プレミアリーグ4連覇中のマンチェスター・シティが、直近の公式戦は1分6敗とグアルディオラ体制では過去に例がない深刻な不調に苦しんでいている。そこでグアルディオラのサッカーをウォッチし続けてきたエリース東京監督の山口遼氏に、ペップ・シティに何が起こっているのか分析をお願いした。
前編では、戦略と戦術の2つのレイヤーから今季の不調の原因を「3つのエラー」に分類して掘り下げてもらった。
「序盤の不調」はペップ・シティの恒例行事だが…
ペップ・シティのこの時期の不調は毎年の恒例行事とも言えるかもしれないが、それにしても今年は負けすぎ、失点しすぎではないのかという声が大きくなってきている。
ペップ・シティはリーグ戦は4連敗、公式戦で言えば7戦勝ちなしと出口の見えないトンネルを抜け出せず、特にスポルティングやトッテナムに4失点を喫するなど、失点の多さは看過できないレベルである。直近のプレミアリーグではリバプールになすすべなく完敗を喫したが、最近のパフォーマンスを考慮すればこの結果を意外とも言えなくなってしまった。
このような事態を受けて、ペップ時代の終焉が叫ばれている。特にスポルティングのアモリムや、ブライトンのヒュルツェラーなど若い世代の監督に敗れたこともあり、そういった声は確実に高まってきていると言えるだろう。
冒頭にも述べた通り、ペップのチームはシーズン後半に尻上がりに調子を上げていくことが多く、序盤の不調はある意味想定内という部分もある。これは、シーズン序盤は最適な戦術やメンバー組みを見出すための実験的な位置づけで臨む試合が多いことや、代表戦やインターナショナルコンペティションなどの影響で年内はコンディションの足並みが揃わないことなどが原因と考えられている。
今シーズンに関しても、例によってシーズン後半には最適解を見出し、華麗に連勝を積み重ねる“いつものシティ”になっている可能性も十分ある。しかし一方で、“この時期の苦しさの度合い”が年を追うごとにジリジリと増してきているように感じる部分もある。後半戦の巻き返しを考慮したとしても、この時期の乱れ方の幅が広がってきている事実は、マンチェスター・シティという牙城にゆっくりと、しかし着実にヒビが入ってきていることを示唆しているのではないか。
そこで、今シーズンの不調を分析することで、この連敗をあらためてどのように評価すべきなのかについて考察してみよう。
とは言ったものの、今季の不調を分析すれば、その原因は比較的わかりやすい。大きく分類すれば以下の3つに集約されるだろう。
①相次ぐ負傷者(外的要因あり)
②主力の経年劣化(戦略のエラー)
③中盤と前線の獲得戦略(戦略のエラー)
ロドリを筆頭にした「負傷者の増加」は仕方ない?
まず、言うまでもなく今季の不調の最も大きな原因になっているのはロドリの長期離脱だろう。ロドリの戦術的役割の大きさに言及するまでもなく、そもそもバロンドーラーを失ってグラつかないチームの方が珍しい。バロンドールを獲得した選手を失うとは、すなわちメッシやクリスティアーノ・ロナウドなどを欠くことと同じだ。逆に言えば、「今季は本当にまずいのでは?」と感じさせるほど不調なシティだが、ロドリさえいれば大きな躓きもなく勝ち星を積み重ねられていた可能性は十分にある。
さらに、今季はロドリだけでなく負傷者やコンディション不良者が相次いでいる。フォーデンは開幕から2カ月ほどコンディション不良でほとんど試合に絡めず、デ・ブルイネも試合を欠場しがちで中盤の層が心許なかった中で、ロドリの穴をなんとか埋めてくれていたコバチッチが負傷したことで中盤のコントロール能力は明らかに低下してしまった。
DFラインに関してもアカンジやアケ、ルベン・ディアス、ウォーカーらが次々に負傷し、大敗したスポルティングとのCLでは明らかに経験が不足しているシンプソンプシーを起用しなければいけない状況だった。これらの負傷者の中でも最も厳しいのが、ウイングが軒並み負傷したことだろう。ドクやグリーリッシュといった既存の面々に加え、新加入のサビーニョまで負傷したことでいよいよウイングにマテウス・ヌニェスを起用しなければならない非常事態になり、この状況でこれまで通りの内容で勝ち続けろという方が理不尽というものだろう。
これら負傷者の続出は、もちろんチーム内での疲労管理といったコントロール可能な領域の話も含まれはするが、やはり近年繰り返し問題提起されている欧州フットボールの過密日程が無関係ではないだろう。アーセナルのエデゴーやレアル・マドリーのミリトンやアラバも含め、今季は特に主力の金属疲労からの長期離脱が多く、どのチームにも降りかかる可能性のある火の粉であり、チームでのマネジメントや単純な結果論とは別に考えるべき問題だと言えるだろう。
もはや覆い隠せなくなった「世代交代の失敗」
マンチェスター・シティというクラブが抱える本当の問題は残り2つの方だ。……
Profile
山口 遼
1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd