プレミアリーグとCLリーグフェーズの両方で現在首位に立つ今季のリバプール。イングランド初挑戦のアルネ・スロット監督が見事な手腕で脚光を浴びているが、リバプールは社会貢献活動や地球環境に配慮した取り組みで大きな成果を挙げているスポーツクラブとしても世界中から注目を集めている。12月16日に東京都内のホテルで行われた「HEROs AWARD 2024」の受賞式にゲスト登壇するため来日した、LFCファウンデーション(リバプールFC財団)CEOのマット・パリッシュ氏(写真左)と、リバプールのサステナビリティ・プログラム「The Red Way」を主導するインパクト・ディレクターのリシ・ジャイン氏(写真右)に話を聞いた。
「イングランドのすべてのクラブが地域コミュニティを支援する活動をしています」
――「HEROs AWARD」は、社会貢献に取り組む日本のアスリートや団体を表彰するイベントです。今年の受賞者はプロボクシング選手の那須川天心さん、プロ野球選手の筒香嘉智さん、4大会連続でオリンピックに出場した元陸上競技選手の福士加代子さん、日本ラグビーフットボール選手会、パラリンピック選手の義足や車いすの無償修理と下肢切断者向けのランニングクリニックを行っているオットーボック・ジャパンでした。まずは「HEROs AWARD」に参加された感想を教えてください。
マット「ラグビー、野球、ボクシング、陸上など、様々なスポーツを代表するアスリートや団体がこの賞を受賞したのが素晴らしいと思います。様々なスポーツのファンにスポーツを通じて社会貢献ができることを知ってもらえますからね。また、プロスポーツ選手だけでなく元オリンピック選手やパラリンピック選手をサポートする団体が表彰されたのも素晴らしいです。アマチュア選手やパラアスリートにも活動の裾野が広がるでしょうから」
リシ「主催の日本財団の方から日本のアスリートやスポーツ関連団体の様々な取り組みについてうかがい、大きな刺激を受けています。素晴らしい活動をされているアスリートや団体を表彰するこのような場にお招きいただいたことを大変光栄に思っています」
――今年5月のフットボール・ビジネス・アワードで、LFCファウンデーションは地域コミュニティに最も貢献したクラブに与えられる「ベスト・フットボール・コミュニティ・スキーム」を受賞されましたね。おめでとうございます。
マット「ありがとうございます」
――2位はエバートンFCのチャリティ財団「エバートン・イン・ザ・コミュニティ」でしたが、2023年はLFCファウンデーションが2位で彼らが最優秀賞でした。マージーサイドの2クラブが2年連続で地域コミュニティに貢献したクラブに与えられる賞の1位と2位を独占したわけですが、スカウサーであることと地域貢献活動には何か関係があるのでしょうか?(笑)
マット「リバプールという街には、助け合いの文化が根付いているということでしょうね。もちろん、リバプールとエバートンだけでなく、イングランドのすべてのクラブが地域コミュニティを支援する活動をしています。イングランドのフットボールクラブの多くは貧困率が高い地域にありますが、中でもリバプールとエバートンがある地域はイギリスで3番目に貧しい地域で、十分な教育が受けられない若者や、必要な福祉サービスを受けられない高齢者が多いのです」
――イングランドのフットボールクラブが、フットボールだけではなく地域コミュニティを支援する活動をしているのはなぜなのでしょうか? いつから取り組むようになったのでしょうか?
マット「イングランドのすべてのフットボールクラブが、そのクラブが本拠地を置く地域のコミュニティから生まれました。130年前からスタジアムに足を運び続け、クラブを支え続けてくれているのは地域住民のみなさんです。同じ地域に暮らす住人同士、家族のように支え合い、助け合っていくのは当然のことです。地域コミュニティを支える活動は、多くのクラブが創設時から当たり前のようにしていたと思います。エバートンのように教会によって創設されたクラブも多いですからね。
ですが、多くのクラブが公式に地域貢献活動をするようになったのは30年ほど前からです。10〜15年ほど前には、LFCファウンデーションのような公式財団を立ち上げるクラブも増えました。フットボールクラブの影響力はピッチ内にとどまらないことをどのクラブも自覚しています。フットボールクラブは人々のロールモデルになり、社会に変化をもたらすことができる存在なのです。グローバル化が進む現代世界において、リバプールのようなクラブのブランド力が持つ影響力は世界中に広がっています。LFCファウンデーションは、今ではリバプールやイングランドだけにとどまらず、アフリカの3つの国とダブリン(アイルランド)、そしてニュージャージー(アメリカ)でも活動しています」
「アンフィールドで一晩寝てみれば、路上生活者の気持ちを少しだけ理解できるだろうと」
……
Profile
田丸 由美子
ライター、フォトグラファー、大学講師、リバプール・サポーターズクラブ日本支部代表。年に2、3回のペースでヨーロッパを訪れ、リバプールの試合を中心に観戦するかたわら現地のファンを取材。イングランドのファンカルチャーやファンアクティビストたちの活動を紹介する記事を執筆中。ライフワークとして、ヨーロッパのフットボールスタジアムの写真を撮り続けている。スタジアムでウェディングフォトの撮影をしたことも。