パート3:悪魔の手?スアレスの手?ガーナ戦のハンドについて
アヤックスやリバプール、ウルグアイ代表で活躍し、現在は強豪バルセロナに所属するルイス・スアレス。三度の噛み付き、ハンド、ダイブ、人種差別発言……本人がウルグアイでの幼少時代からバルセロナ移籍までの半生を赤裸々に語った初の自伝。昨年末に英国で出版された話題作が早くも日本上陸!
2010年のワールドカップ、ガーナとの準々決勝で犯したあのハンドの舞台裏について、3月12日発売の「ルイス・スアレス自伝 理由」より特別公開!
シュートに手を出した俺を詐欺師と呼ぶ人もいる。しかし、言わせてもらえば、事の発端は審判の目を欺いてFKをもらったガーナ選手の行為にある。その流れから敵が最初に放ったヘディングにしても、オフサイドだった可能性がある。実際にオフサイドだったかどうかはわからないけど、自分にとって明らかだったことが2つ。1つは、俺たちの側にはFKを取られるようなファウルなどなかったということ。そして、自分はゴールライン上になどいるべきではなかったということだ。俺は手前で相手選手をマークしているべきだった。でも、通り過ぎていくボールを見て体が勝手に反応し、ゴールを守らなくてはと、ライン上まで下がっていた。
練習中の3対3や4対4のミニゲームでは、身を投げて相手のシュートを防ぐのが好きなんだ。手ではなく、普段は足か頭で防ぐわけだけど。代表の練習では、「ピカディート」と呼ばれる10対10のミニゲームも行われる。各自が様々なポジションをこなす中で必要になる「急造GK」は大概、俺の役目だ。本職の代表GKが目を見張るようなセーブを披露することもある。
俺のセーブ好きは昔からだ。モンテビデオの家には1枚のチーム集合写真が飾られている。サルトに住んでいた6歳の頃に所属していた、デポルティーボ・アルティガスというチームの写真だ。目をこらせば、後列中央のGKが俺だとわかる。
その2、3年後の試合でセーブに身を投げる瞬間を収めた写真もある。ゴールを守るのが好きなんだ。ストライカーになっていなければ、GKをポジションに選んでいたと思えるほどさ。こんなことを言うと、だからゴール前でよく身を投げるのか、と言いたい人もいるんだろうな。
■自分ではなくフシレのファウルだと合図をしてみた
プロの試合で急造GKを務めたことはまだない。リバプール時代に1度、実現のチャンスはあったけどね。あれは2012年4月のニューカッスル戦だった。後半も残り数分のところで守護神のペペ・レイナが退場になってね。でも、もうチームは交代枠をすべて使い切っていた。そこで、監督のケニー・ダルグリッシュにGKの代役を志願してみたけど、SBのホセ・エンリケにやってもらわないと困ると言われた。確かに、リバプールは2点を追う立場だったから、俺が必要とされていたのは自陣ゴール前ではなく敵陣のゴール前だった。だけど、いつかまた機会があれば、今度こそGKのグローブをはめて実戦のピッチに立ってみたい。
そんな俺は、ガーナ戦での相手セットプレーの流れの中で、無意識にゴールライン上にポジションを取っていた。クロスに飛び出すGKのフェルナンド・ムスレラと、ヘディングで競る相手選手の姿が目に入った。続いて飛んできたシュートは俺が膝でブロック。でもボールは、こともあろうに至近距離からのヘディングシュートとなって戻ってきた。そして、とっさに手が動いた。
最初は、目の前にいた味方の影になって「誰にも見られなかった」と思った。でも、主審の笛が鳴った。すると今度は別の考えが頭に浮かんだ。真横にいたホルヘ・フシレは、俺に似ているとまでは言えなかったけど、同じ黒髪で、同じくゴールライン上にいて、しかもこの試合中にすでにイエローを1枚もらっていたから、チームが勝っても警告累積で準決勝には出場できないことが決まっていた。そこで、主審の方を向いて、自分ではなく彼のファウルだと合図をしてみた。何かせずにはいられなかったんだ。
しかし、苦肉の策も主審には通じず、俺の目にレッドカードが飛び込んできた。
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南アフリカの地元紙には、
角が生えた自分の顔写真と「悪魔の手」という見出しがあった。
でも自分では、今でもそれほど悪質な行為をしたとは思わない――。
このハンド騒動にはスアレスの流儀が凝縮されている。
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