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29試合ぶり無得点のサウジアラビア戦をどう評価する?「左右差」に惑わされた日本の現在地と行方

2025.03.27

日本の首位通過が確定したものの、29試合ぶり無得点に終わった北中米W杯アジア最終予選第8節サウジアラビア戦。「左右差」に惑わされたスコアレスドローから森保ジャパンの現在地と行方を、『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者、らいかーると氏がたどる。

 北中米W杯本大会出場が決まったことで、故障を抱えていた守田英正と上田綺世の離脱を発表した日本代表。「絶対に負けられない戦い」が終わったことを示している一方で、メディアは本大会グループステージの組み合わせを見据えて、ポット分けの基準となるFIFAランキングを維持するために残りの消化試合も勝たないといけないモードへと、導いているようだった。

 W杯優勝を目指しているならば、どんな位置づけの試合だろうが、自分たちの力を示す必要があることは間違いない。一方でラージグループの形成を目指すために、出場機会の少ない選手に公式戦の場に立ってもらうことも妥当な戦略と言えるだろう。

 そんな視点で埼玉スタジアム2002にサウジアラビアを迎えたアジア最終予選第8節のスタメンを見ると、森保一監督の決断は主力組の継続起用が基本であった。サプライズがあったとすれば、右CB高井幸大の抜擢だろうか。前節バーレーン戦で不安定なパフォーマンスを見せた瀬古歩夢に代わっての先発は案外、理に適っていたかもしれない。

 逆サイドは伊藤洋輝の連続出場と、信頼を感じさせる采配となっている。コンディション不良でベンチ外の三笘薫が空けた左ウイングバックの穴は、中村敬斗が埋めた。右ウイングバックに伊東純也ではなく、菅原由勢という選択は多少の意外性があったが、実は最もチャレンジングな起用法はカタールW杯ラウンド16クロアチア戦以来、キックオフから2シャドーに並んだことがない鎌田大地と久保建英の組み合わせだったのかもしれない。

CBの攻撃参加、中盤と前線のローテーション、6人目の合わせ技

 キックオフと同時に中村が立つサイドへ、ハイボールを蹴り込むサウジアラビア。高さで優位性が取りにくい日本のウイングバックの弱点を初手から突いてくる。代わりに後ろの伊藤が跳ね返すことに成功したホームチームの第一手は、前田大然を走らせることであった。最前線からのプレッシングだけでスタジアムを沸かせられる前田は、世界でも類を見ないCFかもしれない。かつての永井謙佑を彷彿とさせる快足の持ち主がハーフウェイライン付近でボールを引っかけ、単独で敵陣ゴールに迫った19分の場面は相手からすれば恐怖の一言だろう。

 序盤のカオスタイムはあっさりと終わりを告げ、早々に[3-2-5]でボールを保持する日本に対してサウジアラビアが[5-4-1]で撤退するというかみ合わせで試合は進んでいく。アウェイチームからすると勝ち点10差の首位との対決で、正面から殴り合う計画はまったくなかったようであった。1ポイントで十分な気配が濃厚な彼らは、相手にボールを持たせる展開へと持ち込んでいく。

 日本はバーレーン戦の反省を生かすように、久保と鎌田は相手のライン間に常駐することなく、そのブロックの外でボールを受け、代わりに左ボランチの田中碧を1列前に送り込むローテーションで、サウジアラビアのプレッシングルールの観察を始める。CFマルワン・アルサハフィが右ボランチの遠藤航を担当することがわかると、3バックが徐々に攻撃的な立ち位置を取ることでブロックの手前に起点をたくさん設けていった。

 守田の得意技でもある「6人目」としてゴール前への飛び出しを田中が行い、鎌田と久保を解放する仕組みは久しぶりで懐かしい。また高井、伊藤ともにサイド攻撃を支える後方支援役として高い立ち位置を試合序盤から取ることは、森保監督のチームとしては珍しいかもしれない。彼らが相手のサイドハーフを釘づけにすることができれば、前線の選手に時間とスペースが与えやすくなる。事実、中村の仕掛けが立て続けに生まれたのも伊藤のサポートのおかげだった。

 久保と鎌田に挟まれても機能する田中と、相手のマンマーク気味の対応を受けて重心を下げた遠藤のプレースタイルは真逆なのかもしれない。日本がボールをサイドに散らしていく中で9分には、一瞬の隙を見逃さない高井の縦パスと、狭いエリアでも止める・蹴るが光る田中の川崎フロンターレ出身コンビの関係性から、最後はスルーパスに抜け出した前田がポストを直撃する最初の決定機を迎えることとなった。

 直後にはまたも伊藤が地味な演出で、左サイドの同数対決をお膳立て。それを鎌田と中村がコンビネーションで制して入れたクロスは惜しくも前田が空振りしてしまったが、日本のチャンスが続いていった。CBの攻撃参加、中盤と前線のローテーション、6人目の登場と、[3-2-5]で積み上げてきたものを惜しみもなく披露していく。

 サウジアラビアは空中戦の時だけ、右サイドハーフに配置されたフェラス・アルブライカンが中央に登場して強さを発揮。本来のポジションはCFだと記憶しているので、不思議な策ではない。その高さに苦戦する場面が増えていく日本。マイボールの機会を確実に増やすためにしっかりと競り勝ちたいが希望は淡く、ロングボールを跳ね返す技術不足の問題は今後さらに表面化するかもしれない。

サウジアラビアの左右差で明暗が分かれた日本のWB

 サウジアラビアの[5-4-1]は、左右で守り方に違いがあった。チームとしてのルールなのか、個人の判断や習慣なのかは不明だ。試合全体を踏まえると、おそらく両方なのではないかと予想している。……

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サウジアラビア代表北中米W杯戦術日本代表

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』 (小学館)。

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