パート4:敵将モイーズに披露したダイブの「お手本」
アヤックスやリバプール、ウルグアイ代表で活躍し、現在は強豪バルセロナに所属するルイス・スアレス。三度の噛み付き、ハンド、ダイブ、人種差別発言……本人がウルグアイでの幼少時代からバルセロナ移籍までの半生を赤裸々に語った初の自伝。昨年末に英国で出版された話題作が早くも日本上陸!
2012-13シーズン、ストーク戦のダイブで物議を醸した直後に行った“再犯”について、3月12日発売の「ルイス・スアレス自伝 理由」より特別公開!
試合中は、もちろんチームメイトもPKだと主審に訴える。そうではないとわかっていても、俺と一緒にアピールする。どのクラブのどの選手でも、そうするのが当たり前だ。その場で、ダイブは止めろと言ってくるチームメイトなんていない。俺がチームのために良かれと思って取った行動だと理解しているからだ。でも、練習中に簡単にゴール前で身を投げれば、「ファウルでも何でもないだろう。今日も倒れまくりだな!」って言われるよ。他の選手がぱったり倒れたりすれば、周りから「さっさと起きろ! スアレスから習ったのか?」という声が飛ぶ。
ある日、ダニー・アッガーが練習場に5歳の息子を連れてきた。大きくなったらサッカー選手になりたいのかと訊くと、そうだと言っていた。メルウッドのロッカールームにはリバプール戦のDVD映像がそろっているから、「これを見たら勉強になるぞ」と冗談を言いながら、自分が出た試合を収めた1枚を渡したんだ。
すると、「駄目、駄目。この子の夢はオリンピック級のダイバーじゃなくてサッカー選手だ」とダニーに言われた。
向こうの選手がダイブをすると愉快な気分になる
ダイブをする選手は他にも大勢いる。ただ、俺の場合はそのイメージが定着してしまっていて、貼られたレッテルを剥がすことが難しい。実際には俺よりはるかにダイブの多い選手もいる。そんな状況をわかってはいても、そう簡単にピッチ上での自分を変えることはできないんだ。相手チームの監督に非難された後、向こうの選手がダイブをすると愉快な気分になる。もちろん、その監督は自分の選手は非難しない。俺と同じ行動をしたはずなのにね。
チェルシーのジョゼ・モウリーニョがそうだった。俺を非難した彼の手元には、シミュレーションで警告を受けた選手が4、5人はいる。物議を醸したストーク戦の少し後に対戦したエバートンでは、監督のデイビッド・モイーズが、試合前の会見で俺を「ダイバー」と呼んで問題視した。ところが試合が始まってみると、エバートン主将のフィル・ネビルがダイブでイエローをもらった。俺を非難するのは勝手だけど、自分の選手もダイブをした事実は認めてもらわなければならない。チームのために何とかしなければと思うのが選手の心理というものだとわかったはずだ。であれば、「ダイバー」発言は撤回してもらいたい。
俺は、イングランドのテレビ番組に興味がなかったし、自分に対して挑戦的な発言をしている人物はいないかとチェックしていたわけでもないけど、新聞に目を通すことはあるし、人づてに自分に関するコメントが耳に入ることはある。モイーズのコメントは頭の中にあった。試合前日という発言のタイミングが気に食わなかった。だから、エバートン戦で先制ゴールを奪った俺は、彼の目の前でピッチに飛び込んでやった。
いいか、文句なら試合の後で言え
もともと、ゴールを決めたらそうするつもりでいたんだ。ストークのピュリスのように、俺がダイブをした試合の後で批判を口にするのは構わない。正当な行動だ。しかし、モイーズは試合の前に文句を言った。審判が俺のような選手に騙されなければいいと言っていた。心の中で「それなら俺のダイブがどんなものか、目の前で見せてやるよ」と、思わずにはいられなかった。
当てこすりのダイブは、狙っていたほど鮮やかには決められなかった。着地が思い通りにいかなかったんだ。でも、俺なりの返礼にはなった。楽しめるゴールセレブレーションだったよ。「いいか、文句なら試合の後で言え。試合の前には黙っていた方がいいぞ」と言い返せた気分だった。ダイブでゴールを祝うつもりだとは誰にも言っていなかった。チームメイトは一人も知らなかったし、妻のソフィも知らなかった。
おまけに、自分は記録上の得点者でもない。レイトン・ベインズの体に当たってコースが変わったシュートだったから、彼のオウンゴールとして記録されることになったんだ。それでも、俺は自分が先制ゴールを決めたのだと言わんばかりに、得点を祝って相手ベンチの前でダイブを披露した(その代わり、オフサイドの誤審で俺の決勝ゴールが幻に終わってしまった)。
● ● ●
審判がスアレスに騙されなければいい?
「それなら俺のダイブがどんなものか、目の前で見せてやるよ」
英国らしいブラックジョークでやり返したスアレス。
そんな彼に当のモイーズの反応は……。
この続きは本書でお確かめください!