造で改良されたEVAグリップが使われているため、ボールコントロール性に優れています。画期的な新しいスタッド配置は足裏でボールを動かす際により多くのスタッドがボールに接触する構造になっています。『X15』のテックフィットソックスは足首周りのコンプレッションフィットにより、優れたホールド性とフィット感を与える構造を実現し、X-CLAW(エックスクロー)ベースは軽量で完璧な摩擦力を生じさせるよう計算されています。革新的なX-CAGE(エックスケージ)は世界で最も大胆かつ機敏に動く選手のために作られました。補強を施し軽量にデザインされ、最も機敏な動きをする時に究極のサポート力を発揮します。X-SKIN(エックススキン)は複雑な3層構造となっており、どのような状況でも安定したプレーをサポートすることができる構造となっています」
次世代を担うプレーヤーをサポート
『THE BASE』に込められた想い
――プレーがギアとともに進化する一方、過密日程による選手の消耗やケガが懸念されます。ファンとしては選手を守る方向への進化もサプライヤーには期待していますが、「プレーヤーを守る」観点から具体的な取り組みや技術があれば教えてください。
「アディダスはブランドを構築する上で常にプレーヤー・ファーストを考えています。アディダスのスパイクはすべて何百人ものアマチュアプレーヤーやプロプレーヤーにより検証され、またFIFAの基準を満たし、それを上回っています。アディダスのデザイナーが展開してきたこの革新的なテクノロジーは、パフォーマンス向上とプレーヤー保護の両面において最高のものを提供していると自負しています」
――アディダスは単なるスポーツブランドの枠を超え、フットボールの世界に強くコミットしてきました。そのアディダスがこれまで果たしてきた役割と、これから果たすべき役割についてどう考えますか?
「アディダスはフットボール界においてリーディンググローバルブランドです。私たちは変化と革新を続けてこの地位を維持していきます。今回のフットボール革命は私たちが重要と考えているものを、どのように発展させ続けていくのかを表現できる最高の舞台です。私たちはプレーヤーが求め、最も必要としている製品やテクノロジーに注目しています。ボールコントロール性や機動性、ファーストタッチ等の重要な特性に焦点を当てることで、私たちは世界中のプレーヤーがピッチや練習場、ストリート、その他フットボールを行うどんな場所でも良いパフォーマンスを発揮できる製品を提供し続けることができるのです」
――フットボールにコミットする上で、哲学として最も大切にしていることは何でしょう?
「アディダスを形作っているアイデンティティ、アディダスを支えてくれるコンシューマー、そして選手のニーズを理解する、この3点により現在のアディダスブランドがあります。創設者のアディ・ダスラーが初めてスパイクにスタッドを埋め込んでから現在に至るまで、私たちはプレーヤーのニーズを満たすことを目指してきました。私たちの取り組みは、コンシューマーのニーズに合う製品を提供することが最大の目的なのです」
――今後、アディダスはプレーヤー、ファン、フットボールカルチャーにとってどういった存在でありたいと願いますか?
「アディダスはフットボールに対する3つの戦略的柱『スピード、シティ、オープンソース』があります。(14-15シーズンのチャンピオンズリーグ決勝が開催された)ドイツのベルリンで、アディダス初の永続的な都市型フットボール拠点となった『THE BASE』が開催されましたが、これは我われが理想とする3本柱を体現した典型的な例と言えるでしょう。『THE BASE』はベルリン出身の35人の若者のサポートにより考案されました。次世代を担うプレーヤーを様々な面からサポートするフットボールコミュニティで、ここからアディダスの戦略を導き出すことを目指しています。また、(本社のあるドイツの首都)ベルリンはアディダスにとっても重要な都市でもあります」
――最後に、アディダスが考える「これからのフットボール」について聞かせてください。
「ここまでお話ししてきたアディダスのフットボール革命がまさにそうですが、アディダスブランドはフットボールの未来を象徴する存在でありたいと考えています。現在はポジションという概念を超越した新しいフットボールのルールが生まれています。それに適応できる新しいクリエイタータイプは、ヨーロッパの壮大なスタジアムからだけでなく、ストリートサッカー――世界中の街や公園――からももたらされます。『X』や『ACE』は、フットボールというゲームがこれまでどのように変化し、将来どのように変化していくのかを考え、それをもとに私たちがどのように革新し続けてきたか――そうしたメッセージが込められた製品になっています。これからのフットボールにおいても、私たちはフットボールの発展を牽引する重要な役割を担っていきたいと思っています」
「X」と「ACE」の詳細などはアディダス公式サイト(こちら)でご確認ください。