「その場凌ぎはしない」。選手たちが腹をくくる強烈なアタッキングフットボールで2年連続昇格に導いた栃木シティ・今矢直城監督の矜持とは?【インタビュー後編】
栃木シティが関東リーグ、JFL(日本フットボールリーグ)を2年連続で突破し、クラブ史上初めてJ3参入を決めた。チームを率いる今矢直城監督は、かつて横浜F・マリノスで指揮したアンジェ・ポステコグルー(現トッテナム)の通訳を務めた経歴を持つ。
躍進を続ける栃木シティの今矢直城監督が拘り抜く哲学とは何か。後編では栃木シティで貫き続けるアタッキングフットボールの要諦について聞いた。(このインタビューは12月3日に収録した)
選手たちが腹をくくった地決の敗戦
――ここからは今季の栃木シティについて伺います。3年で関東リーグ、JFL、J3とステップアップしてきた手ごたえはどうですか?
「外から見ると、順調に来たように見えるかもしれませんが、中にいた人間はけっこう苦しかったと思います。それこそ、1年目は地決(全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)の決勝に敗れて、昇格できなかったので。新しいサッカーをやる意味で、1年目は過渡期ではあったけど、昇格できるチャンスもあったのに、それを逃したのは事実ですから。振り返ってみると、必要な負けだったのかもしれないし、あの負けが今年J3に上がれたことに繋がっているのかもしれません」
――それはどんなところで?
「やり方を変えなかったことですね。当時の地決決勝、ブリオベッカ浦安との試合は引き分けでもOKだったんですよ。だから『攻撃的に行くのはいいけど、もったいないのは?』という声はコーチも含めて、たぶん選手からもあったと思います。でも僕はやり方を変えず、通用しなかったら、それは自分たちの力不足、僕の力不足というだけ。その1試合だけを勝ちに行くとなると、確かに他の方法もあったかもしれないけど、それで僕がクビになったら、もうしょうがないなと。自分たちの勝ち方、負け方があるので、あれは自分たちの負け方だった(浦安に1-3で敗戦)。それはある意味、この監督はこういう感じなんだなと、良くも悪くも伝わったんじゃないかって。こいつは、よっぽどのことがない限り、戦い方は変えないんだなって。
僕はこのチームで、1年目の最初の日に言ったことがあって、『どのリーグでも通用するサッカーを俺はやりたい』と。だから勝ち方も負け方も、そのやり方で行く。その場しのぎはしないよ、と。それが繋がったと思うんですけどね。その後2年連続で決勝まで勝ち上がって、優勝が懸かった試合で4-0、6-0と大勝しましたから。そういう緊張感がある大事な場面で、自分たちらしさを出せるのは、まぐれではないと思います」
――今季6節の浦安戦でも、前半1-0で折り返した時、選手が守備の修正とか、どうやってウノゼロ(1-0)で締めるかみたいな話をしている時、今矢さんが全部ぶった切って、後半はさらに攻撃的に戦い、3-1で撃ち勝った試合がありましたよね。
「あれこそ、まさに勝ち方ですね。どの勝ち方だと僕が納得するのか、ということと、もう1つは優勝から逆算してほしかったんですよね。それは強く言いました。これでいいの? この受け方でいいの? 俺から見たらビビってるよ?って、もうそこだけ。今年一番強く言ったのは、そこだけですね。普段は選手に対してそんなことは絶対に言わないので。『これも受けてない』『これも受けようとしてない』って、映像を示しながら。
あの時は開幕から3敗して、2勝3敗で流れがあまり良くなかったんですけど、この勝ち方を許しちゃダメだ、優勝するならこの勝ち方でOK、ブラボーとは言えない。勝つんだったら、自分たちの勝ち方でやろう、と。
みんな、そわそわしている時ですよ。ここで負けたらどうなるの、とか、まさにそういう試合ですよ。それこそ何とか守って勝って、しかも前半にセットプレーで1点取っているので」
――しかも、それまでの5試合も、2、3失点した試合が多いから、なおさらこの1点を守り切って、1-0で抑えようみたいな意識になりやすいですね。
「そう。特にJ1、J2を経験した選手ですね。そういう選手の方が、守りのメンタリティに入ってしまう。だから僕も、『チャンピオンメンタリティを持つ』『こんな勝ち方はしない』とはっきり言いました」
――今矢さんが今季のターニングポイントを選ぶとしたら、この6節の浦安戦ですか?
「1つ選ぶとしたら、そこですね。チームが腹をくくったなと。既存の選手たちは、それもわかっていたんですけど、特に新加入選手ですね。当時のハーフタイムについて後で奥井(諒)から言われたのが『いやもう正直、うまくいってると思っていたので、今矢さんがあの言葉を言ってくれた時、迷いを捨てました』って。だから後半、1-0を2-0にできたし、そこから2-1にされたけど、普段だったら追いつかれて……となるパターンだけど、当然3点目を取りに行くでしょ、と。実際に3-1で勝って、こういう勝ち方があるんだと実感させることができました」
――J1を経験した選手というのは、まさに奥井選手ですか。経験豊富ですからね。
「そうですね。チームナンバー1と言ってもおかしくない。奥井と山崎(亮平)あたりはいろいろな監督とやっているから、その経験値があるゆえに『そうは言っても勝ち点3が大事じゃん』という思考になりやすかったので」
18戦無敗のチームがまとっていた『組織効力感』
――なるほど。大きなきっかけでしたね。その後は年間の成績を見ていると、気になるのは12節アトレチコ鈴鹿戦に1-5で敗れた後から、18戦無敗の逆転優勝が始まっているので、ここもターニングポイントなのかなと思ったんですが。……
Profile
清水 英斗
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。