[4-4-2]に対してポゼッションを安定させて試合をコントロールすべく、現代サッカーで定石化したボール保持での[3-2-5]配置。マンツーマン志向の対策が進む中でマウリツィオ・サッリ、トーマス・トゥヘル、ロベルト・デ・ゼルビ、そしてペップ・グアルディオラら戦術家たちが工夫を凝らしながら様々な派生を生んできたが、その先を行く現代版[4-4-2]とは?リバプール、ユベントス、ナポリが採り入れる最新トレンドをらいかーると氏に解説してもらおう。
こんにちは。らいかーるとです。この世界で仕事をもらったきっかけは、ブログに試合の感想を延々と書いていたことでした。最初の依頼はスポナビ(『スポーツナビ』)からお願いされた日韓戦の分析記事だと覚えています。記憶が正しければ本社に出向いて、その場で試合の解説をしたような。その後もいわゆるネットメディアから声をかけられるようになり、幸運にも継続して寄稿の機会をいただいている現状であります。
繰り返しになりますが、きっかけはブログに試合の感想を延々と書いていたことです。マッチレポートと呼ばれるものですね。ピッチで何が起きているか、どのような変化が生まれているか、両チームが何を解決しなければいけないかを丹念に、淡々と文字起こししていく作業です。その下敷きとなる考え方の1つが配置の噛み合わせ論でしょう。
サッカーの解説でも聞いたことがあるのではないでしょうか。「アンカーの脇にどのように選手を置くか」「相手のプレッシングが2枚なのでビルドアップは3枚で行った方が良い」「両チームのフォーメーションを照らし合わせるとウイングバックの周りにスペースが生まれやすい」――マッチレポもこのようなシステムの噛み合わせを考慮して書かれる時代が今も続いています。[3-2-5]に対して[5-2-3]で対抗するミラー戦術は、それに準拠したものと言っても過言ではありません。
しかし、現代のサッカーは噛み合わせ論を物差しに解説したり、マッチレポを書いたりすることが段々と難しくなってきています。わかりやすいのは可変システムです。ボール保持と非保持で配置を変更する作戦で、アンカーがCBの間に移動する、SBがアンカーの横でプレーするくらいだったら、噛み合わせ論で消化することも可能でしょう。しかし、今や選手の移動はますます複雑怪奇になりつつある。本当の意味でシステムが電話番号でなくなりつつある時代が訪れようとしています。
そんな変遷に想いを馳せることが本稿の目的です。ボール保持時での猫も杓子も[3-2-5]の時代から流動的な[3-2-5]、そして蘇った[4-4-2]についてみんなと考えていくものとなります。
デ・ゼルビ、サッリ、トゥヘルが生んだ[3-2-5]の多様性
ボール保持によるゲーム支配が流行を示す中、[4-4-2]で行われる中途半端なハイプレッシングに対して、噛み合わせの都合でポゼッションを安定させやすい[3-2-5]は世界中で流行しました。ゆえに、現代サッカーでは標準になりつつある相手のビルドアップにはマンマークで対応する策が一般的になっていきます。そこでマウリツィオ・サッリの提案による3人目の活用と、ロベルト・デ・ゼルビの提案によるセントラルハーフ同士の関係性での状況打破など、ボール循環による解決策を各チームが取り入れていくにつれて[3-2-5]にもバリエーションが生まれるようになりました。
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。