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田中碧=リーズに足りなかったもの。プレミア勢も放っておかない“2部MVP”の貢献【現地取材】

2025.04.03

今や昇格争い、最大のキーマン。昨年8月末にドイツ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフからイングランド2部リーズ・ユナイテッドへと移籍した日本代表MFの評価がうなぎ上りだ。加入後のリーグ全36試合に出場し、4ゴール2アシストという数字以上の影響力をチームに及ぼしている26歳の現在地をレポート。

リーズ史上「最大のバーゲン商品」で「最高の新戦力」

 チャンピオンシップ(2部)の年間最優秀選手――リーズファンに言わせれば、今季は「田中碧で決まり」ということになる。

 3年ぶりとなるプレミアリーグ復帰が実現すれば、日本代表ボランチの受賞も極めて現実的だ。リーズは、リーグ戦39試合を消化した時点で(全46節)、首位シェフィールド・ユナイテッドと2ポイント差の2位。勝ち点「81」は3位バーンリーと同数で、自動昇格を懸けたトップ2争いは三つ巴の様相を呈しているが、「51」の得失点差で、両ライバルに「9」以上の差をつけている。

 昨夏に、ドイツ2部から5億6000万円弱の移籍金で獲得された田中は、今季前半戦の段階で「クラブ史上最大のバーゲン商品」と言われるようになっていた。地元サポーターの間では、「クラブ史上最高の新戦力」との声まで聞かれた。中立的な目で今季のチャンピオンシップを見渡しても、“最効”の新顔であることは間違いないだろう。

 その事実は、3月29日の第39節スウォンジー戦(△2-2)で、逆に田中がピッチ上にいなかった58分間にも見て取れた。デビュー5戦目から、ほぼ不動のスタメンとなっている新MFのベンチスタートは、日本での代表戦から中3日というコンディションが要因の1つ。チームは開始35秒で先制し、前半は6割近くボールを支配したが、試合の流れは相手へと傾いていた。

 そこで後半早々、試合そのものを支配すべく田中の投入を見た。ホームのエランド・ロードは、ピッチサイドでウォームアップ中の田中にベンチから声がかかった瞬間に沸いた。

 クラブのベテラン職員からファンまでが、「とにかく落ち着いている」と評する田中は、タイトなスペースでもボールを要求し、広い視野と正確なタッチで繋いでみせる。ポジショニングも的確で、ルーズボールを拾っては、やはり的確にビルドアップに移行する。基本となる[4-2-3-1]システムの3列目に田中がいるリーズは、中盤深部におけるマイボールの扱いと、ポゼッション維持による試合の制御において、そろって守備的なイーサン・アンパドゥとイリア・グルエフが2ボランチを組んでいた昨季のチームをしのぐ。

 この日は、さすがにダニエル・ファルケ監督が危惧したコンディション不足も垣間見られた。例えば、64分の1失点目を招いたCKは、珍しく精度を欠いた田中のバックパスが与えている。もっとも、試合後の指揮官はバックパスという選択自体も「咎める気は毛頭ない」としている。記者席周辺の観衆も、CKをファンブルしたGKイラン・メリエのミスを、「またか」と嘆く者が多かった。

スウォンジー戦のハイライト動画

保持時と非保持時の双方で“ファルケ・ボール”の生命線に

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イングランドダニエル・ファルケチャンピオンシッププレミアリーグリーズ日本代表田中碧

Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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