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「理想のシステムはない」。リバプールの快進撃を支えるアルネ・スロットの10の原則:前編

2025.01.06

2019-20以来となるプレミアリーグ制覇へ向け邁進するリバプール。好調の大きな要因となっているのが、名将ユルゲン・クロップを後を継いだアルネ・スロットの存在だ。「自分が理想とするシステムはない」と明言するオランダ人指揮官の指導力の根幹を成す、攻撃に関する10の原則を3回に分けて紹介する前編。

 ヨーロッパには指導者同士で「知」を共有する文化がある。

 オランダには『De Voetbal trainer』という雑誌があり、アンダー年代からシニア年代まで、いろいろな監督やコーチたちの練習メニュー、コンセプト、戦術、分析法がイラスト入りで細かく紹介されている。

 同誌の目玉企画は巻頭の名将インタビューだ。ルイス・ファン・ハールやロナルド・クーマンといった大御所から、ユルゲン・クロップの下でリバプールのコーチを務めたペピン・ラインダースやミケル・アルテタの下でコーチを務めるアルベルト・スタイフェンベルフといった名参謀まで、実力者たちが惜しげもなくノウハウを開示している。

 リバプールのアルネ・スロット監督もその1人だ。2017年にオランダ2部のカンブールを国内カップ準決勝に導いて注目の存在になった時、同誌で攻撃のフィロソフィについて語っている。

 今回はその中で語られている「攻撃における原則」を取り上げ、スロット流サッカーの解読を試みたいと思う。

 ちなみに同誌のインタビューでスロットは攻撃についてのみ語っており、守備については言及していない。今回、守備の話は出てこないことをご了承頂きたい。

 原則を深く理解するために、まずは46歳の指揮官の得点についての考え方について触れておこう。スロットは「効果的な得点手段」を次の4つに定義している。

(1)裏抜け
(2)マイナスのクロス
(3)セットプレー
(4)カウンター

 細かい説明は不要だろう。うまく裏に抜け出せればGKと1対1になることができ、マイナスのクロスは相手DFにとって最も守りづらい場面の1つだ。DFは短い時間で反応しなければならず、走り込んだ選手がパススピードを利用して強いシュートを打ちやすいからである。

 スロットの攻撃における最大のテーマは、この2つの状況を作ることである。

 スロットは原則について次のように考えている。

 「選手たちがサッカーというゲームを理解するうえで、原則は大きな助けになる。原則は特定のシステムに依存せず、あらゆる状況に適応するガイドラインを与えてくれる。私には自分が理想とするシステムはない。システムはチームにいる選手によって決まると考えている。だからこそ原則が大事なんだ。原則があればたとえシステムが変わっても、常に自分たちの信念を貫くことができる」

 それでは、1つずつ原則を見ていこう。

原則1:ボールがサイドにあったら、軸に返さなければいけない

 一般的に「攻撃は広く、守備は狭く」という考えが常識で、無意識にサイドにボールを送るチームも少なくないだろう。だがスロットの考えは異なっている。

 スロットは言う。……

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アルネ・スロットリバプール

Profile

木崎 伸也

1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。

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