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フリック・バルサのエネルギッシュな鋭さの正体、“メッシアタックのグループワーク化”とは?

2025.04.05

開幕1614勝と好発進後、11月から324敗と一度は失速したバルセロナが、2025年に入って驚異の183分無敗。リーガでは9連勝で首位に返り咲き、CLは準々決勝、コパ・デルレイは決勝進出と、3冠に向けて快進撃を続けている。ハンジ・フリック監督がもたらした変化、再浮上に至る戦術的ポイントを、長年クラブを追うクレ(バルサファン)のぶんた氏に分析してもらった。

クライフのエモい香りと現代化

 ハンジ・フリックはクレの心にぼんやりとあったフラストレーションを吹き飛ばしてくれた。リスク覚悟で行う強気で攻撃的なフットボールは、失点もするがそれ以上に得点を奪う。そのスペクタクル性は単純にワクワクして、見ていて楽しい。そして強気ゆえの脆さが内包されていること。それでも意地っ張りなほどに強い信念を持ち合わせているところが、バルサの祖であるクライフのエモい香りを思い出させ、オールドファンの心もくすぐる。

 警戒していたシャビでも足をすくわれたように、異様なまでの雑音と邪気と無意味なしがらみの中、OB人事の監督ではこうもうまくいかなかっただろう。客観的に見える外部の人間じゃないとやれないことを持ち込み、それがうまくハマったという印象である。フリックはバルサに大きな改革をしたわけではなく、良いところはそのままに、足りなかった部分を鍛え上げてバルサのフットボールを現代化に馴染ませた。という感覚が一番合う表現かと思う。

 フリック・バルサがこれまでのチームと何が違うのか。まず現チームにはエネルギッシュな鋭さがある。監督の指示がクリアでわかりやすく判断に迷いがないことで生まれるプレーの鋭さだったり、それとリンクする個人の知性を集団の知性に転換して生まれるチームプレーの鋭さだったり、その総和として、チームに宿るエネルギーそのものにエネルギッシュな鋭さがある。

 細かいところを見ても何かと鋭い。ボール非保持でのファーストプレスの決定。選択肢を減らしてボールを奪う守備対応。アタッカーたちの2度追いもめちゃくちゃ鋭く、窮屈になった相手のバックパスに伴うDFラインの押し上げは異様なまでに速く鋭い。

 ボール保持では、マンマークのプレスを逆手に取り、作り出したスペースに対するフリーラン。強固な守備ブロックを敷かれても、手を替え品を替えゴールに襲いかかるコンビネーションプレー。フリックの原則を共有してみなが同じようにスペースを「解釈」し、「理解」したチームの連動そのものが鋭く、カウンタープレスにおけるボール奪取は火を吹くほどに凄まじく鋭い。

 また、個々ではヤマルのドリブルは止めようがないほどにキレッキレで鋭く、ラフィーニャのシュートは先輩リバウド並みに力強く鋭い。ペドリのスルーパスは鋭さの向こう側の「美」で、DFラインを切り裂いている。

 このようにピッチで表現されるエネルギッシュな鋭さが際立っているのは、技巧派集団に足りなかった屈強なフィジカルと持久力、しなやかなコーディネーション能力を向上させたことによるものだろう。Instagramのストーリーズでほぼ毎日見かけるのがゴムチューブを使ったトレーニング。関節の可動域を広げたり、筋肉の深い部分に負荷をかけたりして、どういう効力があるのか素人にはわからないが、フリックが取り入れたトレーニングがエネルギッシュな鋭さの何らかの扶助になっていると思う。

 そして、間欠的にそこそこのスピードでスプリントを続け、そこから前に飛び出して鋭くプレスを仕掛け、さらにそこから猛ダッシュで帰陣して守備ブロックにも参加する。前方にスペースがあれば間髪を入れずに前に出て、正しいポジションに入るという4局面を円環させる地味でしんどいフットボール的走力が鍛え上げられた。……

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ぶんた

戦後プリズン・ブレイクから、男たちの抗争に疲れ果て、トラック野郎に転身。デコトラ一番星で、日本を飛び出しバルセロナへ爆走。現地で出会ったフットボールクラブに一目惚れ。現在はフットボーラー・ヘアースタイル研究のマイスターの称号を得て、リキプッチに似合うリーゼントスタイルを思案中。座右の銘は「追うもんの方が、追われるもんより強いんじゃ!」

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